テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
本作品はオメガバース設定(阿部:アルファ、宮舘:オメガ)を用いた二次創作となっております。
独自の解釈や好みの分かれる表現を含むため、苦手な方は閲覧をお控えください。
始まりは数年前。楽屋でとある光景を目にしてしまったのがきっかけだった。当時は不器用にぶつかりあった感情が格好悪くて気に入らず、その日のことはあまり思い出さないようにしていたけれど、今となっては笑って話せる。本当はもっと順序を辿って落ち着いて好きという感情を伝えたかった。だから絶対に勢いでいくのはやめようと心に決めていたのに、目の前で起きている事実から目をそらすことなんて出来なくて、気がつけば彼の誘いに乗っていた。
モゾモゾと動いた隣のあたたかさに、思わず目を細める。レースカーテン越しに差し込む朝日に照らされた肌は白く美しい。普段より淡い素の色の唇に指先で優しく触れると、柔らかな感覚に包まれて堪らなくなった。彼の身体は隅々まで丁寧に手入れされているのがよく分かる。本当に真っ直ぐで努力家で、真面目な人なんだから。だからあの日も、あんなことを。
舘「……なんだよ」
言葉の鋭さは全くなく優しげな声色でポツリと呟かれて、俺は細めていた目を開いた。彼に触れられる幸福に溺れて夢中になりすぎて、起こしてしまったようだ。彼は顔にかかる陽の光が眩しそうに目を瞑って穏やかな笑みを浮かべている。
阿「舘さん、俺すっごく幸せ」
舘「ん、だろうね」
舘さんがこうやって笑ってくれるのが、俺の幸せなんだよ。なんて本音をこぼせば、顔を紅くさせて布団に潜ってしまうんだろうな。
◇
その日の足取りは幾分か軽かった。理由は明確で数週間ぶりにメンバーに全員に会えるから。グループとしての活動歴が長くなるにつれて、それぞれ個人の仕事も増えていった。それは喜ばしいことであると共に、全員で集まれる時間が少なくなるということでもあった。俺もみんなもSnow Manが好き。他愛ない話をしながら過ごすあの平穏な時間がいつまで経っても愛おしいから、それは少しだけ寂しかった。
廊下の角を曲がると大部屋のいつもの楽屋が見えてきた。少し早めに着いたけど、もう誰かいるかな。そう思いながらドアノブを捻り扉を開けると、そこには一つの人影があった。「おはよう」なんて些細な一言が喉に張り付く。合ってしまった目を逸らせないまま、俺は大量の錠剤を飲み込む彼を見つめた。
彼は表情をピクリとも動かさずに無気力な瞳をして虚空を見つめていた。何を見てるの、何を考えてるの、何してるの、なんでそんなこと……。途端に頭の中が重たい疑問で満ちて僅かに頭痛がした。
舘「阿部……おはよ」
阿「おはようじゃないでしょ、何してるの」
舘「何って、別に薬飲んでただけ」
阿「……なんの?」
どこから切り込むべきか分からなくなって、俺は話の流れに身を任せた。遠くから見ただけだから確信はないけれど、見た感じざっと二十錠はあった思う。用法用量は知らないけれど、流石に一度に服用する量ではないでしょ。
上着も脱がずに俺は彼のもとへ足を進めた。じっと見つめ合っていた瞳がバツが悪そうにスッと逸らされる。ねぇ、いつから……?そう聞きたくてたまらなかった。けれど、その返答を受け入れられるかどうか分からなくて俺は口を噤んだ。
舘「……ビタミン剤だよ」
阿「薬の袋、見せて」
舘「ない」
阿「そんなわけないでしょ」
自分の身体から出たそれは、酷く冷たく鋭い声だった。目の前で項垂れている彼が驚いてこちらを向く。俺自身も驚いた。自分が認識しているよりも、それ以上に怒っているのかも知れない。今まで何も知らなかった、自分自身に。
阿「……いつから」
舘「ずっと前から」
阿「ねぇ、本当はなんの薬なの」
