テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
カサンドラ過去編です。どうしようもない魔女になりました。
雑木林の中。アタシは何も着ないまま駆けずり回っていた。その頃は裸に羞恥心などなかった。だってあの頃は人の形を成していなかったから。アタシ達魔女は、いわゆる魔獣だ。魔獣は魔王の手により生み出される。魔獣が高度な魔術を習得すると、いつの日か魔物になり、その中でも許された者のみが魔女になれる。だから元来、アタシ達は人間では無い。人間では無いからこそ。
「きっとこの子よ!この子が私達の子なのよ!」
野良猫感覚で拾ってしまう者がいるのだ。
人の形をようやく成せた頃、私は新婚の夫婦に拾われた。二人は子宝に恵まれなかったが、それでも子供が欲しかったらしい。そこで野山で駆けずり回っていたアタシを見つけたというそうだった。泥だらけでみっともない格好をしていたとしても、所有されていない子供と言うだけでも、彼らは飛んで喜んだ。彼らは相当浮かれていた。すぐにアタシは役所に養子として承認を受けた。素性の知らない子供をすぐに養子にするほど舞い上がっていたらしい。
さて、ようやくアタシの体の泥を落とそうとなった両親は、急いで水を張って落とし出した。茶色い髪は白髪に変わり、その変貌ぶりに両親は歓喜した。でもアタシの肌の泥だけは、どれだけ擦っても、擦っても、何をしても落ちなかった。そこでようやく両親は理解した。アタシは当時忌み嫌われていた「褐色肌」の子供だってことに。 養子として申請してしまった以上、アタシを捨てれば法律違反とみなされ連行される。かと言って褐色肌の子供を保護する他の人間なんていない。両親は葛藤の末、アタシをちゃんと育てることにしたみたい。街の団体へ説明し、ちゃんといちから育てると誓ったそうな。まぁ、後の惨事を知ってるアタシにとっては傍迷惑だと思うけど。
大人たちはもちろん大反対。「褐色肌を持ち込むなんて」「人間じゃないのを育てる気なのか」とたくさんの罵声を浴びせられて大変だったと、後に恨み言の様に言われた。でも、当時のアタシは案外子供たちの輪にとけ込めた。幼く考え無しの子供は、大人たちが忌み嫌う理由を考えられなかったらしい。彼らの考えは「少し色が違う子」止まり。親がどれだけあの子と遊ぶな、と言っても子供はその訳が全くわからない。それに加え彼らは嘘つきだ。アタシとは平気で遊んでいた。大人と子供の対応の差に戸惑いながら、なんだかんだでその日々を満喫していた。でも、そんな藁みたいな日常は、嵐みたいに飛んでった。嵐の中心はアタシだった。
8年ぐらい経った頃だろうか。旧都全体に飢饉がやってきた。幸い貯蓄をしていたから、誰も飢えで苦しむことはなかったらしい。それが収まった一ヶ月後は山の方で嵐が起きた、家屋は吹き飛び行方不明者も出た。その二週間後には、牧場から暴走化した動物達が脱走した。子供大人問わずに噛まれぶつかられ、中には当たり所が悪くしばらく昏睡した人間もいたらしい。これだけ聞けば、ただ不幸が続いただけに見えるかもしれない。でも問題なのはこれに共通点があったこと。これらが起きた場所の共通点、すなわち。
前日アタシが訪れたところ。
旧都は住んでいるから、当たり前に被害が出た。山は通っていた学校の遠足。牧場は、このことに気付いて落ち込んでいたアタシのために、両親が気分転換に。既に旧都全体で褐色肌の子供として有名になっていたアタシには、「呪われた娘」という肩書きが新たに加えられた。元々差別的な目で見られていたというのに、一気にそれが増していった。行く先々で白い目で見られ、陰口を叩かれ、ある者は発狂し、ついには石を投げられる。仲良くしてくれた子達も、もう誰もアタシと遊ばない。いつもアタシが歩く道には血が流れて、アタシはその血を眺めながら歩くしか無かった。それは家でもそうなるようになった。
両親もアタシに巻き込まれて、どこに行っても軽い暴力が付きまとっていた。その状態に心身ともにボロボロ。アタシへの当たりが強くなった。ドンッと突き飛ばされて、ベッドに強く腰をぶつけた。その痛みで苦悶の表情を浮かべていても、両親はアタシを足蹴にし続けた。
「お前がっ!!お前が褐色肌なんかじゃなければ!!!」
「お前のために時間なんて割くんじゃなかった!!結末がこうなら、最初から放っておけば良かった!!!」
そう叫ばれたって、アタシにも分からない。なんで褐色肌で人の形になっただけで、こんなに差別されなきゃいけないんだろう。アタシだって、こんな災い起こしたくて起こしてるわけじゃないのに。 少しづつ生活は涙をこらえて、時々見える他人の不幸に乾いた笑いをこぼすものに変わった。
