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今は武闘会が終わり、旅の準備期間中。
この命懸けの旅へと出る前にやらなければならないことを、聖奈へ伝えたところだ。
「やっとだね…」
「本当にいいんだな?と言っても、今更ダメだと言われても俺にやめる気はないが」
「その覚悟があるなら大丈夫だよ。私が望んだ話でもあるし、遠慮はしないでね」
嫁の許可も得たことだし、いってきますか。
「時間ですか?大丈夫ですよ」
目的達成の為には、俺一人ではダメなんだ。
早速城の一室で帳簿確認をしていたミランへと声を掛けた。
「おお。頼むわ」
『妾も行くのじゃ!』
「コン。悪いが今回は遠慮してくれ」
俺が断ると、まさか断られると思っていなかったのか、拗ねてどこかへと行ってしまった。
アイツは俺達が死んだ後、ぼっちに耐えられるのか?
まぁ、コンのことはおいておこう。
「コンさん寂しそうでしたね」
「そうだな。後で埋め合わせはしておくよ」
哀愁を漂わせる狐っているんだな……
「それで?どちらへ行くのですか?」
「リゴルドーだよ」
「えっ…何か不備でもありましたか?」
リゴルドーと言えばミランの実家がある。
親父さんの仕事に何かあったのかとミランは心配になるが、そうじゃない。
「いや、仕事じゃないんだ。何も心配することはないから、着いてきてくれないか?」
「?わかりました。お供させてもらいます」
何事か理解できないミランを伴い、俺は久しぶりにリゴルドーへと転移した。
「久しぶりですね。でも、どうしてここなのですか?」
転移したのは、初めて魔法の練習をした草原だ。
「それは秘密だ。着いてきてくれ」
「わかりました。何が待っているのかわかりませんが、私はセイさんに着いて行きます」
「ははっ。別に緊張するようなことはないぞ?」
そう言って歩き出した俺の足は、自分でもわかるくらい震えていた。
「ここだ」
歩くこと2時間。
目的の場所へと辿り着いた。
転移で向かっても良かったが、それだと芸もないし、少し考え事もしたかったから、どうせならと散歩がてら歩いてきたんだ。
ここは昼間だと魔物は少ないみたいだし。
「ここ…ですか?何もありませんね…」
「そうだ。何もない。俺が初めてこの世界に来た時から、ここは何もないままだ」
辺りは見渡す限りの草原。
何故ここと家とが繋がっていたのか、今でもよくわからん。
だが、そんな理由はどうでも良かった。
「ここが…あの…」
ミランは予想していなかったからか、少し感慨深い様子だ。
「ここでリゴルドーを目指せたのは、俺にとって幸運だった」
「そうですね。ここからリゴルドーまでは特に目印などもないですし、辿り着けたのは凄いと思います。しかも夜だったのですよね?ここには強い魔物も多かったはずです」
「そうだな。幸運なことに、俺は死なずにリゴルドーへと辿り着けた」
今なら楽勝だが、当時の俺には殺虫剤くらいしか武器がなかったしな。
狼系の魔物や熊系の魔物と遭遇していたら、間違いなく死んでいた。
異世界転移を使いこなせてからは、安全マージンをしっかり取っていたから大丈夫だったとは思うが。
「そうですね。街に…いえ、人里に降りれたのは幸運でしたね」
「いや、それは幸運じゃない」
「い、いえ!セイさんの能力を疑っている訳では…!」
違うんだ。
俺が否定したかったのは、街に辿り着けたトコロではない。
「リゴルドーに辿り着けたのが幸運だったんだ。どこでも良かった訳じゃない」
「え、ええ。そうですね。大きな街ですし」
「それも違う。…ミランがいたからだ。
ミランと出会えたことが、この世界で初めて俺に訪れた幸運なんだ」
違う街に着いていたら、現在はなかっただろう。
「えっと…それは…その……嬉しいです…」
漸く理解が及んだのか、ミランは顔を赤くして俯く。
「ミラン。こっちを見て欲しい」
俺は跪くと、例のケースを取り出し、ミランに見える様に蓋を開ける。
「伝えたい想いは沢山あるが、この想いを前にすると、全てがどうでも良くなった。だから少しだけ」
ごほんっ
咳払いを一つして、続ける。
「長い間、待たせて済まなかった。地球の倫理観に引っ張られて、中々決断できない弱い男だ。
だが、それが俺だ。
そんな弱い男を、世界一の幸せ者にしてくれないか?」
お前が幸せにしろ?
