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休日の夕方、混み合った商店街を少し離れて、私とジェンは二人で歩く。オフショルダーに、スキニー姿のジェンは、人目を引いていた。
ジェンの斜め後ろを歩いていた私は、すれ違う男がジェンを品定めするように見ているのに気づいた。
ジェンが男の下卑た目に晒されるのが嫌で、私は急いで近くの高級カフェへとジェンを連れて行った。
ビルの14階にあるカフェの店内に、客の姿はまばらで、ゆったりとした時間が流れる。―良かった。
ジェンは窓辺の席を選んだ。
ジェンはコーヒーカップの縁を人差し指でなぞりながら、ぼんやりと車の行き交う地上を眺めていた。
無理に連れてきたからだろうか、一言も喋らず、私を見ようともしてくれない。
「ジェン?」
ジェンは、呼びかけに沈黙で応えた。
「ごめんなさい。急に連れてきてしまって。…喉が渇いてしまって…」
ジェンは窓の外を見つめていた。
ジェンが答えてくれない寂しさに、窓を見ると、窓の中でジェンと目が合った。
―ジェンは、私をみていてくれた!
「ジェン?」
もう一度呼びかける。
窓の中でジェンは、微笑んでくれた。
「ありがとう。付き合ってくれて」
窓の中のジェンは微笑んで頷いた。
20分ほど経った頃、ジェンが口を開いた。
「ねぇ…」
―やっと、ジェンの声が聞けた。
「イェンのこと、どう思う?」
思いもしない言葉に、一瞬何のことか分からなかった。
「イェン?」
思わず聞き返す。
「そう、イェンよ。」
ジェンは楽しそうに笑って、今度は正面から私を見た。
―やっと、ジェンと目が合った。
「あぁ…イェンね。」
私は、考えた。イェンについて。
「大人しい子ね」
ジェンはくすくすと肩を揺らして笑った。
―あぁ、ジェンだ。私の大好きな、ジェン。
「そうね、あの子は大人しいわね。他には?」
再び考える。「……そうねぇ…。」
悩む私の顔を、ジェンは頬杖をついて、楽しそうに見つめた。
ジェンの視線を感じて、心臓が跳ねた。
「優しい子ね」
「そうね。優しいわね。それだけ?」
ジェンが楽しそうに笑って少し私の方に体を近づける。
「…あまり会ってないからわからないわ」
正直に告げると、ジェンは楽しそうに笑った。
「そっか。そうだよね」
ジェンはくすくすと笑うと、体を伸ばし、手を挙げてウェイターを呼んだ。
ジェンがウェイターにカードを差し出した。
驚く私に、ジェンはウインクを投げた。
「たまにはあたしにも払わせてよ」
この店のアイスティーは、世界一甘くて美味しかった。