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ゼルドア要塞城・地下解析室。
白い光が揺らめく魔術スクリーンの前で、
ノノ=シュタインが息を詰めて作業していた。
机にはレアのスマホ、転移ログ、境界薄点マップ。
どれも危険なほど“揺れている”。
そんな中、扉が静かに開いた。
アデルとリオが現れた。
リオは立っているだけでも痛みを堪えているのがわかる。
白いシャツの脇腹には包帯。
顔色もわずかに悪い。
ノノが振り返り
「リオ……もう少し休んでからにしたら?
脇腹に“光刃”刺されたんだよ? 普通なら二週間ベッド生活だよ……。」
リオは静かに答える。
「……少し痛むが、動ける。
それに──行かなきゃいけない。」
その声は固く、意志があった。
アデルも横目でリオを睨むように見る。
「本当は休ませたいが……
どうせ“止めても行く”だろう?」
リオは短く息を吐いた。
「……あぁ。
ユナがそこにいるなら、なおさらだ。」
ノノは唇を噛みしめながら言う。
「も、もう行くの?ほんと無茶するんだから……
でも、わかった。時間がないんだもんね……」
彼女は手元のタブレットを操作し、
“三つの座標が重なる一点”を映し出した。
「ここが──境界薄点の“特異座標”。
レアの転移ログ、行方不明者5名の意識信号、
そして……記録庁の古い観測データが重なってる。」
アデルが眉を寄せる。
「現実世界では“廃ビル”だろう。
だがこちら側では……?」
ノノは震える指で画面を押す。
「“空洞領域”。
本来は存在しないはずの……
“世界の継ぎ目そのもの” みたいな場所。」
リオが息をのむ。
「……そこに、ユナが?」
ノノが小さく頷く。
「たぶん……そう。
でも、転移は危険。
だからアデルには──例のものを渡さなきゃ。」
そう言うと、ノノは机の引き出しから
黒銀の腕輪を取り出した。
光沢のある金属──その中心には
“観測鍵の片割れ” が埋め込まれている。
アデルは目を細める。
「……ついに完成したか。」
ノノは頬を赤らめながら、小さな鼻息を漏らす。
「う、うん!
アデルの依頼だったから急いで仕上げたけど……
本来なら、あと三ヶ月は調整してたい代物だよ!?
でも! たぶん大丈夫!
転移の揺れを“力づくで押し返す”補正機能 を搭載してある。」
アデルが腕輪を左腕にはめながら言う。
「お前とセラ……そしてリオがいたから作れた代物だ。
感謝してる、ノノ。」
ノノは耳まで真っ赤にしながら、慌てて視線をそらす。
「べ、別に……!
アデルの役に立つなら……作るに決まってるでしょ……!」
リオはアデルの腕輪を見てから、自分の腕輪に触れる。
(……これで、少なくとも“入口”には立てる)
アデルがリオに向き直る。
「リオ、痛みは?」
「……まだ痛むが、問題ない。」
「本当に“大丈夫じゃない”時の人間が言うセリフだな。」
アデルの声は呆れていたが、
同時に、信頼も含んでいた。
「行くぞ、リオ。
これ以上、境界が崩れる前に。」
リオの瞳に迷いはひとつもない。
「……あぁ。
俺は大丈夫だ。
……ユナを助ける。」
ノノが小さく囁くように言った。
「……気をつけて。
二人とも……絶対、生きて帰ってきて。」
アデルとリオは頷き、
揺らぐ境界の前へ──歩き出した。