テラーノベル
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「おい山崎ィ、明日は非番にしてやったぜ。……まあ、土方さんが頭下げて頼み込んできたんでさァ」
総悟は、どこか得意げに山崎の部屋の襖を開けた。
電気をつけず、月明かりだけが差し込む薄暗い部屋で、山崎はぼんやりと座っていた。
「非番……ですか。……ありがとうございます」
山崎の声には覇気がなかった。
昼間の土方のノロケ話が効いているのだろう。
「さぁ、落ち込んでる暇はありやせんぜ。今から明日の作戦会議だ」
総悟は土間から上がり込むと、山崎の前に胡坐をかいた。
「いいか山崎、明日のデートのルールだ。まず服装だが、昼間の爽やかな和装を貸してやりやす。派手すぎず、地味すぎず、土方さんが妄想しやすいラインを狙ってやす」
総悟は具体的な指示を出し始める。
まるで軍議のようだ。
「言葉は極力少なくだ。基本は頷きと微笑み。困った顔は土方さんのM心を刺激するから多めに。返事は『はい』か『いいえ』、長くても一言二言で頼みやす。声がバレたら一発でアウトだからな」
「む、無言ってことですか!? それデートなんですか、尋問じゃないんですか!?」
「土方さんには、それが『奥ゆかしい』って映るんでさァ。あんたの普段の地味さ加減が、最高のスパイスになるってわけだ」
総悟はニヤリと笑った。
「で、最大のポイントは、土方さんが『マヨネーズを食わない』と誓ったことだ。だから、食事の場を設けてやる。そこで、土方さんがいかにマヨネーズ断ちをしてあんたに尽くそうとしているか、その無様な姿を俺が陰から見守って、撮影しやす」
「えええ!?」
「ただし、山崎。あんたは『山崎退』としても明日は屯所内で働いている設定だ。デート中は、『退子さん』として完璧に振る舞え。もしバレそうになったら……」
総悟は、先ほどと同じように山崎の耳元まで顔を寄せた。
月明かりの下、総悟の瞳が鋭く光る。
「本当に、俺が塞いで黙らせてやるから。……油断すんじゃねェぞ」
その声に含まれた熱と、真剣な眼差しに、山崎の心臓は再び早鐘を打った。
これはただの悪ふざけではない。
総悟は本気で、この「茶番」を完璧な地獄絵図にしようとしている。
「……分かり、ました。副長のため、真選組のために、頑張ります」
「上出来だ。……ま、明日は楽しんでこいよ、退子さん」
総悟は満足げに立ち上がり、部屋を出て行った。
一人残された山崎は、月明かりの下で、明日着るという爽やかな和装を見つめる。
(俺の恋心を弄ぶ副長と、それをもっと弄ぶ総悟さん……。明日、俺は無事に生還できるんだろうか……)
こうして、「退子」としての地獄のデート前夜は、不安と、ほんの少しの奇妙な期待感とともに更けていった。
コメント
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読了しました!第9話、デート前夜の準備がもう笑いと緊張の絶妙なバランスですね。総悟の「軍議のような指示」が細かくて、でもその裏にある本気の悪ふざけが伝わってきて、山崎の困惑と心臓の高鳴りに思わず感情移入しました。「本当に、俺が塞いで黙らせてやる」の台詞、めちゃくちゃ効いてますね…!明日の地獄デート、山崎が無事でいてほしい気持ちと、土方さんのマヨ断ちを見たい気持ちで複雑です(笑)。