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・【22 紙芝居】
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前にふとした雑談で、確か父親は紙芝居をやっていたと言っていた人がいた。
もしかしたらまだ紙芝居を持っているかもしれない。
僕と田沼さんはその場所へ向かった。
場所はフライド亭、前にフライド亭の無料券を消化しに来た時に、紙芝居の話が出たのだ。
店の中へ入るとすぐさま村上さんが、
「おぅ! 佐助! 何だぁっ? 今日は別の女かぁっ? はべらかすな! はべらかすな!」
「全然そういうのじゃないです。変な煽りを入れないでください」
看板娘の樹希さんもやって来て、
「ちょっとぉ、せめて真澄ちゃんまでにしてよぉ、私は二番手以下にはなりたくないよっ」
「そういう冗談、返しづらいんで止めてください。今日はちょっとお願いがありまして」
すると村上さんは強く頷きながら、
「あぁもう! うちの樹希はオマエさんにやるよ! 結婚してこい! 今から!」
「そういうことじゃなくて、紙芝居を譲ってほしいなと思っているんです」
「紙芝居っ? 何だ急に! 樹希じゃなくて紙芝居っ?」
「紙芝居で演技の練習をしたい、こちらの田沼さんがいまして」
田沼さんはコクンと頷いてから、
「はい、私です……」
村上さんはう~んと首を斜めにしてから、
「あー、小屋だな、あのほら、小屋のすぐ右側、樹希、オマエ持ってこい。あの小屋は密閉の良い場所だから埃もそんな無いだろ」
「はーい! じゃあ佐助くん、ちょっと待っててね!」
そう言って樹希さんは颯爽と店から出て行った。
ただ紙芝居を受け取るだけなのもアレなので、
「村上さん、お持ち帰り用のフライドチキンを十二本お願いします」
「おぉ! 何か多いな! 樹希が帰ってくる前に用意できるかなぁ!」
そう言って村上さんはまた調理場に戻った。
田沼さんが小声で僕へ、
「十二本……何だか多いですね……」
「実は今、知り合い集めてパーティしているんです。だからいっぱい持って帰ろうかなと思って」
「……その場に私も行くことになる感じですか……?」
「まあそうなりますね、あの、騙した長谷さんもいますよ」
「……!」
目が飛び出るほどに驚いた田沼さん。
まあ確かに何を言われるかどうか分かったもんじゃないけども、
「そこはまあ、贖罪といった感じで、直接謝罪したりしてください」
「佐助さんって、結構鬼ですね……」
「そうですか? 僕は結構優しいつもりでいるけどもなぁ」
ちょっとした間のあと、田沼さんが、
「でも感謝しています……佐助さんのおかげで私、立件されなかったんですよね……?」
「それはどうか分からないけども、何らかの助け船が無ければ、ちょっとどうなるか分かんなかったかもなぁ」
と少し、かつ、あえて、恩着せがましく言った。
対等にやり取りするのはまだ早いと思って、ある程度こっちのペースで喋られる状態を保つため、だ。
「本当に有難うございます。紙芝居と聞いた時も、それならば、みたいなところがあって、渡りに船みたいなところもあって、本当に嬉しかったです」
「それなら良かった。これからは紙芝居でしっかり演技の練習をしてくださいね」
「はい」
というような会話をしていたところで、樹希さんは袋に入った紙芝居を持ってきて、村上さんもフライドチキンを揚げ終えた。
村上さんは威勢良く、
「今日は別の女を連れて来たからお代もらうぞ!」
「理由がいらないです。普通に払いますから」
樹希さんは紙芝居を田沼さんに持たせようとしているので、僕はフライドチキンの紙バッグを田沼さんに渡して、僕が紙芝居を受け取った。
どう考えても紙芝居のほうが重そうだったので。枠が結構しっかりしている木枠の紙芝居で、マジモンのヤツだ。
樹希さんは笑顔で、
「やっぱり優しいんだから! 佐助くん! 大好き!」
「受け答えに困る冗談、いい加減止めてください」
「結構本気として受け取ってもいいからね!」
「紙芝居有難うございました」
「塩対応なんだから!」
フライドチキンは美味しいのに人が嫌だな、とハッキリ思ってしまった。
ご厚意の、好意のパンチが重すぎるじゃぁないんだよ。
僕と田沼さんはその場を後にして、近くのスーパーで水飴を買ってから、長谷さんの家へ戻ってきた。
「ここ、貴方が騙した長谷さんの家ですので。長谷さんがいます」
「はい……」
何だか震えているようにも見えたが、まあそれは仕方ないとして、みんなと顔を合わせると、すぐさま真澄が、
「おぉ! ソーくんってすごいんだぞ! アタシより頭が良い可能性が出てきたぞ! 勉強! 勉強が!」
