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所作も動作も女性らしく柔らかで慈愛に満ちた物そのものであったが、レイブの興味、いいや正しく言えば注意、もっと正確に表現するなら警戒心を刺激したのは彼女が身に付けていた装束、ハッキリ言えば装備品、重厚な戦闘用の数々の煌(きらめ)きである。
差し出された腕のガントレット、開いたローブの奥に見えたアーマーとガーダー、踏み出した足を覆う脛(すね)当てグリーブまで揃って真紅の金属で拵(こしら)えられた、強固でかつ自分の師匠などには手も出せないほどに高価そうな物ばかりだったからである。
所謂(いわゆる)フルプレートアーマー×高級品…… 声も出せないほどビビッてしまうには充分過ぎるのではなかろうか? レイブは思う。
――――キラキラじゃないかぁ~! 一体どれ位の枚数のコイン、ううん、カネだったかな? それを払えば交換して貰えるんだろうかぁ! バストロ師匠じゃあ一生掛けても一部位すら手に入れられないんじゃないのぉ、これってぇ?
そう考えて固まってしまっていたレイブの髪から、撫でていた手を離したフランチェスカは、その手を腰に差した長剣の柄(つか)に移し、すらりと抜き払ってレイブの顔の前に掲げて、相変わらず抑揚の無い冷淡な声で言う。
「いけない事なんか無いよレイブ、アンタじゃなくてね、悪いのはアタシの弟バストロなんだからね…… ほら、見てご覧なさい! 獣奴(じゅうど)の血抜きや竜の鱗剥ぎにはね、こう言った剣や刀、ナイフを使わなければいけないんだよ? 所謂(いわゆる)、それ専用の物がちゃんと有るんだからね、大方貧乏を拗らせた馬鹿な弟がケチって適当な事をアンタに教えたんだと思うわ…… 全くあの馬鹿がっ、お姉ちゃんが叱ってやるからね? レイブは心配しなくて良いんだよ? 師匠が馬鹿過ぎるだけなんだからね? ね、ね?」
「えっ? えっ?」
『お嬢、それは誤解じゃぞい! 本当にこのやり方は昔の魔術師達が――――』
「ええいヴノっ! 分からず屋には説明無用だっ! トウッ!」
質素な襤褸(ぼろ)切れをそこらで拾って来たらしい植物の蔓(つる)で縛り付けた衣装を身に付け、崖下から勢い良く飛び出てきた男はフランチェスカの背後に着地するのであった。
因みにこの格好はレイブもお揃い、北の魔術師(貧乏)にとって普段着として認知されていたのである、黒いフードローブはオマツリ用、余所(よそ)行きのお洒落なのである。
自身の背後を容易に取ったバストロに対して、一瞬後に向き直ったフランチェスカは無表情なままの視線を外さないままで言葉を発する。
「バストロ、久しぶりね…… 五年ぶりかしら? 相変わらずの馬鹿みたいだわね、アンタがそれで良いとしても弟子の事も少しは考えなくては駄目じゃないの? 弟子の育成、養育、それだってアタシ達魔術師が先達(せんだつ)から譲り受けて、そして後進に伝えていかなければいけない責任だわ、そうでしょ? だと言うのにアンタと来たらいつまでも子供の頃と変わらない――――」
「ええいっ! 小五月蝿い(こうるさい)口はこうだっ!」
フランチェスカの言葉を無理やりの叫びで遮ったバストロは、異常に逞しい両腕で彼女を抱きしめて、間髪いれる事無く、自分の唇を彼女の少しカサ付いた唇に重ねてしまったのである。
目を見張るレイブの前で二人はキスをし続け、やがてフランチェスカの握っていたそれ専用の真っ赤な剣が力なく地に落とされ、彼女の両手もバストロと同じく接吻相手の体に沿い、確(しっか)りと抱きしめたのである。