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「ねえ、あいちゃん。さっき──誰と話してたの?」その声はいつも通り、やわらかくて、透き通るようだった。
でも、あいの背筋は自然とこわばる。
声に怒気はない。でも、それが一番怖いのだと、もう知っていた。
「隠さなくていいよ。怒ってないから」
無一郎は微笑んでいる。
でもその手は、あいの髪をそっとすくい上げ、首筋を露わにしていた。
「……ここ、また綺麗にしておこうか」
そう言うと、無一郎は唇を寄せ、首筋に静かに口づける。
やさしく、でも“逃げられないように印をつけるように”。
「君は僕のものなんだから。ちゃんと、覚えてないとね?」
あいは抗う気力を失いかけていた。
強くされているわけではない。痛みもない。ただ、
“やさしく従わされている”──それが、どこか心地よくなってしまうのが怖い。
「あ、そうだ。がんばったごほうび……いる?」
囁くように、無一郎の手が背中に回り込む。
制服の布越しに、背骨をなぞるようにゆっくり指を這わせる。
まるで、あなたの意志すら探られているような、深い触れ方。
「君の好きなとこ、ちゃんと覚えてるよ」
「背中、触られると、言葉が出せなくなるんだよね」
そう囁かれた瞬間、息が詰まった。
彼はすべてを知っている──そう思わされることが、なにより怖い。
「あいちゃん。もう君は、自分で選ばなくていいんだよ?」
「代わりに僕が決めてあげる」
「誰と話すか、どこを見るか、いつ笑うか──全部」
声は甘い。手はやさしい。
でもその優しさが、まるで牢のように心を締めつけていく。
「他の誰かと関わって、また君が傷つくのは嫌なんだ」
「だから……僕だけ見てて」
彼の指が、背中から腰へ、そして太もも近くまでそっと撫でる。
不快ではない。でも逃げられない。
やさしさの中で、少しずつ自分の“拒否する力”が剥がされていく