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「軽蔑? 私が、ブライトを?」
ブライトの言葉に衝撃を受けて、私は彼の言葉を自分の口で紡ぎ、彼を見た。
彼のアメジストの瞳があまりにも悲しそうに揺れるものだから、私は開いた口がふさがらなかった。
確かに前も、嫌われたくないから言わないとか言ったけれど、言ったら軽蔑されるから言わないとはまた大げさな……と思いつつ、彼の表情を見て嘘ではないと私は悟った。だからといって、このまま一生、ではないかもしれないが隠し通せる内容ではないのではないかと私は彼を見てしまう。
(私が、彼を軽蔑? そんな内容なの?)
益々、彼の話に疑問と不安しか生まれないのだが、そんな私の気持ちとは裏腹にブライトは話を続けていいか確認するように私を見てきた。
私は、どうぞと促すとブライトは重い唇を開いて、ぽつりと話し始めた。
「エトワール様の言うとおり、僕の弟にはある力があります。それは、僕よりも強いもので僕ではどうにも出来ません。彼自身、制御出来ているのかどうかも」
「……そう」
「内容についてはまたその内……僕の覚悟が決まったときに。と言ったら、きっとエトワール様はいい顔をして下さいませんよね……分かっています、ですから……いつか必ずお伝えします」
「……分かった」
そう言うほか、私にはなかった。
矢っ張りそうだと、思うと同時に、もしかしたら考えたくもないけれど、弟の力があのドラゴンの暴走と関係あるのではないかと思った。彼が、裏切り者はこちらで探しますと言ったのは、弟が関わっているから、それを公にしたくないからなのではないかと思った。弟を守る為か、侯爵家の秩序と名声を守る為かどちらにしろ、それが公になれば侯爵家はただではすまないと言うことだろう。
分かっていたことじゃないかと、私は自分に言い聞かせた。ブライトが抱えているものは、簡単に他人に言えるないようではないのだ。それが、師弟だったとしても、言いたくないと。
「ありがとうございます。エトワール様」
「ううん、こっちが聞きたくもない話してって言ったんだから……私が」
「エトワール様は悪くありませんよ。ドラゴンの暴走を止められたのはエトワール様のおかげでしたから、貴方がいなかったらきっと」
と、ブライトは言ってくれたが、私にはその言葉が酷く重く感じてしまった。
ブライトが言っていることは本当だ。でももし、仮に、本当に仮定の話で、ブライトの弟がドラゴンを暴走させて、ブリリアント家の従者や私達を襲ってきたとするのなら、ブライトの弟がしたことは、それだけじゃすまないことだと思う。そう思うと、ブライトの弟がしたことは、私達が思っている以上に深刻で恐ろしいことだ。
私は、今日、私が来たことでブリリアント家に、内部事情に、亀裂が入ってしまったのではないかと。もし、私達が来たことで彼、ファウダーがドラゴンを何かしらの形で暴走させたとしたら。私達が来なければ、こんなことにならなかったのではないかと、妄想してしまう。これは、全部妄想の話でそうとは限らないし、仮定の話でもあるため、全部気のせいかも知れないけれど、偶然にしたらよく出来すぎていると思った。
前々からそうだったけれど。
考えれば考えるほど、思考の迷宮が広がっていくような気がして、私は考えないことにした。ブライトが真実を話してくれるまでは、結局の所分からないのだから。
「忘れ物……って、それだけでしたか?」
と、ブライトはにこりと微笑んだ。
私は、ハッと顔を上げ、それだけ。と何度も頷いた。彼は、深くは聞いてこず、そのまま私の背を向けて戻りましょうかと歩き出した。私はその背中を追って歩き出す。
「……」
「…………」
私達は、黙ったまま廊下を歩く。
(こんな形で聞いちゃって悪かったなあ……ほんと……)
ブライトを騙すような形で先ほど言葉を投げてしまったが、彼は怒るどころか、少しヒントをくれた。彼なりに、言わないことに対して罪悪感を抱いているからなのかも知れない。
今回の騒動の犯人が彼の弟である可能性はほぼ確定と言っても良いだろう。彼の口ぶりからするに。
そんな風に考えながら、歩いていると、ブライトはいきなり足を止めた。如何したのだろうかと彼の顔を見ようと一歩前に出たとき、ブライトは私に顔を見られないように話し出した。
「話は変わるんですが、エトワール様。グランツさんが、味方でよかったと思いませんか?」
「グランツが、味方?」
ブライトがいきなりグランツの事について話し出すので、私の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。
確かに、グランツの事についても知りたいと先ほどせがんだが、こんな形で話題を振られるとは思っていなかったのだ。
私は、ブライトが何を言いたいか理解できず、あたふたしていると、ブライトは答えを合わせるように再びこちらを向いてしゃべり出す。
