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「トリスタンの騎士たちよ、陣形を立て直すのだ!」
「アクアレム隊、反転して反撃せよ! アクアレムの底力を見せつけるのだ!」
「オクタス、あなたに指揮を預けていませんよ! ヒーラー隊撤退です! 撤退して下さい!」
「ジャガー様、ご指示を! ジャガー様ぁっ!!」
ギデオンの兵が、ムカデ型の魔獣に捕まり地中へと引きずり込まれていく。
「まずい……」
今にも打ち破られそうな結界。まともに機能していない指揮系統。総崩れな兵たち。
ヒーラー隊が魔力切れを起こすのは時間の問題で、その後どうなるかは言わずともわかる。
火薬と煙、そして血の匂いが荒野に広がっていく。魔獣は音と臭いに気づいて、徐々に数を増していく。
どこを間違った? ガレスについたことか? ガレスが兵を連れてこなかったことか? そもそも魔獣防衛会議に出たところからか? ジャガーが焦燥の色を浮かべたその時だった。
――ドン……ドン……ドン……
低く響く足音が戦場に鳴り渡る。
ダークラインの防壁から土煙を裂いて現れたのは、漆黒の騎士たちだった。
「な……」
ジャガーは思わず息を呑む。
リガルド帝国最強の精鋭――暗黒騎士隊、通称アイアンブラッド。
総勢一万近い騎士たちは黒曜石の鎧に身を包み、ドラゴンの国章が刺繍された真紅のマントを風になびかせる。剣を正面に掲げながら、重装騎士たちは横隊を組んで並んでいた。
その後方には、翼竜を駆る竜騎兵部隊が控え、圧倒的な威圧感を放っている。
「リガルド帝国……だと……?」
ジャガーが震えた声を漏らす。
暗黒騎士隊の最前列――その中心に立つメタボ男を見た瞬間、ジャガーの背筋に冷たい汗が流れた。
ラウル・グランツ。
リガルド帝国第三王子にして、暗黒騎士隊の指揮官。彼の瞳は冷たく、まるで窮地に立っている自分たちを嘲っているようだ。
「くそ……!」
ジャガーは彼らが現れた意図にすぐに気づいた。このタイミングでリガルドが動いたということは――
「奴ら……魔獣と一緒に、オレたちを掃除しに来たってわけか!」
最悪の状況だった。
魔獣の大群がすぐそこまで迫っている状態で、撤退する方向には一万の暗黒騎士たちと竜騎兵部隊が待ち構えている。
どう見ても絶望。魔獣からもリガルドからも襲われる。
戦場に響き渡るラウルの声が、暗黒騎士隊全員の耳を震わせた。
「暗黒騎士隊、陣形を維持しつつ前進!」
彼の号令と共に、一万もの漆黒の騎士たちが一糸乱れぬ隊列を組み、地を揺るがしながら前進を開始する。
前列の兵士たちが一歩踏み出すと、それに合わせて後列の者たちも寸分の狂いなく歩調を揃える。フルプレートメイルがこすれる金属音、揃った足並みが生む重厚な響き。
幾千もの魔獣がいようと彼らは決して怯まない。圧倒的軍力を誇るリガルド帝国精鋭部隊が進軍を開始。
「帝国軍の誇りにかけて魔獣を突破し、鉄血の力を見せつけよ!」
その瞬間、暗黒騎士たちは剣を一斉に構え、猛然と駆け出した。
ウォォォォォォォォッ!!
