「待って……違うんでしょ? ただの友達なんでしょ……?」
声が裏返り、涙で視界が滲んだ。
彼のシャツの袖を掴もうと伸ばした手は、すぐに振り払われる。
『やめろよ。こんなとこで騒ぐな。』
「やだ……! 行かないで……!」
必死にすがりつこうとした。
でも彼は、冷たく吐き捨てる。
『……重いんだよ、お前。』
その言葉は刃物より鋭く、胸に突き刺さった。
わたしの心臓はまだ動いているのに、体の中身が全部、黒い空洞に変わっていく。
「……わたし、重い……?」
かすれた声が震えた。
隣の女は小さく笑った。
『ふふ、かわいい。』
視界が揺れる。世界が音を失っていく。
ただ一つ、スマホの震える音だけが現実をつなぎとめていた。
ポケットから取り出すと、通知が一つ。
あのアカウント。
――「それでも彼が欲しいなら、方法を教えてあげる。」
涙で濡れた指先が、ゆっくりと画面をなぞった。
そのとき、頭の奥で何かがひび割れる音がした。
……方法?
彼を取り戻せる方法?
胸の奥に巣くう絶望が、甘い毒のように変わっていく。
もしそれが叶うなら、どんなことだって――。
わたしは狂気の入り口に立っていた。
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