「魔法を斬ることができる魔法……彼のユニーク魔法についてです。まあ、エトワール様が聞きたいのはこんなことではないとは思いますが、僕は、彼のユニーク魔法を聞いて心から彼が味方であることに安堵感を覚えました」
「そりゃ、まあ、ユニーク魔法を持っている人がヘウンデウン教とかの信者じゃなくて良かったって言うのは、勿論だと思うけど」
「はい。ユニーク魔法を持ったものと敵対するのはかなり厄介なので」
と、ブライトは頷いた。
「グランツさんの魔法は、言ってしまえば、これまでの魔法の歴史を覆せるようなものでもあります。彼に魔法攻撃は効かない、と言った方がわかりが良いでしょうか。兎に角、彼には魔法が効かない。そう思った方が良いです」
「は、はあ……」
まだ話が見えてこなかった。
何故、ここで、グランツが敵か味方かという話になるのか。それに、彼が魔法が効かないという事と、私が彼と敵対しない方がいいというのはどういうことなのか。私は、首を傾げていると、ブライトは更に続けた。
「考えても見てください。魔法が効かないと言うことは、エトワール様の魔法が効かないと言うことですよ。これは、非常に厄介なことです」
「聖女の魔法もユニーク魔法に近いものじゃないの?」
「そうです。ですが、魔法であることには変わりありませんから、彼はそれらを斬る、無効化できるのです」
「つまり……?」
「彼が敵に回れば、まず我々に勝ち目はないでしょう。剣の腕もなかなかのもので、一対一ではかなり厳しいと思われます。それこそ、周囲を囲んで一斉に弓矢砲撃を……」
「ちょ、ちょっと待って、何でグランツが敵に回るという話になってるの?」
私は、さらに続けようとするブライトを止めた。
どうして、彼がグランツが敵に回った場合の話をするのだろうかと。そりゃ、聞いていれば私の魔法が効かないというのは厄介かも知れない。聖女の魔法でさえ効かないグランツの魔法、確かに敵に回られたら厄介だし、魔法しか取り柄のない私じゃまず勝てないだろう。しかし、どうしてそんな仮定の話をするのだろうか。私もさっきしたけれど、それとこれとは訳が違うと。
まるで、これからグランツが敵に回ってしまうような言い方を。
「グランツは裏切ったりしないもん」
「……そうですね、彼は主に従順で誠実な騎士ですから」
「それは……どうか分からないけれど」
現に私を捨てて、トワイライトの騎士になったけど、と誠実なのかはどうか置いておいて、裏切ったりはしないだろうと思った。それは、大きなわく、光魔法の者達を裏切ったりしないだろうという意味だが。彼が闇魔法の者を嫌っているからという根拠からだが。だから、彼は裏切ったりしないのではないかと。
ブライトは、まだ険しい表情をしていた。
「さっき、話していたとき……そういう話になったの?」
「……いえ、そういうわけではありません。ただ、これは僕が個人的に思ったことで。気になるようでしたら、グランツさん本人に聞いて下さい。僕の口からは、何も言えないので。彼も、言いたくない様子でしたし」
「そう……」
グランツが何を言いたくないのかは分からなかったし、ブライトもブライトで言いたくないことがあるみたいだから、きっとグランツに聞いても同じ反応が返ってくるだけだろうと私は、今の時点で聞くことを諦めていた。話したければ、自分から話すだろう。
それにしても、攻略キャラ同士で秘密事とは、これがトワイライトだったら相談とか話したりするのかなあ何て思ったが、多分変わらないだろう。
私は、そんなことを考えてもう一度ブライトを見た。彼と目が合うと、ブライトはにこりと優しく微笑んだ。
いつもの笑顔だと思い、私はそれ以上は考えないでおこうと思った。今日は疲れたから。
「引き止めてすみませんでした。皆さんが待っていると思うので帰りましょうか」
と、ブライトは優しい声色で言う。
私は、こくりと頷きながら歩き出したが、その途中でもう一つ聞きたいことがあると、彼に言葉を投げた。
「ブライト」
「はい、何でしょうか」
「ブライトもリース……殿下の、皇太子殿下の誕生日には出席するの?」
「はい。父上の代わりに、侯爵家の代表として」
と、ブライトは言った。リースの誕生日には彼も出席するのかと、私はふーんと自分で聞いたのにもかかわらず内心薄い反応をしていた。
でも、リースの誕生日にもブライトに会えると言うことは、その時に彼から話しかけてくれるかも知れないと少し期待を抱いてしまった。彼が言いたくないことを、話してくれる機会なのではないかとも。
まあ、でなくとも何となく予想でブライトは出席するだろうなとは思った。ヒロインストーリーの初めのイベントでも会ったから、攻略キャラ達が集まっても可笑しくない。
リースの誕生日には、ほぼ皆集まるんだろうなと思って、少し怖くもなってしまった訳だが。攻略キャラが集まるとろくな事がないから。
私は、そんな風に考えて再び歩き出したブライトの後を追った。