テラーノベル
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昨日の海沿いでの視察、少し風が強かったせいかもしれない。
朝、目を覚ました瞬間に頭が重く、体が鉛のように動かなかった。
「……うぅ、熱い……」
無理をして起き上がろうとしたけれど、視界がぐるりと回ってそのままベッドに沈み込む。
今日は大事なプレゼンの資料作成がある。
休めない、行かなきゃ——
そう焦れば焦るほど、呼吸が荒くなる。
カチリ、とドアが開く音がした。
「琴葉さん? 起きないなんて珍しいね。……って、顔が真っ赤じゃないか」
入ってきた涼さんは、私の顔を見た瞬間に表情を変えた。
ひんやりとした彼の掌が私の額に触れる。
その冷たさが心地よくて、私は思わず自分からその手に擦り寄ってしまった。
「……涼さん、会社…行かなきゃ……」
「馬鹿だな。こんな熱で仕事なんてさせられるわけないだろう。今日は欠勤の連絡を入れておく。君の分は僕がカバーするから、何も心配はいらないよ」
涼さんは手際よくどこかへ電話をかけ、あっという間に私の「特別休暇」を決定させてしまった。
会社では完璧な専務。
けれど今の彼は、ネクタイを外し
シャツのボタンを二つほど開けて、完全に「私の夫」として振る舞っている。
「……すみません、契約なのに、迷惑ばっかり……」
「またそんなことを言う。……いいかい、琴葉さん。僕は迷惑なんて一度も思ったことないよ」
涼さんはキッチンから冷たいタオルと
スポーツドリンク、そして彼が手作りしたという優しい香りのするお粥を運んできた。
「はい、あーんして」
「っ、自分で食べられます!」
「病人なんだから、甘えていいんだよ。……それとも、僕の手からは食べられない?」
困ったように眉を下げて微笑む彼に勝てるわけがない。
私は羞恥心でさらに熱が上がりそうになりながらも、彼が差し出すスプーンを口にした。
食後、薬を飲んで横になると
涼さんは私の枕元に椅子を持ってきて座り、ずっと私の手を握っていてくれた。
彼の低い声が、熱でぼんやりした頭に心地よく響く。
「ねぇ、琴葉さん。……さっき寝言で、僕の名前を呼んでたよ。……『涼さん』って」
「えっ……!?ほ、本当ですか……っ?!」
「ああ……契約が終わっても、君を離したくなくなっちゃうな」
涼さんは私の手を自分の頬に寄せ、愛おしそうに目を閉じた。
その仕草は、いつもの余裕たっぷりなスパダリとは少し違って、どこか必死で、切実なものに見えた。
熱のせいで意識が遠のいていく。
でも、眠りに落ちる寸前、おでこに柔らかい何かが触れた気がした。
「……おやすみ、早く良くなってね」
——次に目を覚ました時、熱は少し下がっていたけれど
代わりに「一ノ瀬涼」という劇薬に、私の心は完全に冒されてしまっていた。
#ワンナイトラブ
#ざまぁ
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