そう問いかけながら詰め寄って、逃げようとする彼の手首を無意識に掴んだ。いくら仲が良かったとしても、知らなくてもいいことはあるのは分かっている。けれどこの件に関しては、目を瞑ってこのまま放っておけば、いつか彼の身体が壊れてしまう。
掴んだのは、手首だけ。しかも、そこまで力入れていない。それなのに彼は突然、首を絞められたように苦しそうな呼吸をし始めて、椅子に座り込んだまま俺の方へと力なく倒れ込んできた。咄嗟に彼を支えると同時に身体の奥底でどくどくと激しく脈打つ感覚に襲われた。酸素が薄くなって吸い込む空気は色がついていそうなほど甘ったるい。待って、なんで、これ、
阿「っヒート……??」
微かに身体を震わせながら喘ぐように吐息を漏らす彼の肌はどんどん熱を孕んでいく。思考を狂わせそうになるフェロモンに顔を歪めながら、俺は腕時計で時刻を確認した。まずい、そろそろみんなが来てしまう。他のアルファのメンバーが俺のように普段から抑制剤を飲んでいるのか確信が持てない。だから、このままここにいるわけにはいかない。
俺は必死に彼の名前を呼んだものの、瞳はどろりと蕩けていて全く反応してくれなかった。縋るように掴まれた袖の皺は、心の歪みを表すようだった。抑制剤を飲んでいなかったら、抱いてたのかな……なんて。
俺は力の抜けきった彼の身体をおぶって、近くの多目的トイレへ駆け込んだ。男二人がそこから出てくるのを見られるリスクも考えたが、吐き気が酷くてと言い訳をすればどうにかなると思った。それに、迷っている時間なんてなかった。
とりあえず立ってもいられなさそうな彼を便座に座らせて、楽屋から持ってきた彼の鞄を申し訳なく思いながら漁った。もしかしたら緊急用の薬があるかもしれないと思ったのだ。そうして書類の隙間に「頓服・一回二錠・一日一回まで」とだけ書かれた袋を見つけた。その袋には薬の名前も効能も書き記されておらず、俺は中から薬のシートを取り出して名前をネットで検索した。やはり、想像通りそれはオメガ用の緊急でヒートを抑える薬だった。
手のひらに二錠の薬を出し、鞄から水を取り出したものの、そこまで準備をしてハッとした。小さく蹲るようにして震えている彼は、恐らく自ら服薬できる状況ではない。となれば、俺が……。
……これは、人工呼吸と一緒。そう自分自身に言い訳を念仏のように言い聞かせて、俺は水を口に含んだ。そして彼の輪郭に手を沿わせ、口の中に錠剤を落とし込んでから、唇を重ねた。舌で彼の唇をこじ開けてから生ぬるくなった水を流し込む。ずっと願っていた彼とのキスがこんな形だなんて、想像してもいなかった。
俺も、普段から薬を飲んでおいて良かったな。なんて、嘘か本音か分からない言葉が胸に木霊した。
◇
それから三十分がたった頃、彼の症状は落ち着いてきて紅潮していた肌の色も元に戻っていた。まだ少し、甘い残り香はするけれど、香水だという言い訳でどうにかなりそうだった。
阿「よかった。薬、効いてきたみたいだね」
舘「……ぁ、う、ん」
阿「さっき飲んでたのは、常用薬?」
舘「っ、ごめ、ん、ごめ、っさ……」
小さくなって震える彼の身体をそっと抱きしめた。薬を飲ませた後にその詳細を検索したところ「脱力感・強い不安感・抑うつ」など、無理矢理ヒートを抑え込んでいるからなのか副作用が多くあったから、そのせいだろう。きっと常用薬にも同じように副作用があるだろうに、彼は生きていくためにあれだけの量を服用していたんだろう。切なさに呑まれて、居た堪れなくなった。ごめん、俺のほうがごめん。もっと早く気付いていれば、なにか出来ることがあったかもしれないのに。
舘「ごめんなさっ、ごめっ、オメガなのにっ、芸能界いてっ、ごめなさっ」
阿「舘さ……涼太、りょーた。誰も怒ってないよ、大丈夫。だいじょうぶ」
優しく背中をさすると彼は弱々しく涙をこぼし始めた。本当に、本当にごめん、涼太。ここまでくるのに、一体どれだけの日々に苛まれてきたんだろう。大切なメンバーだから、好きだから、それ以上に愛してるから、どうにかしてあげたいのに俺にはその権利がない。
