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(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆ スコスコスコスコスコスコ
外の空気は、思ったより冷たかった。
玄関を出た瞬間、
らんの肩が小さく揺れる。
それに気づいたのか、気づいていないのか、
いるまは何も言わない。
ただ、
歩く速さだけ、
ほんの少し遅くなる。
住宅街の道。
見慣れたはずの景色。
でも、
らんにとってはまだ“慣れていない世界”だった。
遠くで犬が吠える。
自転車が通り過ぎる。
知らない人の笑い声。
ひとつひとつに、
体が少しだけ強張る。
隣を見る。
いるまがいる。
ポケットに手を入れて、
前を向いて歩いてる。
いつも通りの顔。
特別なことは何もしてない。
守るって言葉も、
大丈夫って言葉も、
言わない。
でも。
(……いる)
それだけで、
ちゃんと立っていられる。
スーパーの自動ドアが開く。
人の声。
カゴの音。
レジの電子音。
一気に世界が近くなる。
らんの足が、
一瞬止まる。
いるまは、
気づく。
気づくけど、
「大丈夫か」とは言わない。
代わりに、
少しだけ、
立ち位置を変える。
らんの半歩前。
でも、
振り返らない。
「……らん」
低い声。
「なに」
「ついてこい」
短い言葉。
それだけ。
らんは、
小さくうなずく。
「……うん」
店の中を歩く。
カートの音。
人とすれ違う。
知らない匂い。
知らない声。
怖い。
でも、
目の前に、
いるまの背中がある。
その背中だけ見て、
歩く。
牛乳売り場。
いるまがパックを取る。
「どっち」
突然、聞く。
「え?」
「安い方か、いつものか」
らんは、
少しだけ近づいて、
値段を見る。
「……こっち」
安い方を指さす。
いるまは何も言わず、
それをカゴに入れる。
否定も、
評価も、
しない。
ただ、
選んだことを受け入れる。
それが、
少しだけ嬉しい。
レジに並ぶ。
前に人。
後ろに人。
逃げ場がない。
らんの呼吸が、
少し浅くなる。
そのとき。
カゴが、
すっと、
らんの前に来る。
いるまが、
位置を変えた。
らんを、
列の端側にする。
人の圧迫が少ない位置。
「……」
らんは、
何も言わない。
言えない。
でも、
ちゃんと分かる。
(守られてる)
言葉じゃなくて、
動きで。
店を出る。
外の空気。
一気に、
肺が楽になる。
「……はぁ」
小さく息が漏れる。
「疲れたか」
いるまが聞く。
責める声じゃない。
ただの確認。
「……ちょっと」
正直に言う。
隠さない。
いるまは、
「そうか」
それだけ。
帰り道。
さっきより、
少しだけ近い距離で歩く。
でも、
触れない。
まだ、
触れない。
風が吹く。
ビニール袋が揺れる。
いるまの手が、
少し赤い。
冷えてる。
それを見て、
らんは一瞬、
手を伸ばしかける。
でも、
止める。
(まだ)
その距離じゃない。
代わりに、
歩幅を合わせる。
完全に同じ速さで。
いるまが、
一瞬だけ、
横を見る。
何も言わない。
でも、
少しだけ、
歩く速さが、
また、
らんに合う。
触れないまま。
でも、
離れないまま。
家が見えてくる。
同じ家。
帰る場所。
二人の場所。
境界線は、
まだ消えていない。
でも、
その線はもう、
「離すため」じゃなくて、
「並ぶため」に、
そこにあった。