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ゆうき あきや
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第181話:年下師匠のガチコンサル
「……終わった。俺のライフはゼロだ……」
同接5万人という、かつてない熱狂の中で幕を閉じたメガコラボ配信。
PCモニターが暗転した瞬間、俺は三万円のゲーミングチェアの背もたれに深く沈み込んだ。
帯広の四畳半。カビ臭い部屋の空気だけが、俺の火照った顔を冷やしてくれる。
「月給10万円」という経営者としての致命的なバグを数万人の前で大暴露され、俺は完全に『スーパーボトム(超底辺)社長』としての不動の地位を確立してしまった。
『ルシフェル様、お疲れ様でした。当社の公式アカウントへのフォロワー流入速度、異常値を記録し続けています。大成功ですね』
ディスコードの向こうから、我が社の鬼畜秘書・結愛(ゆあ)が、パチパチと電卓を叩きながら満足げに報告してくる。
「成功なもんか……。俺の尊厳はズタズタだ。明日からスーパーの半額弁当コーナーで、近所のおばちゃんに指差して笑われるかもしれない……っ」
『被害妄想はおやめください。それより、先方のうめお先生から【裏回線(バックヤード)】での通話リクエストが来ています。繋ぎますよ』
「えっ、ちょ、待っ——」
ピロンッ。
有無を言わさず切り替わった通話ルーム。
そこから聞こえてきたのは、配信中のあざとい『猫川まるき』の男の娘ボイスではなく。
『——お疲れ様でした、秋谷社長。最高の数字(トラフィック)でしたね。事前のシナリオ通り、完璧な立ち回りでした』
昨日、俺を震え上がらせた、あの【三億円の女】——天才クリエイター・鰹節うめお先生の、冷徹で知的な地声だった。
「あ、お、お疲れ様です、うめお先生……。その、俺、終始パニックになってて、足引っ張ってなかったですか……?」
俺が四十歳のおっさんとは思えないほど卑屈な声で尋ねると、スピーカーの向こうで、ふふっ、と上品な笑い声が聞こえた。
『謙遜しすぎですよ。ご自身の弱みや失敗(税金トラブル)を、あそこまで完璧なエンタメに昇華できる経営者はそういません。……ただ、一つだけ苦言を呈してもよろしいですか?』
「く、苦言……っ! はい! なんでしょうか!」
俺はゲーミングチェアの上で、元自衛官の直立不動の姿勢をとった。
『秋谷社長。貴方、【自分自身の安売り】が過ぎます』
「え……?」
『確かに、月給10万円の貧困社長というキャラクターは面白い。でも、それはあくまで「初期のバズり」を作るための起爆剤に過ぎません。その状態を維持していては、会社がどれだけ稼いでも、社長個人の幸福度は一生上がりませんよ』
うめお先生の言葉は、鋭く、そして正確に俺の急所を抉ってきた。
『インボイス、役員報酬の固定、法人の税金。……日本の税制が理不尽なのは私もよく知っています。ですが、だからこそ【やり方】を変えなければならないんです』
「やり方を、変える……?」
『ええ。私みたいにやり方を根本から変えれば、年収3億くらい余裕でいけるのに』
「…………は?」
俺の思考が、一瞬だけ完全に停止した。
さんおく。
三億円。
宝くじの一等賞でしか聞いたことがないような数字が、一回り以上も年下の女性の口から、まるで「今日のランチ代」くらいの軽いテンションで飛び出したのだ。
「さ、さんおく……!? 先生、年収三億も稼いでるんですか!?」
『ええ、まあ。法人と個人の資産管理会社をうまく回せば、それくらいは。……秋谷社長、御社には今、世界中から外貨を獲得できる【ヨモ】ちゃんという最強のIPがあり、社長自身にも【スーパーボトム】という強烈なキャラクターがある』
うめお先生の声が、帯広の四畳半に、まるで神の啓示のように響き渡る。
『それなのに、ただ漫然と配信をして、スパチャを税金で持っていかれているだけなんて、あまりにも勿体ない。……秋谷さんは、自分の才能をもっと信じたほうがいい』
「俺の……才能……?」
『そうです。貴方には、人を惹きつける天性のストーリーメイクの才能がある。もっと自信を持ってください。貴方はすでに、数千万、数億円を動かせる【本物の経営者】の器なんですから』
ドクンッ、と。
俺の胸の奥で、何かが大きく脈打った。
思えば俺は、これまでずっと怒られてばかりだった。
自衛隊やコールセンター時代は上司に怒鳴られ、ナマポ時代はケースワーカー、起業してからは税務署に怯え、結愛には「ポンコツ」と罵られ、飼い猫にすら蹴り飛ばされる毎日。
四十歳になって、誰かに「才能がある」「自信を持て」なんて、真っ直ぐに肯定されたことなど、一度もなかったのだ。
それが今。
業界のトップを走る、正真正銘の天才クリエイターが、俺の(偶然の事故の連続でしかない)軌跡を「才能」だと認め、背中を押してくれている。
「うめお先生……っ」
俺の目から、ボロボロと熱いものがこぼれ落ちた。
単純。あまりにも単純な四十歳。
だが、極限の貧困とプレッシャーで擦り切れていた俺の心に、年下の天才師匠からの「ガチコンサル(全肯定)」は、致死量の劇薬として染み渡ってしまったのだ。
『まずは、収益構造の多角化ですね。秋谷社長。今のVTuber業界で、一番利益率が高くて、かつ税金対策にもなるビジネスモデル……なんだか分かりますか?』
「わ、わからないです……! 教えてください、師匠!!」
俺はもはや、プライドも何もかも投げ捨てて、PCモニターに向かって土下座の姿勢をとっていた。
『ふふっ、師匠だなんて。……いいですよ。せっかくのご縁ですから、トップ層が当たり前にやっている【メディアミックス】の魔法について、少しだけレクチャーしてあげます』
天才の甘い囁き。
そして、異常なまでに膨れ上がった俺の【自己肯定感】。
これが、のちに俺を地獄へと特攻させる最大の原因となることを。
涙を流して感謝しているこの時の俺は、1ミリも気づいていなかった。
コメント
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キャッ、うめお先生かっこよすぎた!!!😭💕💕 「年収3億」を今日のランチくらいに言うのヤバすぎて思わず二度見しちゃったよ…! 秋谷さんが初めてまともに肯定されて涙するところ、こっちももらい泣きした~「才能がある」って誰かに言われるのって、どんだけ年重ねても響くんだね😢✨ ラストの「地獄へ特攻」フラグがめっちゃ気になる…次回が待ちきれないっ!!!🔥