暗黒騎士たちの咆哮が津波のように押し寄せる。
突き進む彼らの前に、魔獣の群れが立ちはだかる。巨大な獅子型が鋭い牙をむき出し、牛型の魔獣たちが耳をつんざくような咆哮を上げる。
しかし暗黒騎士たちは一切怯むことなく、まるで鉄壁の波のように魔獣の群れを切り裂いていった。
士気も桁外れで、鎧に身を包むアンドリューが馬上から全軍を鼓舞する。
「今こそ、鉄と血で我らの誓いを刻む時! 帝国に逆らうものを圧倒し、制圧し、ただ前へ進め! 」
「「「我ら帝国の刃なり!! 帝国に忠誠を誓いし我らの覚悟を見よ!!」」」
ジャガーは戦場の光景に息を呑んだ。
「すげぇ……」
リガルド帝国の騎士たちは、まるで機械のように統率され、寸分の狂いもなく動いていた。隙のない陣形を維持したまま、魔獣を正面から押し潰していく。
獅子型の猛撃をパリィで弾き返し、カウンターでその胸に剣を突き入れる。牛型の咆哮を己の咆哮でかき消して、その喉を切り裂く。暗黒騎士達の剣は鋭く、無駄な動きが一切ない。
「魔獣相手に、対等以上に戦ってやがる……」
トリスタンの精鋭魔法騎士ですら苦戦する魔獣たちを、リガルドの騎士隊は圧倒していた。
そして、後方では翼竜を駆る竜騎兵たちが、負傷したヒーラーや魔法兵を一人ずつ拾い上げ、防壁方面へと運んでいた。
「リガルドが……助けに来た?」
ジャガーの脳裏に疑問が浮かぶ。
この状況なら、リガルド帝国が背後を突き、同盟軍を皆殺しにしてもおかしくない。だが、暗黒騎士たちは確かに味方として動いていた。
それはすぐに確信へと変わる。
「竜騎兵隊負傷者を最優先で救助せよ!」
「竜騎兵11番隊、カーゴに負傷者を収容。離陸する。援護頼む!」
「暗黒騎士04隊、大型獅子魔獣にプッシュをかける。フォーメーション!」
「400メートル先、10時方向より、大型魔獣接近! 数4! 壁を作る! 竜騎兵隊、爆撃援護を頼む!」
「了解、08隊の援護に回る!」
「あいつら……裏切ったのに、助けてくれるのかよ……」
ジャガーは罪悪感と感謝が入り混じった複雑な気持ちを抱えたまま、目の前の光景を見つめていた。
そんな彼の元へ、ラウルがゆっくりと歩み寄る。
王子用の丸っこい鎧を着込んだその顔には、いやらしいほどのニヤニヤ笑いが浮かんでいた。
◇
俺は息も絶え絶えなジャガーを見つけて、笑みを浮かべる。
「苦しそうだな、ジャガー王子ぃ? おーん? 今どういう気持ちだー?」
ジャガーは眉をひそめ、俺を睨みつける。
「なぜオレたちを助ける?」
「裏切った国に助けられる気分はどうかと思って」
「……テメー、やっぱ性格悪いんだよ」
ジャガーが吐き捨てると、俺はさらに口角を上げた。
「当然だろ? 俺は悪王の子だからな。お前らが一番惨めになることをしてやったんだよ。ギャハハハハハハハ!!」
ジャガーは歯を食いしばり、苦々しい顔を浮かべる。そうだ、その顔が見たかった。
しかし彼は、俯いて謝罪を口にした。
「……すまねぇ。お前が来なかったら全滅だった」
「……貴様は焦り過ぎなのだ。民をないがしろにする王には、誰もついていかん。今の貴様は、ここにいる兵と自分をただの駒程度にしか思っていない」
「…………」
「貴様が死ぬつもりなのはどうでもいいが、それに民を巻き込むな」
「……すまん」
「しょぼくれるな! 王子は兵たちの象徴だ、どのようなときも嘲笑ってみせろ!」
俺に叱責され、ジャガーは腰の銃剣を抜く。
俺も聖剣を抜き、ジャガーと並んで前を向いた。
「さぁ、魔獣どもを蹴散らしてやるぞ。ギャハハハハハ!」
「ったくキメェ笑い方だな」
「ふふふ、この笑い方結構練習したのだ。悪役っぽかろう」
「良い奴が悪役やるのは大変だな」