無理無理。
そんなことは聖奈もミランも望んでいないさ。
ミランの望みはいつも同じで、たった一つ。
”俺が幸せになること“
下から覗き込むが、俯いていて顔がよく見えない。
長い髪は似合っていて最高に可愛いけど、こういう時は邪魔だな。
ポタッ…ポタッ…
ミランの足元にシミが……
「ぜ、ぜったい…世界一の…しあわせ…も、のに……しますっ!!」
「ありがとう。手が震えてカッコつかないが、指輪を嵌めさせてくれないか?」
コクンッ
首が取れそうなほどの肯定を頂いたので、指輪をその細い指へと嵌める。
そして立ち上がり抱きしめると……
「うわぁぁん!!まっでまじだぁぁ!!」
「待たせたな。これからもずっと一緒だ」
大泣きするミランが泣き止むまで、その背中を優しく撫で続けた。
旅へ出る前にしなくてはならない、唯一のケジメがこれで終わった。
正確にはこの後も含まれるが……面倒なだけで、緊張とかはもうないな。
「やっとなのねっ!おめでとう!ミラン!」
ここはリゴルドーにあるミランの実家。
ミランママは我が事の様に喜び、ミランを抱きしめてその気持ちを表現している。
妹のミレーユと弟のバランもそんな母姉を優しく見守っている。
出来た妹弟だ。
「お、お、お」
「お?」
なんだ?アザラシのモノマネか?
「俺よりいい家具を作れねー奴に、娘はやらんっ!!」
「・・・・・」
「あなた?何をいっているのかしら?」
バーンさん…ミランママに殺されるぞ?
まぁ最近では、早くどうにかしろなんて言っていたから、ただ言ってみたかっただけだと思うが。
もし違ってもミランとの結婚を諦める気はないけど。
バーンさんはミランママのお仕置きにより、状態異常が治ったようだ。
「…まぁ、結婚するならセイしかいないわな。わかってはいたんだが、いざそれを前にするとな…」
うん。その気持ち、わからんでもない。
「お父さん!セイさんは国王陛下なのよっ!もし結婚に反対したら、エンガードの王様に告げ口するからっ!!」
「えっ!?おいっ!?それはやめろっ!!」
これが異世界身分差か……
まぁ、ミランのあの言い方は本気じゃない時のものだから、放っておこう。
バーンさんは昔から割りを食うタイプだったから、仕方ないんだ。
「セイさん。おめでとうございます。お姉ちゃんを幸せにしてあげてください」
「セイさん。おめでとうございます。あの様な姉ですが、どうか気長にお付き合い下さい」
うん。堅っ苦しいね。
「俺たちは家族なんだ。親しき仲でも気を使うのは大切だが、もう少し気軽に接してくれ。
それと、お祝いの言葉をありがとう。二週間後に結婚式を挙げるから、その時は盛大に祝ってくれよな?」
「「はいっ!」」
「ケーキも沢山あるから沢山食べてくれよ?じゃないとミランとエリーが食い過ぎちゃうからな!」
「「わかりましたっ!!」」
うん。元気でよろしい!
初めて会った時はあんなに小さかったのに、今では中学生前後まで成長している。
それでも二人とも素直で可愛いから、甘やかし過ぎてしまわないように気をつけないとな……
ミラン家族へ伝えた通り、結婚式は後日、お世辞にも厳かとは言えないくらい盛大に執り行われた。
場所はバーランド城。
ミラン家族や家具職人仲間達は主役のはずの俺が運んだ。
ミランの立場は側室ではなく、第二王妃になり、聖奈と同等の立場となった。
ミランの公爵家は王室預かりとなり、現在は空籍らしい。
結婚式は皆んなに祝われた…と言いたいが、約一名から文句が付いたんだ。
その相手はミランの幼馴染の少年だった。
その少年は家具職人見習いとして頑張っているが、元々の仕事を始めた動機が、ミランとお近づきになりたいというモノだったらしい。
国王の結婚に意を唱えたことで騎士達が取り押さえようとするが、流石にその少年にそこまでのことをするつもりもなく、俺とミランと少年で話し合うことに。
ミランの説得というか…突き放した言葉により、少年は泣きながらも諦めてくれた。
そんな一悶着はあったが、俺は遂にハーレム野郎へと成り上がったのだった。