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今日は一緒にお昼を食べて、映画を見る予定だ。
そんな王道のデートを提案してくれたのは佐藤くんのほう。
嬉しすぎて、気を引き締めていないと頬が緩みそうになる。
「広瀬、なにが食べたい?」
佐藤くんがふいに私を見た。
「えっ、佐藤くんは?」
「俺はなんでもいーよ。 広瀬が食べたいもの食べよう」
(佐藤くん……)
あぁ、もうどうしよう。
そんなこと言われたら、どうしたってドキドキが止まらない。
「私もなんでもいいよ!
というか、佐藤くんが食べたいものが食べたい」
佐藤くんは弱った目で苦笑した。
「俺に任せるとあそこになるけど、いいの?」
指をさされたのはチェーン店の牛丼屋で、入ったことない私は一瞬躊躇した。
「い、いーよ! あそこ行こう」
ぎこちなく歩き出そうとすると、佐藤くんに「ウソだよ」と笑われた。
「えっ」
「ウソに決まってるじゃん。まぁ、男たちだけなら入るけどさ。
広瀬かわいい恰好してるんだし、あんなとこは論外だよ」
私は瞬時に顔が赤くなった。
さすが佐藤くんだ。
クラスでこんなこと言える男子は、彼のほかにいない。
対する私は、今みたいなことを言われなれてないせいで、どうしていいかわからない。
恥ずかしすぎてうつむいてしまうと、佐藤くんは笑ってスマホを取り出した。
「ちょっと待って」と店を検索する横顔を、頬を押さえつつ眺める。
こんな近くで見つめられる日がくるなんて、ついこの間までは想像すらできなかった。
「ここはどう?」
見せてくれたのはおしゃれなパスタのお店。
本当に抜かりないなぁなんて思いながら、私は笑って「うん」と頷いた。
それから食事を終えて、映画館に移動した。
どれを観るかは事前に相談していたんだけど、佐藤くんは私の観たいものでいいと言ってくれるし、私も同じことを言うもんだから、なかなか決まらなかった。
結局、少し前に公開になったSF映画に落ち着いたんだけど、始まってしばらくすると、私は映画どころじゃなくなった。
エイリアンが襲ってくる場面で、私はエイリアンよりも佐藤くんの手が気になって仕方ない。
もしかして握ってくれるかもと、勝手にドキドキして息が苦しかった。
だけど私の期待をよそに、彼の手は1ミリも動かない。
(……私が恋愛漫画や、ドラマを見過ぎなのかなぁ……)
私はこっそり自分の右手を見つめた。
そうは思っても、中庭で握ってくれた彼の手を覚えているせいで、自由な手がやっぱり寂しかった。
私の身に小さなロマンスが起きることはなく、映画は幕を閉じた。
映画館を出ると、雨はさっきより強くなっていた。
私たちはお互い顔を見合わせ、「困ったね」と苦笑する。
「少し弱くなるまで待ってようか」
佐藤くんの提案で、映画館のすぐ横にあるスタバに入った。
店内は混んでいたけど、空きも少しあった。
彼はアイスコーヒー、私はバニラ味のフラペチーノを持って席に座る。
その時、ふいに視線を感じた。
何気なくそちらに目を向けた瞬間、私は驚きのあまりフラペチーノを倒しそうになった。
「どうかした?」
向いの佐藤くんが少し驚き、私は慌てて笑顔を作った。
「なんでもない」と言ったけど、実のところはかなり動揺していた。
(なんで、レイがここに……)
どうやら私たちより先にこの店にいたようだけど、ありえない偶然に頭を抱えたくなった。