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ニューヨークのとあるスーパー。買い物カゴを片手に、疲れた表情で歩くエディの隣には……もちろん、声だけは聞こえる相棒がいた。
「エディ……お菓子売り場に行こう」
「行かない」
「チョコレートだ」
「お前な、俺はちゃんと食材を買いに来てるんだよ。米、卵、牛乳……」
「脳みそは?」
「スーパーに売ってるか!!」
買い物リストを片手に歩くエディに、ヴェノムはぶつぶつと文句を言い続ける。
それはまるで、落ち着きのない子どもを連れているようだった。
エディがトマトを手に取った時。
「赤いな。美味そうだ」
「いや、これは普通のトマト。ソース用」
「食べる」
「だから人前で触手出すな!!」
危うく黒い触手が伸びそうになった瞬間、近くにいた老婦人がぎょっとした顔をして振り向く。
エディは慌ててトマトをカゴに入れて笑顔を作った。
「はは、今のは……えっと、独り言です」
老婦人は怪訝そうに去っていく。
「……お前のせいで不審者扱いされるんだぞ」
「エディが下手くそだからだ」
「誰のせいだと思ってる!!」
買い物リストをほぼ終えた頃。
「次は……牛乳だな」
「違う。次はチョコレートだ」
「行かないって言ってるだろ!」
「エディ……お前が行かないなら、俺が行く」
その瞬間、黒い影がエディの腕を無理やり動かした。
「やめろおおおお!!」
気付けばエディの体は勝手にお菓子売り場へ。
子どもたちが並んでいる前で、エディの手がチョコバーをわし掴みにする。
「ちょ、やめろ! 人前だって!!」
子どもがきょとんと見上げ、母親が怪訝そうな目を向ける。
エディは必死で笑顔を作る。
「あはは……これは、えっと……記事の取材で……」
「食え」
「食わねえよ!!」
ようやく会計に並ぶ。
カゴには真面目な食材が整然と並んでいた……が、その上に山盛りのチョコバー。
「おい、なんで勝手に入れた」
「俺の正当な要求だ」
「財布の中見ろ! 20ドルしかないんだ!」
「なら他を返せ」
「牛乳返すわけにいかねえだろ!」
順番が来て、店員の青年が品物を打ち込む。
「今日はチョコレートパーティーですか?」
エディは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
帰り道。
レジ袋を両手に抱え、ため息をつくエディ。
「……もう二度と一緒にスーパー行かねえ」
「俺がいなければ、退屈だっただろう?」
「静かに買い物したいんだよ」
「でも楽しかった」
エディは呆れたように、しかし少し笑ってしまう。
確かに、疲れるけど退屈はしない。
「……本当にお前ってやつは」
夕暮れの街を歩く二人の影。
エディはもう一度深くため息をつきながら、袋の中でガサガサと音を立てる大量のチョコバーを睨みつけるのだった。