「なんのことかわからんな」
そう言った瞬間、空に大砲の弾が飛び近くにいた魔獣を爆殺する。
後ろを振り返ると、ダークライン防壁の上でヨハンナが大砲を景気よくブッパしていた。
「あっぶね!? さすがお前の騎士だな、ギリギリを狙って魔獣を狙撃したのか」
「いや、ただのまぐれだと思う」
「え?」
「多分、ヨハンナは俺がどこにいるかもわかってないと思う」
「え?」
俺の予想通り、次弾は俺達の立っている場所に着弾した。
ハリウッドジャンプでなんとかかわすも、二人共泥まみれにされる。
「なんだあの海賊女!? 適当に撃ってんのか!?」
「そうだ、あいつは適当で撃っている」
多分当たらんだろうという、多分で行動する一番ダメなタイプの女だ。
『ラウル、アクアレムの王女が危ないよ』
「何」
聖剣からナハトが声をかけてくれる。
見ると、セレーネがムカデ型の魔獣に襲われており、シールドを張っているもののもう持ちそうにない。
「ナハト、わんわんだ!」
『わんわん!』
聖剣から漆黒の大犬形態のナハトが飛び出す。
俺は彼女の背中に飛び乗る。
「乗れ!」
「お、おう! け、剣からでかい犬が出てきたぞ……」
「帝国の技術だ」
「帝国すげぇな」
ジャガーも一緒に乗せてセレーネの元に急行する。
ムカデ型魔獣、体長8メートルはある巨体で無数の節足が地面を引き裂きながら進む。光沢のある黒い外殻は鋼のように硬く、胴体のあちこちから伸びる触腕は、獲物を絡め取り、引き裂くために存在している。
水壁のような魔力壁は、幾度も突進に耐えて見せたがセレーネの魔力はもはや尽きそうになっていた。
俺とジャガーは接近すると、同時にナハトの体から飛び降り、ムカデ魔獣の外殻の隙間を縫って、聖剣と銃剣を突き刺す。
黒くてキモい返り血が吹き出すも、俺は聖剣で体を抉り続ける。
「下がれ!」
ジャガーの注意で身をそらすと、剣のようなムカデの足が頬をかすめていく。
「ラウル様、これを!」
アンドリューの声が聞こえて振り返ると、彼は漆黒の盾を放り投げてくれた。それを受け取り、フルアーマーラウルになった俺は、ムカデの百足による引っかきをガードする。
ジャガーは俺の後ろに回ると、百足攻撃が終わった隙をついて銃剣の銃砲をぶっ放す。
弾丸を受けて、ムカデは「ピギー」と豚のような悲鳴を上げてのけぞった。
「貴様、俺を盾にするのはやめろ!」
「テメェが一番タンク役、お似合いだろうが」
「んだテメェやんのか歯車工場!」
「はぁ!? 自称悪役がよ!」
俺達が喧嘩する様子を見て、ムカデは「キシャー!」と叫び声を上げて襲いかかってくる。
俺とジャガーは、お互い目をそらさず接近してきたムカデの頭を、聖剣と銃剣で刺し貫く。
「「気に入らねぇんだよ、お前!」」
「あ、あのお二方とも仲良く」
気づけば魔獣は死んでおり、セレーネは俺達の仲介を努めていた。
コメント
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第31話、めっちゃ熱かった…!🔥 リガルド帝国の暗黒騎士隊、まさかの救出かっこよすぎんだろ。ラウルの「悪王の子だからな。お前らが一番惨めになることをしてやった」とか最高に決めてるし、あのニヤニヤ笑いと「ギャハハハハハ」でキャラが完全に立ってたわ。 ジャガーが助けられて罪悪感と感謝で複雑になるのもわかるし、最後に二人でムカデ倒すシーン、喧嘩しながらも連携するところが熱すぎて声出た。ヨハンナの適当砲撃で自分らが吹き飛ばされかけるギャグも笑ったw 戦闘描写のスケール感と、キャラ同士の掛け合いのバランスが絶妙やった。ありんすさん、今回もアガる回をありがとう!続き楽しみにしてる📖