開口一番に負けの話からスタートじゃぁないんだよ。
真澄は僕の隣の田沼さんを見るなり、
「誰だ!」
と叫んだ。
僕はまあまあといった感じで、もう既に全員が揃っているテーブルへ行き、
「こちらはオレオレ詐欺犯とそのオレオレ詐欺を止める人を同時に行なっていた田沼さん。演技の練習をしていたんだって」
大切な情報を全部一息で言うことにした。間を開けると、真澄がうるさいことになるから。
「あとこれお土産のフライドチキンです。フライド亭から買ってきました」
僕は紙芝居を置いて、田沼さんからフライドチキンの紙バッグを受け取って、ソーくんに渡した。
すぐさまサキちゃんとタカシくんが中を開けて、三人でキャッキャッと言っている。
タカシくんも仲良くなったみたいで良かった。
ミョッシーさんは何だか訳が分からず呆然としている様子。
真澄は一応こういう事件的なことには慣れているのか、ちゃんと黙って待ってくれている。
村井さんも静かに田沼さんのほうを見つめている。
そして長谷さんが、
「まあ何だ、ワシのこと騙したわけだが、あの時に言った通りワシは全て佐助くんに任している。きっとその、佐助くんが持ってきた紙芝居みたいな荷物で何かするんだろう。ワシのことはもうそれで不問だ、と、言いたいところだが、今日はパーティだ。嬢ちゃん、オマエも今日はここでパーティを楽しみなさい」
「えっ」
田沼さんが驚くように声を漏らした。
長谷さんはゆっくり頷き、
「まあとりあえず楽しめばいいだろう、子供がやったことにいちいち目くじらを立て続けるのも正直面倒だ。細かいところは全部佐助くんに任せて、ワシは楽しむことに専念させてもらう」
いや全部僕に任せるじゃぁないんだよ。いやまあ信頼して頂けるのは有難いけども。
「それでは田沼さん、あっ、自己紹介を」
「……私は田沼涼子です。よろしくお願いします」
と言ったところで真澄が笑顔で万雷の拍手をした。
ミョッシーさんは嬉しそうにバンザイしながら、
「やったぁ! 新しい友達だぁ! 私はミョッシー! ミョッシーって呼んでいいよ!」
そこからそれぞれが自己紹介をしたところで、パーティ開始。
既にみんなある程度食べていたみたいだけども、フライドチキンの投入で俄然盛り上がるちびっこ勢。
「田沼さんって人の作ったモノとかも食べられる?」
と僕が確認すると、
「はい、大丈夫です」
と答えた。最初はそりゃ馴染まなかったけども、ミョッシーの独特の距離の近さによりグングン田沼さんは馴染んでいった。
宴もたけなわといったところで長谷さんが、
「で、その紙芝居は何なんだよ」
と言ったところで僕が、
「田沼さんは今度紙芝居をやっていくことになっていて、もしする日が決まったらみんなで見に来て、サクラをやってほしいんです」
それにサキちゃんが、
「サクラってなーにー?」
僕はすぐさま、
「一緒に見に行くことだよ」
とザックリ答えると、サキちゃんは嬉しそうに手を叩いた。
チラリと、真澄のほうを見ると、案の定サキちゃんと全く同じリアクションをしていた。
いやサキちゃんと同じような語彙力で同じように学ぶじゃぁないんだよ。オマエは本当の意味知ってろよ。
タカシくんも紙芝居に興味が向いてきたので、まずみんなで確認することにした。
その紙芝居は結構役が多くて本格的ながら、田沼さんが通しでやってみると、みんな拍手した。賞賛の拍手だ。
真澄が、
「すごい! 男性役も女性役も完璧だ!」
と言えば、すぐさまミョッシーさんが、
「両声類ってヤツだね! ネットでしか見ないと思ったらまさかリアルで見られるなんて! 耳が嬉しい!」
ソーくんは驚嘆の溜息をつき、サキちゃんとタカシくんも嬉しそうだ。
長谷さんは満足といった感じにゆっくりと手を叩き、村井さんは優しい笑顔で細かく拍手をしていた。
田沼さんは笑顔で頭を下げて、胸をなで下ろしているようだった。
まあこれだけで十分、紙芝居として通用すると思うけども、
「じゃあ最後に映える水飴でも考えましょうか」
と僕が言うと、真澄が、
「佐助は料理が好きねぇ」
とクスクス笑われてしまった。いや別にいいだろう。
まあいいや、
「料理といっても今風に少しアレンジするだけです。密閉された市販品から直接出すところを見せないと、今のお子さんは食べないでしょうし」
村井さんは頷きながら、
「確かに今は親も子供も厳しいですからね、そういうことに」
「というわけで水飴に料理用のチョコチップやカラーシュガー、ナッツなどを目の前でまぶすなんてどうでしょうか」
ミョッシーさんは笑いながら、
「本当にちょっとした工夫だ! でも何かいいかも!」
スーパーで買ってきた水飴でどのくらいまぶすかの研究や、その場で、立ちながらちゃんとまぶせるかの練習を外でするなどして、今日のパーティはお開きになった。