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#ワンナイトラブ
#ざまぁ
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「琴葉さん、明日は予定を空けておいて」
金曜の夜、涼さんにそう微笑まれて渡されたのは
普段の私なら一生縁がなさそうな、有名セレクトショップの紙袋だった。
中に入っていたのは、上品な淡いブルーのワンピース。
「これ……明日の視察で着るんですか?」
「そう。一ノ瀬グループが新しく提携するリゾートホテルの内覧会があるんだ。パートナー同伴が通例でね。君には僕の『秘書兼、婚約者』として同行してほしい」
「わ、分かりました…!」
◆◇◆◇
緊張しながら寝床に着いた翌朝
鏡の中にいる私は、涼さんの魔法にかかったみたいに、自分じゃないみたいに綺麗に整えられていた。
迎えに来た涼さんは、カジュアルなジャケパンスタイル。
会社での威圧感が消え、まるでモデルのような爽やかさだ。
「……うん、思った通り。よく似合っているよ」
彼は私の手を取ると、指先に軽くキスをした。
それだけで顔が火照る。
車で向かった先は、海が見えるテラスが美しい最高級のリゾートホテル。
仕事としての視察のはずなのに、涼さんはずっと私の腰を抱き寄せ、離そうとしない。
「涼さん、少し離れないと……仕事の相手に見られます」
「いいんだよ。仲睦まじい方が、ビジネスパートナーとしても信頼される。……それに、今日はエリカも来ていないしね」
彼は私の耳元で楽しそうに囁いた。
ホテルのスタッフたちが「素敵なご夫婦ですね」と声をかけるたびに、胸がチクリと痛む。
(……全部、嘘なのに)
視察の合間、海が見えるプライベートバルコニーで二人きりになった。
「琴葉さん、こっちにおいで」
手招きされて隣に並ぶと、潮風が私の髪を揺らす。
涼さんはその髪を優しく掬い上げ、私の視線を自分の方へと向けさせた。
「……本当は、仕事なんてどうでもいいんだ。ただ、君とこうして外を歩きたかった。普通の恋人みたいにね」
「りょ、涼さん……っ、そんな…」
「契約だから、なんて顔をしないで。……君は、僕がただ『義務』でこんなに甘やかしていると思っているの?」
涼さんの瞳が、いつになく真剣に私を捉える。
爽やかな王子の仮面が少しだけ剥がれ、一人の男としての、剥き出しの熱が伝わってくる。
「私は……。専務にとって、役に立つ道具でいたいだけです。借金を返していただいている以上……」
「道具だなんて、二度と言わないで。……そんな風に思っているのは、君だけだよ」
彼は私の頬を両手で包み込み、ゆっくりと顔を近づけてきた。
遮るもののない青空の下
唇が触れるか触れないかの距離で、彼は切なげに目を伏せる。
「……今はまだ、我慢してあげる。でも、帰ったら覚悟して。……今日は、君をたっぷり甘やかすって決めているから」
そう言って、彼は私の額に優しく口づけをした。
「業務」という名のデート。
嘘の夫婦を演じているはずなのに
私の心はもう、契約書の内容なんて一文字も思い出せなくなっていた。