テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
195
#死亡遊戯で飯を食う
ユイ
86
はるか
26
コメント
1件
ああ、すごく素敵な世界観でした……! 駅の地下通路の片隅にある「忘れ物預かり所」、しかも未来の自分が過去に忘れたものが届くなんて、ロマンチックすぎます。白髪の老人の「今はまだね」という台詞がもう、たまらなくいい。蓮くんが白紙のノートを開いて、未来の自分の文字を見つけた時の「胸の奥が熱くなる」感覚、すごく伝わってきました。私も編集者として、誰かの背中を押せるような作品を届けたいなって改めて思いました。続きが気になります。
木曜日。雨。中央駅の地下通路の突き当たりに、その場所はある。薄暗い白熱灯に照らされた看板には、『忘れ物預かり所』とだけ書かれていた。「すみません」大学生の蓮(れん)は、濡れた傘をたたんでカウンターを叩いた。就職活動の面接にすべて落ち、土砂降りの雨に降られ、人生に絶望していた帰り道だった。奥から出てきたのは、仕立てのいい三つ揃いのスーツを着た、白髪の老人だった。老人は眼鏡の奥の目を細め、蓮をじっと見つめた。「おや、木曜日の wise(ワイズ)なお客さんだ。何を失くされましたかな?」「いや、何かを落としたわけじゃないんです。ただ、雨宿りに……」蓮が言いかけると、老人は「おや」と声をあげ、カウンターの下から一つの箱を取り出した。「いいえ。あなたは今日、ここに届くはずの忘れ物を取りに来た。間違いありません」老人が箱から取り出したのは、一冊の小さなノートだった。表紙は真っ白で、何も書かれていない。蓮がそれを受け取り、ページをパラパラとめくってみる。しかし、中身もすべて白紙だった。「これ、ただのノートですよ? 僕のじゃありません」「今はまだね」老人は悪戯っぽく微笑んだ。「ここは普通の預かり所ではないのです。木曜日にだけ、『未来のあなたが、うっかり過去に忘れていったもの』が届く場所なんですよ」「未来の、僕……?」「そのノートは、5年後のあなたがここに置き忘れたものです。今は白紙ですが、あなたがこれから歩む選択によって、文字が浮かび上がるはずです。さあ、持っていきなさい」蓮は狐につままれたような気持ちで、ノートを鞄にしまい、預かり所を後にした。翌日。金曜日。昨日落ちた面接のことはすっぱり諦め、蓮は以前から興味のあった、小さなデザイン事務所の採用試験を受けることにした。倍率は高いが、どうしても挑戦したかった場所だ。履歴書を書き終え、ふと机の上の「白いノート」を開いてみる。すると、驚いたことに、1ページ目に薄いブルーのインクで文字が浮かび上がっていた。『2026年6月26日。あの時、諦めずにデザイン事務所のドアを叩いて本当に良かった。ここから僕のすべてが始まったんだ』それは、紛れもない蓮自身の筆跡だった。蓮はノートを強く握りしめた。未来の自分が、今の自分を応援してくれている。胸の奥が熱くなるのを感じた。「よし、行こう」蓮はノートを鞄に入れ、新しい一歩を踏み出すために家を出た。彼の未来は、今、この瞬間から書き換えられていく。