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・【23 のっぺらぼうと花壇荒らし】
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夏休み。蝉の鳴き声がところせましに響き渡り、日差しはじりじり暑い。
まだ七月下旬とは思えない、と考えそうになったが、七月の下旬ってもうそういう日々かと一人で納得していた。
最近の僕と真澄はのっぺらぼう事件と花壇荒らし事件の両方を追っていた。
僕は今、のっぺらぼう事件のほうのメモ帳を改めて確認している。
髪の毛はおろか、顔の一切が無いのっぺらぼうが出没しているという噂。
のっぺらぼうを目撃したという証言は男性も女性もあるのだが、皆「何だかこそこそ隠れていた」と言っている。
大っぴらに顔を出して歩いているわけではないらしい。
というと妖怪なりに突然見せて驚かそうとしているのだろうか。
そののっぺらぼうを目撃した直後に、小さな子供の泣く声が聞こえたという情報もある。
それはのっぺらぼうの一味の仕業なのか、それとも、のっぺらぼうが子供に目撃されたのだろうか。
こののっぺらぼう事件と共に今、街中で話題になっているのが花壇荒らし事件だ。
これは名前の通り、いたるところの花壇が荒らされている事件だ。
今のところ目撃者はゼロ。巧妙にバレないタイミングで荒らしているらしい。
まだ確証は持てないけども、予想は少しずつ、といったところで真澄がベンチに座っている僕にスポーツドリンクの缶を渡しながら、
「やっぱりアタシの説が本当だと思う!」
と叫んだ。僕はもらったスポーツドリンクの缶を飲み始めると、真澄は僕の隣に座り、喋り始めた。
「やっぱり! のっぺらぼうが花壇荒らしなんだって! 妖怪的な移動方法で上手くやってるに違いない!」
「いや超常現象で全てを片付けちゃうじゃぁないんだよ、一色淡に考えることは違うんじゃないかな?」
「でも同時に行なわれているということはそういうことだと思う!」
「それはまあたまたまなんじゃないかな」
僕があしらうようにそう言うと、頬を膨らませた真澄。
真澄はさっきよりも強い口調で、
「とにかく! のっぺらぼうを捕まえないといけない! 怖いけど! 怖いけど顔のパーツが無いくらいのヤツなら勝てる!」
「妖怪的な移動方法があるのに?」
と僕が少し意地悪をするように言うと、真澄はブルリと震えてから、
「佐助を! おとりにして!」
「いやおとり捜査は日本の警察もしちゃいけないことになってるから」
「じゃあどうするんだよ! 未知が相手だろ!」
「未知が相手じゃない時もあるから大丈夫」
真澄は「えっ」と驚いてから、
「何か目星はついたのか!」
「まあそれなりに」
そう言って僕は立ち上がり、飲み切ったスポーツドリンクの缶をゴミ箱に入れ、とりあえず伸びのポーズをした。
すると真澄は嬉しそうに立ち上がり、
「おっ、ストレッチならいくらでも手伝うぞ!」
「いいよ、一人で伸びたいだけだから」
さて、目星は大体ついたが、情報がまだ足りない。
あとはもう足で稼ぐしかないかと思っていたその時だった。
僕のスマホに連絡が入った。
それはソーくん・サキちゃん兄妹からだった。
また勉強会でも開いてほしいという話かなと思っていると、どうやらサキちゃんがのっぺらぼうに遭遇したという話だった。
最近元気が無いサキちゃんを不思議に思ったソーくんが問いただすと、実は三日前にのっぺらぼうに遭遇していたという話で、思い出したらまた苦しくなってサキちゃんが泣いてしまったということらしい。
というわけで僕と真澄は急いでサキちゃんの元へ直行した。
すると、ソーくんに慰められるようにサキちゃんはしくしくと泣いていた。
「サキちゃん、今、話せるかな?」
僕がそう問いかけると、
「佐助お兄ちゃん!」
と言ってサキちゃんが僕に抱きついてきたので、優しく抱きしめると、少し落ち着いたように僕から離れて、
「のっぺらぼうが、のっぺらぼうが、追いかけてきて……」
今までの目撃情報とは違う。
のっぺらぼうが隠れていたのではなくて、追いかけてきたという情報だ。
それを聞いた真澄は拳を握り、
「のっぺらぼうが追いかけてくるなんて怖すぎる! 絶対ぶっ倒してやる! 何らかの手で!」
僕はそんな真澄のことはスルーして、サキちゃんに聞きたいことを聞くことにした。
「そののっぺらぼうは二人組じゃなかった?」
「よく分かんない……急いで逃げたから……」
僕の言葉に対して真澄が、
「二人組ってどういうことだよ」
「いや、一応確認として」
「のっぺらぼうが二人もいたら怖すぎるだよ! 変なこと言うな!」
一喝してきた真澄。
まあサキちゃんも分かんないらしいし、このことはもう置いといて、
「とにかく、今は夏休みだからソーくんもサキちゃんのことを守ってあげてね」
「分かった! 兄としてしっかりする!」
ソーくんとも約束し、また次の木曜日に一緒に勉強会をする約束もして、その場をあとにした。
さて、手掛かりが無くなった、けども重要なことも分かった。
あとは決め手となる何かがあれば、と思ったところで遠くから拍手の音が聞こえてきた。
急に授賞式じゃぁないんだよ、と思いつつも、その音がするほうへなんとなく行くと、そこには人だかりができていた。
その中心部を見ると、知らん人が何か饒舌に喋っていた。
それを大勢の人たちがスマホのカメラで撮っているような構図、この人が何かしたのだろうか。
しっかり耳を傾けると、
「俺が連続花壇荒らしの犯人を特定しましたわ! もう俺、この街のヒーローじゃないのっ?」
真澄と顔を見合わせる僕。
どうやらこの人が連続花壇荒らし事件のほうの犯人を特定したというか、捕まえたという話?