ふと、目線を落とすと俺にもたれ掛かってる彼の綺麗な首筋が目の前に現れて、思わず唾を飲み込んだ。駄目だ、絶対駄目。そう思えば思うほど首筋に釘付けになってしまい、俺は意図的に目を逸らした。
数十分経って徐々に呼吸が安定し始めて落ち着いてきたのを確認してから身体を離すと、彼はどこか寂しそうな顔をした。もう……そういうの可愛いけどやめてよ、勘違いしそうになるでしょ。なんて、言えなかった。
舘「……ごめん」
阿「謝らないで、本当に何も気にしなくて大丈夫だから」
舘「でも……」
彼はモゴモゴと一度にたくさんの言葉を並べ始めた。その様が普段とは正反対で、どうしようもなく愛おしくて、俺は隠しもせず顔をほころばせた。そんな俺を見て彼は少し安心したのか、気の抜けた顔色を浮かべた。それでもまだ強張っていた指先を絡め取って顔の前で手を繋ぐ。突然のことに少し身構えつつも、彼は微塵も抵抗せず俺に身を委ねてくれた。
阿「これからは薬の用法用量、ちゃんと守って」
舘「……」
阿「……分かってない訳ないと思うけど、あれ続けてたら舘さんの身体が壊れちゃうよ」
舘「……ん」
それ以降彼は黙り込んで、何を言っても聞く耳を持ってくれなかった。「言うことを聞かなければ他のメンバーにバラす」なんて脅しも出来るわけないというか、したくないし、一体どうしたらいいのか……。
上着のポケットに入れていたスマホが震えていることに気が付いたのはその時だった。バイブの種類からそれが着信だと気が付いて慌てて画面を確認したとほぼ同時に、切れてしまった。続けざまにメッセージが来る。
○『阿部ちゃんおはよ!』
『楽屋に荷物あった、ってか床に落ちてたけど、大丈夫?どこいるのー?』
差出人は佐久間だった。俺を見上げて首を傾げている彼に向かって画面を見せると、納得したように頷いて、そして彼も「もう戻らなければ」と思ったのか立ち上がろうとした。したのだけれど。
阿「っ!?舘さんっ!」
舘「ごめん、大丈夫だから」
薬の副作用のせいか、どうやら身体に上手く力が入らないようで床に崩れ落ちそうになったところを慌てて抱きかかえた。とりあえず、そろそろ楽屋に戻らないとみんなに心配をかけてしまう。フェロモンの影響も、もう大丈夫そうだしこのまま彼を連れて戻ろう。体調が優れないって伝えて楽屋で休ませればいい。別に嘘ってわけじゃないし。
腕の中で小さくなっている彼へそのことを伝えようと顔を向けると、彼のほうが先に口を開いた。
舘「ねぇ、あべ」
阿「ん?どうしたの、具合悪い?」
舘「ううん。……薬、ちゃんと守るから。だから一個、俺の言う事聞いて?」
彼の声を受け止めて、咀嚼して、言葉を理解して、鼓動が徐々に高まっていく。本当に、なんというかさ、罪な人だよね。俺が舘さんのこと好きだって、分かってて言ってるの?ってくらいにその瞳は俺の心の真ん中を貫いてきた。至近距離で見つめられて、溢れ出しそうになる感情を抑え込むように唾を飲む。
心の奥底にある、期待と動揺と名前のない感情が渦を巻く。緊張してしているのが顔に出ていたのか、彼はふわりと微笑みを浮かべた。
舘「亮平、俺の番になってよ」
阿「…………はい?」
ぼんやりとしている彼の思考は一切読めなくて、俺はただ混沌と化した思考に溺れていくだけだった。今は名前を呼ばれたことに反応している場合じゃない。つが、番……?番って、あのツガイ???いやもうそんなの願ったり叶ったりではあるけれど、夢じゃないんだよね??
彼が何を考えているのか本当に理解できず、説明を求めるように目を向けるものの彼は何も言わずに、にこりと困ったように笑うだけだった。いや、困ってるのはこっちなんですけど。
舘「……だめ?」
ねぇ、舘さん。俺が舘さんのこと好きだって分かって言ってる??
コメント
8件
最高です、、、、!!!🥹
うわぁあぁ😭😭😭😭😭 💚❤️..続きが楽しみです😭😭
