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その青年は、入り口の前でまるで少年のように小さくうずくまっていた。
「ほら、ほっくん。スタッフさんが待ってるよ」
「やっ! やぁだ!」
「ちょっと北斗。もう…」
母親は中に入らせようとするが、北斗と呼ばれた彼はじたばたと抵抗して頑なに動こうとしない。
「北斗さん。北斗さんの新しいお部屋、見てみますか?」
迎えに出たスタッフがそう声を掛けると、北斗は切れ長の目を大きく開いた。
「おへや、みます」
立ち上がって、スタッフの誘導で中へと進んでいく。
「良かった…。息子のこと、よろしくお願いします」
一礼した母親は、名残惜しそうに北斗の後ろ姿を見送ってから立ち去った。
「皆さん、新しい入居者さんの紹介です。松村北斗さん。樹さんと同い年ですよ」
1階の多目的ルームに集まった、4人の入居者。見慣れない彼に興味津々だ。
電動車いすの向きを変え、ジェシーがにこりと笑いかける。
「こんにちは、北斗くん。俺ジェシー。よろしくね」
返答がないのも気にせず、今度は慎太郎が続く。
「俺は森本慎太郎。しんたろーって呼んで。で、こいつは高地優吾」
こいつって言うなよ、と他己紹介された高地は笑う。「どんなお顔なんだろう」
スタッフが樹に手話通訳し、「こちらが樹くん。誕生日もね、3日違いなんですよ」と紹介する。
北斗は不思議そうな顔を樹に向ける。樹は声を出すことなく、優しく笑いかけた。
「あとね、大我って子がいてね。部屋が大好きだからここには来てないんだ」
ジェシーが言った。大我は、あまりメンバーとも顔を合わせない。合わせられないのだ。
「じゃあ、お部屋に案内しますね」
スタッフが北斗を連れてルームを出ると、早速4人の間では彼の話でもちきりになる。
「すごいかっこいいね、北斗くん。俳優さんみたい」
慎太郎の言葉に、高地も前のめりになる。「マジ? そうなんだぁ。もっと声聞きたいな」
「じゅりが笑ったら、ほくとくんもふふって笑ってたよ。仲良くなれるんじゃない?」
ジェシーの言葉が、樹の手元にあるスマホに文字で表示される。樹はメモに入力して、ジェシーに見せた。
『そうかも。めっちゃきれいな笑顔だったな』
「お前もだよ」
2人は楽しそうに笑い合う。その文章を慎太郎も見て、おかしそうに笑い声を出した。
自身の部屋に行く前に、その向かいの部屋に案内された北斗。そこのネームプレートには、「京本大我」の文字が。
「もう一人のお友達です。恥ずかしがり屋さんですから、ちょっとだけあいさつしましょう」
コンコンとノックしてから扉を開けると、奥のベッドに大我は腰掛けていた。何をしているのかは、こちらからは伺えない。黒いTシャツを着たその背中は、明らかに4人の雰囲気とは違う。
「…まつむら、ほくと、です」
北斗が勇気を出して名乗ると、大我の後ろ姿がぴくっと揺れる。しかし、振り向くことはなかった。
スタッフは困り顔で、そっとドアを閉める。
「またお話できるといいね、北斗くん」
それから北斗は割り振られた部屋に入る。階下にいたメンバーも、それぞれ各自の場所に戻っていく。
性格も年齢も障がいも違うみんなが集うこのクラリティに、新しい日常がやってきた——。
続く
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