その人は自慢げにずっと喋っている。
「いやぁ、まさかあんな子供がやっていたなんてね! やっぱ子供のやることって残酷ですわ! 花壇にキック・キック・キックって! タイのキックボクサーかってくらい! ハハッ! ここおもろいところなんで太字でよろしこ! つって!」
何かトークが軽妙なのに面白くないな、と思っていると、急に真澄が人だかりの輪から飛び出して、その喋っている人に近付いた。
近付かれた喋っている人は真澄から少し距離をとるように、横に移動すると、真澄もまたその人の真正面に立とうとして、横に移動。
それを黙って何回か繰り返すと、その喋っていた人が、
「いや今撮ってねんて! つーか顔出しOKっ? 君ぃっ?」
「アタシは常に顔を出してる!」
「じゃあええってことね、なんやなんや、急に。握手ならしたるで!」
そう言われた真澄は頷いてから、手を差し出して握手した。
本当に握手したかったんですじゃぁないんだよ。
握手が終わると真澄は万雷の拍手をしながら、
「偉い! すごい! 連続花壇荒らしを捕まえるなんて最高だ!」
「まっ、まあな! 目撃しただけやけどな!」
「目撃した状況を教えてほしい! ヒーローインタビューをしてほしい!」
「まあ何か普通にやっとったわ、それを目撃して、カメラで保存して、つー感じや」
そう少し面倒クサそうに答えた人だかりの中央の人に対して真澄は、あんまりウザがられているとか気にせずに、
「それはコンビニ帰り? コンビニ帰りのだらしない恰好とか? だから直接捕まえずカメラで保存したという感じ?」
「いやまああれやねんて、捕まえようとして抵抗されてケガしたら嫌じゃん? だからスマホのカメラで撮っとけば確実やん?」
「確かに! でも相手が子供だったらいっても良かったのではっ? アタシは子供には強く出れる!」
いや、嫌な大人宣言じゃぁないんだよ。
こんな探偵の助手は嫌だじゃぁないんだよ。
人だかりの中央の人は後ろ頭をボリボリ掻きながら、
「まあ子供はええリアクションやけども、ほら、何するか分かんないところもあるから」
「その場で捕まえたら即ヒーローだったのになぁ!」
「いや人いない時やったらから即ヒーローにはならへんわ」
どう見ても、その人だかりの中央の人は真澄に対して困惑していたので、僕は前に出て、
「真澄、もう帰るよ。邪魔になってるから」
と言うと、人だかりの中央の人が、
「おっ、この人の彼氏さんですか? 顔出しOKってことでいいっすか?」
「彼氏じゃないけども顔出しOKということでいい、えっと、ユーチューバーか何かですか?」
「そうや、そうです、というわけでヒーローインタビューの全記録はオイコラドー・チャンネルにて放送するぜ!」
変なユーチューバーの映像に顔出しするの、めっちゃ嫌だけども、真澄に絡まれたほうがもっと嫌だっただろうからしょうがない。
僕と真澄はその人だかりから出て、近くのベンチに座った。
でも真澄はまだあのオイコラドー・チャンネルというのが気になっているらしく、近くに行き、見に行った。
僕はスマホで調べモノを始めた。