テラーノベル
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玄関のドアが閉まる。
外の冷たい空気が遮断されて、
家の中のぬくもりが戻ってくる。
「……ただいま」
らんが小さく言う。
その声は、
前より少しだけ自然だった。
「……おかえり」
いるまが返す。
短い。
でも、
前みたいな“義務”の音じゃない。
リビングに入る。
袋をテーブルに置く。
ビニールが擦れる音。
静かな部屋。
でも、
この沈黙は、
前と違う。
苦しくない。
「それ、冷蔵庫」
いるまが言う。
「あ、うん」
らんが袋を持つ。
一歩、
キッチンへ向かう。
でも、
ふと止まる。
(……前は)
“触るな”って言われた。
その記憶が、
まだ体に残ってる。
手が、
少し止まる。
その背中を見て、
いるまが言う。
「……らん」
びくっ、
と肩が揺れる。
振り向く。
「なに」
いるまは、
少しだけ迷ってから、
言う。
「牛乳、奥な」
たったそれだけ。
でも。
“置くな”じゃない。
“触るな”じゃない。
“奥な”
許されてる。
そこに、
“いていい”って意味が、
ちゃんと含まれてる。
「……うん」
らんは、
小さくうなずく。
今度は、
止まらない。
冷蔵庫を開ける。
中に、
牛乳を入れる。
ドアを閉める。
それだけのことなのに、
胸が少しだけ熱い。
振り返ると、
いるまが椅子に座っていた。
スマホを見てる。
でも、
視線は、
少しだけ、
こっちに向いていた。
目が合う。
一瞬。
すぐ逸らされる。
「……」
「……」
沈黙。
でも、
逃げたい沈黙じゃない。
「……ありがと」
らんが言う。
小さな声。
「なにが」
いるまは、
スマホを見たまま聞く。
「さっき」
少し迷う。
言葉を探す。
「……前、歩いてくれたの」
スーパーで。
守るみたいに、
立ってくれたこと。
いるまの指が、
少しだけ止まる。
「……別に」
ぶっきらぼう。
でも、
否定はしない。
「俺」
らんは続ける。
「人多いの、ちょっと苦手で」
正直に言う。
隠さない。
「……知ってる」
小さな声。
らんが、
目を見開く。
「え」
「顔」
いるまは短く言う。
「すぐ分かる」
それだけ。
それだけなのに、
胸が、
ぎゅっとなる。
(見てたんだ)
ちゃんと。
ずっと。
「……そっか」
らんは、
少しだけ笑う。
沈黙。
でも、
その沈黙は、
あたたかい。
そのとき。
らんの口が、
無意識に動く。
「……いるま」
名前。
呼ぶ。
一瞬、
空気が止まる。
今まで、
「ねえ」とか、
「その」とか、
名前を避けていた。
境界線を、
越えないように。
いるまの目が、
わずかに揺れる。
「……なに」
低い声。
でも、
怒ってない。
「……なんでもない」
らんは、
少しだけ照れる。
でも、
いるまは、
少しだけ、
息を吐いて、
言う。
「……らん」
今度は、
いるまが呼ぶ。
心臓が、
大きく跳ねる。
「風呂、先いいぞ」
それだけ。
いつもなら、
「入る」って言うだけ。
名前なんて、
呼ばなかった。
「……うん」
らんは答える。
でも、
足がすぐには動かない。
名前を呼ばれたことが、
胸の奥で、
何度も繰り返される。
境界線は、まだある。
そして、
消えてはいない。
でも、
その線の上で、
初めて、
お互いが、
“名前で”立った。
距離は、
まだ触れられない。
でも、
もう、
知らない他人の距離じゃなかった。
これさ、とちゅうからへんなやばいやつになってるし
そのおかげで、はーととしちょうすうすこしだけへってるんかもなぁ………………そうでもないか
コメント
2件
最近見れてなくてごめんねええええええ! 今度はうぇぶじゃなくてあぷりできました٩( ᐛ )و