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「機甲部隊、近接が足りない! 101から103部隊まで、蒸気兵器チェーンソー抜刀! 前線を押し上げる!」
「トリスタン魔法騎士隊、高速詠唱開始、火炎弾散らせ!」
「アクアレムヒーラー隊、シールドを展開、持ちこたえて下さい!」
各国の代表が戦況に合わせて指示を出していく。
ギデオンの機甲兵が丸ノコ型のチェーンソーを装備すると、スターターロープを引っ張り、蒸気エンジンと歯車の回転音を響かせる。鋼鉄の装甲兵たちが、白い蒸気をまとって前進した。
「切り裂け!!」
ギュィィィン! と回転刃の 駆動音と共に放たれた斬撃が、獅子型魔獣に直撃。兵たちは連携を取り、一人が足を切り落とし、もう一人が下がった頭に刃を突き刺す。しかし、一匹倒した程度では魔獣の群れは止まらない。
「シールド展開!」
アクアレムのヒーラー部隊が一斉に杖を掲げ、青白い魔法陣を展開する。瞬間、半透明の水の壁が前線を覆い、牛型魔獣の突進を受け止めた。衝撃で波紋が広がるが、完全には突破されない。しかし、牛型魔獣たちが喉を振り絞って咆哮を上げる。
「ブモォォォォォ!!」
鼓膜を突き破ろうとする音の攻撃に、ヒーラーたちは耳を押さえ詠唱ができなくなる。
「魔法騎士隊よ、私が前に出る美しく援護せよ!」
結界が弱まったことに気づいたソニアが前へと進み、細剣に魔法の光を纏わせる。
「星の煌めきよ、我が鎧となれ! 星々の鎧!」
彼女の体を中心に、淡い光の輪が広がった。煌めく光の粒子が宙に舞い、その身を包み込んでいく。風が巻き起こり、金の髪がふわりと浮かび上がった。
光の粒子が意思を持っているように脚部に集まり、繊細な装飾が施されたグリーヴが作られる。鎖のように絡み合う光が腕へと伸び、優美なガントレットを象る。豊かな胸周りを守る純白のブレストプレートが生成され、白くくびれた腰と臍が露出する。
最後に、腰から伸びた魔力の光が一瞬の閃光を放ち、美しく流れる真紅のスカートを形作った。
魔導鎧を装備した彼女は、結界の外に飛び出すと、優雅かつ精密な剣技で敵を突き刺す。流麗な動きでありながら、嵐のような怒涛の細剣術。光を帯びるその剣の軌道は、まるで流星のようにも見える。
「はぁぁっ!!」
美しき剣技が、牛型魔獣の体を滅多突きにすると6メートルはある巨体がぐらりと崩れ落ちる。しかし、その直後――
「危ない!」
別のムカデ型の魔獣が横から飛びかかり、ソニアを薙ぎ倒す。
「がっ!」
「姫様!」
ソニアの親衛隊が即座に守備に回るも形勢は不利。
「くそっ、押し込まれるぞ!」
ジャガーは戦況の悪さに歯噛みし、作戦を急ぐことを決意した。
「全部隊、丘の上に移動! 陣形を固めろ!」
ギデオンの機甲兵が即座に移動を開始し、トリスタンの魔法騎士たちも指示に従う。
「皆さんアクアシールドを!」
セレーネがアクアレムのヒーラーたちに号令を出すと、丘の上に巨大なドーム状のシールドが展開される。全軍が水球のような結界内へと入っていく。
「シールドの際に地雷を設置する。魔獣どもを誘い込み、一網打尽にするぞ!」
ジャガーの指示でギデオンの工作兵たちが、結界魔法の壁際を覆うように地雷を埋め込んでいく。
結界の前には無数の魔獣が集まり、半透明のバリアを引っ掻いている。まるでエサが入った檻を開けようとして、躍起になっているようにも見える。
「発破地雷、地形液化地雷、共に設置完了!」
部下の報告を受け、ジャガーは時を見計らう。
「待て……待て……」
最も魔獣が、結界の側に密集した瞬間に叫んだ。
「今だ結界を小さくしろ!」
彼の号令に合わせてドーム状結界が少しだけ小さくなる。
すると魔獣が一歩前に進んだ直後に、地雷を踏む。
――ドゴォォォン!!!
