真昼のクラスはグリーンでレベルは4。小夜子の方はレッドでレベル1。このクラスとレベルの違いを知ることが魔道士にとってはとても重要なことらしい。
特待生に選ばれる者たちのクラスは大抵グリーン、レッド、ブルーに当て嵌まるという。珍しいクラスの方が魔道士に向いてるなんて傾向でもあるのだろうか。
ヴィータの量が多ければそれだけ有利だというのは分かる。ヴィータが無ければ魔法は使えない。強力で複雑な魔法であればあるほど大量消費は避けられないのだ。量が多いにこしたことはない。
同級生の小山はヴィータの枯渇で病院送りになった。魔法を使う上でヴィータの運用方法が、いかに大切なのか思い知らさせる出来事だった。小山のように自分のヴィータを使い過ぎると命の危機に晒されてしまうのだ。
「ここからは八名木さんと更級さんの場合を例に取って詳しく説明致しましょうね。まずはクラスについてですが……先ほど申し上げた通り、クラスもレベル同様に5つに分類されております。具体的にこれらの違いが幻獣と契約を結ぶ際、どのように影響するのかというと……」
美作が百瀬に目配せをした。すると百瀬は鞄の中からまた別の資料を取り出した。その中の1枚をテーブルの上に広げる。
資料には5種類の色で分割された円グラフが描かれていた。これはさっき小夜子が教えてくれた各クラスの全体比率を表したものだろう。口頭で説明された時にイメージ出来ていたつもりだったけど、こうやってグラフで見せられた方が分かりやすかった。そして、俺のクラスである『ブルー』が他のクラスに比べて極端に少ないというのがより明確に視認できた。
「私たち人間からしたらヴィータの質は契約時に発生する光の違いでしかないのですが、スティースたちはこれらに明確に差を付けているのですよ。グレーやイエローに分類されるヴィータよりも、グリーン、レッド、ブルーの方を好む傾向があります」
「これらの好みの違いはスティースの種類によっても見られますけど、やはり大前提としてより希少なクラスのヴィータを好むのは変わりません」
「スティース好みのヴィータを持っている人間の方が当然契約を結びやすい。そして、何より消費するヴィータも少量で済むのよ」
「へぇ……そうなんだ」
「例えば……私と透が同じスティースと同じ内容の契約を交わそうとした場合ね。クラスグリーンの私がヴィータを50差し出さなければ結べなかった契約でも、ブルーの透なら5以下の量で成立できるって事もあるの」
「そんなに違うの!?」
「更級さんが言った数字はあくまで例えですが、実際そのくらいの差はあると思われます。状況によってはそれ以上も……それほど『ブルー』というクラスは特別なんですよ」
「あっ、そういえば……」
「何か思い当たることがございましたか?」
真昼が上げた例と似た状況が、俺と小山の間に実際にあったことを思い出した。風を操るスティースと契約を交わし、塵旋風を作り出した時のことだった。あの時小山は100程度のヴィータを消費していた。それに対して、俺が同じスティースで同じ魔法を繰り出そうとすると、ヴィータの消費は僅か0.5だったのだ。
俺と小山の間に技術的な差は殆ど無いだろうから気になっていた。あれほど対価の量に違いが出ていたのは、俺と小山のヴィータの質が異なるものだったからなのか。
「うん、前にさ……多分クラスイエローの人が魔法を使ってるとこ見たことあるんだけど……かなりたくさんのヴィータを持っていかれてたんだ。俺の時はそうでもなかったから不思議だった」
「あらら……イエローとブルーじゃ比較にもならないわね。相当な差が出ていたと思うけど……」
小夜子の言う通りだった。なんせ100と0.5だ。理由を知ることができてすっきりはしたけど、クラスが違うだけでここまでの差が生じてしまうことに驚いている。
東野が俺をやたら高く評価していた理由……恐らくそれは、俺のクラスがブルーだったからなのだろう。ただの同情や飯の礼で推されるよりは良かったのかもしれないけど……なんかモヤモヤした気持ちになる。
「スティースにも個体差がありますからね。クラスの違いによって生じる対価の差をきっちりと数値化するのは難しいんですよ」
「ヴィータは生体エネルギーであるので、その時の体調や精神状態にも影響されます。それはヴィータの絶対量……レベルにも直結していきます。つまり、不摂生な生活をし続けているとヴィータの量は減少するという意味です」
「魔道士は魔法に頼りきりで、運動不足になる人も結構いるからね。よく食べ、よく動き、よく眠る。健康的な体作りも大切なんだから」
「例えグレーやイエロークラスでレベルが低くても、ヴィータの扱いが上手ければ、魔法を使うことは可能です。ヴィータの扱いに長けていてこそ、優秀な魔道士と言えます」
美作たちにクラスとレベルについて基礎的なことを一通り教えて貰った。自分の知らなかった事ばかりで、不安な感情もなくはないけど、それ以上に――
魔道士の世界に足を踏み入れることができたような気がして、俺の心は酷く高揚したのだった。
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