テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
初夏の一日が始まろうとしている。まだ朝の7時前だというのに、大和川の水面に太陽が照り返し、今日もガンガン照り付けるぞ!と太陽がほくそ笑んでいるようだ
マンションの花壇のハイビスカスは、まるでここが南国の国の様に大輪の花を咲かせていた、おばあちゃんの家で扇風機だけで過ごしていたあの頃はどこ行った?
なんだかここ数年気候がおかしい
渋滞を避けて早めに出たというのに、早速朝の渋滞ラッシュにはまってしまった、この時間にこんな渋滞ならいったい何時に家を出たらいいのだろう
神崎慈恵仁(ジェニ)27歳は、夕べ徹夜でプレゼンテーション用の資料を仕上げ、一睡もしていない充血した目をこすった
水色の軽自動車、ラパンの白のフェイクファーのハンドルを右に切り、会社に通じる道路に車を走らせる
明日こそは電車で通勤をしようと、心に決めるのに毎晩終電に間に合うように帰れた試しがない
助手席には一晩かけて仕上げたプレゼンテーション用の資料を保存した、全面ピンクのラインストーンを張り付けてデコレーションしたノートPCと、スティックタイプのレーザーポインターが無造作に放り投げられている、体の芯が疲れて眠りたいと言っている
でも今日だけは眠る訳にはいかない、なぜならジェニにとって、今日この日が人生を左右する日になるからだ
いいや、ジェニ一人ではなかった、亡き父が残してくれた小さな広告代理店「神崎広告代理店」の全社員の運命を今、自分が握っているのだ、ジェニは溢れてくる涙に瞼をパチパチしてひっこめた
どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・父が亡くなってから長年一緒に経営していたジェニの実の兄「神崎豊」は、多大な借金をし、ジェニに内緒で会社の株を役員達と売却してしまっていた、残るはジェニが持っている20パーセントの株だけ・・・これではジェニが経営権を保持できない
ジェニの会社は兄と役員達のせいで買収されてしまったのだ、そして当の兄は恋人と愛の逃避行で、先週から何処かへ雲隠れして、まったく連絡が取れない
今日から兄ではなく、新しいボスがやってくる、神崎広告代理店が今までのように家族経営のアットホームな会社ではなくなると思うと、ジェニの目にまたまた涙が溢れた
社長の父が癌を発病してあっけく逝ってしまうと、ジェニと兄の豊が後を継ぎ、サービスの良さと独創的で知られる「神崎広告代理店」は従来通り、由緒正しき伝統に従って、これからも経営を続けられるものと思いこんでいた
なのでジェニは大学進学をあきらめて、18歳で兄を支えるために入社した、ジェニの肩書の「専務」とは名ばかりで、雑用なら何でもこなした、だから会社が巨大な企業に買収されると、兄から報告を受けた時にジェニは酷いショックを受けた
そしてその翌日、兄は恋人と姿を消した、なにもかも放りだして
買収会社の「メビウスホールディングス」は、社名からして非人情的な大会社を連想し、噂では経営者の『松下竜馬』は極悪非情な反社の様な人間で、無能な社員は有無を言わさず切り捨て、常に会社の一大変革を起こしているという
それを聞いて、約三十人ほどのジェニが大切にしている社員達は不安のどん底に落とされ、ここ数日は毎日人員削減や部署閉鎖の噂が飛び交い、みんな怯えている、何より自分の生活が脅かされている、仕事も会社も全て奪われた、自分の無力さに憤りを感じる
しかし会社が買収されても、全てが従来通りに行き、社員全員が失業の恐れはないと社員達を慰めたくても確かな確証は何一つ無い、なんたって買収会社の社長は、『鬼の首きり屋』なのだ
ジェニは今から出社し、またみんなのあの不安に怯える雰囲気にのまれるかと思うと、大きなため息が出た
すると突然車の前に現れた黒猫が、ジェニの思考を遮った
さほどスピードを出してはいなかったが、咄嗟にジェニは飛び出て来た猫を避けるために、ハンドルを右に切った
キキ―――――ッッ ガリッ
その瞬間金属同士が擦れ合う嫌な音がした、ジェニの車を追い越そうとしていた横の車のボディをこすってしまったのだ
―しまった!接触事故を起こしてしまった!―
ジェニは冷汗をかきながら、車を路肩に停車して降りて行った、相手の車もジェニの少し先に停め、パザードランプをたいている、そしてその車を見て思わず叫んだ
「ゲッ!高級車!」
ジェニが当てた車は黒々とピカピカに光っている外国車のジャガーだった、思わず背筋がぞっとした
bouton
896
193
#地雷系
コメント
1件
みぅだよ🤍🥀 第2話読んだよ! ジェニ、徹夜明けでボロボロなのに会社のこと必死に守ろうとしてて、胸がぎゅってなった…。兄に裏切られて一人で立ち向かおうとする姿、すごく応援したくなる。 最後のジャガーに接触しちゃうシーン、まさかの展開でドキドキした!新ボスと直接関わるフラグかな? 続きが気になる〜🌙