爆炎が地面を裂き、轟音と共に魔獣たちの肉片が吹き飛ぶ。衝撃波が丘を駆け巡る。更に2種類の地雷は一つは爆発、もう一つは地面を液体のように溶かしてしまうものだった。
液化地雷によって土は泥のように溶け、巨大な円形の沼が形成された。魔獣は地面が液化していることに気づかず、走り寄ってきたところをズボッと液化沼の中に埋まり、身動きできなくなってしまう。
「よし、今だ! 美しきトリスタンの騎士達よ、醜き獣を撃て!」
上から見下ろす形となった魔法騎士たちが、一斉に魔法を放つ。雷撃が炸裂し、氷槍が降り注ぎ、沼の中の魔獣たちを殲滅していった。
ギデオンの兵たちも銃砲で援護し、魔獣の眉間を撃ち抜いていく。
馬鹿みたいに突進してくる魔獣が、次々に泥沼にハマっていくシーンは滑稽にも見える。
どれだけ強い魔獣も、上から打ち下ろされるのには弱く、簡単に処理できてしまう。
先程までの悲壮なムードは掻き消え、同盟軍全体に「勝てる」という希望が生まれる。
一見、完璧な戦略に思えた。
しかし、数分後ジャガーは表情を曇らせる。
「まずい……」
倒したはずの魔獣の死骸が積み重なり、泥沼を埋め始めていたのだ。
「くそ、死体が液化沼の足場になっちまってる! これじゃ奴らが突破してくるのも時間の問題だ!」
魔獣の群れは死体を踏み越えながら、再び丘を駆け上がろうとしていた。
「撤退の準備をしろ!」
「撤退だって!? 何を言っている!」
ジャガーの指示をかき消すように、グローリーが拳を振り上げ怒鳴りつけた。
「こんなに順調じゃないか!」
「バカを言うな! 沼落としが機能しなくなってる、これ以上戦えば全滅するぞ!」
「君は臆病風に吹かれているんだ! まだ兵はたくさん残ってるだろ!? 一つの策が崩れそうなくらいで、背中を見せちゃいけない!」
「ふざけるな、策も兵も出さない国が文句言ってんじゃねぇよ! 嫌ならテメーが前に出て魔獣を引き付けてこい!」
ジャガーはグローリーを睨みつけ、奥歯を噛みしめる。魔獣たちの牙は結界に届いており、今にも破られそうになっている。
戦局は、最悪を迎えようとしていた。
炎と血煙が立ち込める戦場。魔獣の咆哮と兵の悲鳴が入り乱れる。ソニアはジャガーと同様、これ以上は結界が持たないと察し、撤退を決断する。
「全軍後退する、トリスタンの騎士たちよ火線を防壁方面へ集中しろ! ヒーラー部隊を先に撤退させる!」
ソニアの鋭い声が響き渡る。
アクアレムのヒーラーたちは命令に従い、戦場を離れようとした。しかし、その前に一人の男が立ち塞がる。
「お待ちください! ここで退けば、我らの騎士道に泥を塗ることになります!」
声の主はアクアレムの禿頭の騎士、オクタスだった。
「オクタス!? 何を言っているの、もう撤退しないと!」
セレーネが驚愕の声を上げるが、オクタスは一歩も引かず、ヒーラーたちの前に立ちはだかる。
「今退けば、一番最初に逃げた我々は議会で糾弾されてしまいます!」
「そんなこと言ってる場合ではないでしょう!」
「姫様はアクアレムに卑怯者のレッテルを貼りつけるつもりですか! ここで兵を失ったとしても、アクアレムは勇敢に戦ったという記録は残ります!」
オクタスは剣を抜き、振り返ることなく叫ぶ。
「アクアレムの誇りにかけて、我らは逃げることは許されぬ! 全員残って最後の一人になるまで戦うのだ!」
その言葉に、ヒーラーたちは立ち止まって動けなくなる。
ソニアが指揮系統の混乱に舌打ちし、すぐさま魔法騎士たちに指示を飛ばす。
「魔法騎士隊、先にギデオンの兵たちを援護しろ! 防壁へ撤退する道を確保する!」
しかし、その判断が遅すぎた。
獅子型魔獣の群れが再び襲いかかり、牛型魔獣たちの咆哮が戦場に響く。
魔法騎士たちは懸命に応戦するが、次第に被害は大きくなり、戦線は崩壊の兆しを見せ始めていた。
コメント
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第30話、読み終えました。戦線が崩壊する緊張感がすごく伝わってきました。特にジャガーとグローリーの言い争い、あそこでの温度差がもう心臓に悪かったです……。ソニアが倒れたところもヒヤッとしましたが、なんとか持ち直してほしい。オクタスの「誇り」に縛られて動けないヒーラーたち、すごくもどかしかった。次どうなるのか気になって仕方ないです!