その日は突然やってきた。いつもみたいに流れる血を見ながら歩いていたら、突然後ろから両親が話しかけてきた。無意識に振り返ってしまった、振り返るんじゃなかったと後悔するには遅すぎた。両親の周りには、拘束具を持った役人の人が沢山いた。あっと声をあげる間に、アタシは拘束されて、髪を掴まれ引き摺られた。髪が千切れる痛みを永遠とも思える時間耐えきった時に、アタシは広間に連れ出されてた。無理やり連行されて、木と藁で造られた「処刑台」に括り付けられた。痛みに悶えていて何も聞こえなかったが、役人の人が何かを叫んだあと、アタシの足元の藁に火をつけた。誰も暖める人が居ない冷えきったアタシに、無慈悲な温もりが迫ってくる。
ねぇ、アタシ何もしてないよ。ただ勉強して、遊んで、寝てただけ。なんにも迷惑かけてないよ。なんで笑うの、なんで見て見ぬふりするの、なんで何も言わないの。何かいいなよ、言いなさいよ。何もしてない無辜の民を殺すんだから、一言ぐらい言ってみなさいよ。そんなこともできない人間風情が
「どうしてアタシを殺せると思ったの!!!」
黒い稲光が旧都を包み込む。後に残されたのは瓦礫と人々の死体だけ。そんな状態の旧都にそいつはやってきた。自分の魔法で自分を絞め殺そうとするアタシの額に指をとんと置く。その動作だけでアタシの魔法を無効化した。
「……アタシってなんなの、どうすればよかったの。」
「貴女は魔女、誇り高き一人の魔女。どうすれば良かったかは……これから考えましょう。」
周りの惨状を物ともせずに淡々と語る彼女は、アタシ以上に化け物の称号が似合うと感じた。
「カサンドラちゃん、事態は想像以上に深刻よ。この報告を受けて、国は貴女……事件の首謀者を指名手配。処刑令を出したわ。」
「そこで貴女に選択肢をあげる。今ここで、何も残さず殺されるか。」
「私と一緒に、物語に名を残して散るか。」
結局アタシはその誘いに乗った。アタシと国は協定を結び、国には手を出さず、基本はこの屋敷内で生活すること。その生活は全て「平和の魔女」に見守られることを条件としてアタシの指名手配を解除、処刑令の取り消しが認められた。旧都陥落の事件は爪痕を残し、アタシは「厄災の魔女」として畏怖を受けることになった。別に、それで構わない。アタシも人間が嫌いだったから。
でも、時々頭に過ぎるのは、両親におぶってもらったあの頃の記憶だった。どうして母と父は、あんな扱いを受けていたアタシを手放さなかったんだろう。アタシをもっと早くに突き出して殺そうとすることだってできたはず。どうしてそれを選ばなかったのか。ただ、それが知りたかった。
それが知りたかっただけ。夜、逃亡している奴隷の子供達。それを追いかける大人を遠距離から撃ち殺した。父はアタシのことを、こうやって時々守ってくれた。行き過ぎた暴力を振るう大人を殴って庇ってくれた。それと同じことをしても、まだ回答は得れなかった。
捨てられた子供を拾った。旧都は元々捨て場のような扱いだけど、子供が捨てられていたのは初めて見た。母は泥だらけのアタシを躊躇せず拾い上げた。アタシの時と同じように名前を与えて育てた。何度夜泣きして疲れても、何故か手放す気に離れなかった。その時に少し、回答を掠めた。
子供を拾って何年か経った頃、勇者の召喚パーティーが行われた。アタシは旧都から出れないから、高等魔法「千里眼」を使用して遠く離れた勇者の姿を見た。赤目の青年は、ただを捏ねる幼い少女を必死に宥め、あやして、笑わせていた。そんなことをしなくても、いつかは諦めるのに。そんな自身の問に答えを出せていたことに、その時初めて気づいた。
きっとこれは、欲望なのだ。自分より弱い者を見た時に、溢れ出る支配欲や独占欲、優越感と言ったものを押し退けて出てきた欲望の名前が、偶然「庇護欲」だっただけ。その庇護欲を人々は愛と呼び、縛りと呼び、呪いと呼ぶのだ。あの人たちは、呪われていたんだ。アタシを庇護したいという欲望。アタシに当たって、アタシを恐れていたとしても、それが呪いとなって手放せない。それが魔女と人間の間にできた、共通の歪んだ愛。
きっとアタシは、自分のことを愛しているんだろう。それがアタシの魂をこの世界に縛り付ける呪いとなる。だからこそ
他人を巻き込む欲望は、消え失せなければならないのだ。
勢いで書いちゃった絶対文章はちぐはぐです殺してくださいカサンドラさん。
魔女と魔法使いの明確な区分は「人間であるか」でした。第一にアイツらの中身は黒いドロドロしたスライムみたいなやつです。それが形を成して奇跡的に魔女になりました。
オトヤに妙に優しいのは異世界に来ても欲望に縛られた彼のことを心配したからとか単純に母親に似てたからとかだったり、まぁそこに若干人間っていう要素で悪意があったりしますけどそれもご愛嬌
カサンドラの両親はもちろんカサンドラを愛していました。ですがそれ以上に襲いかかる「娘は人間では無いという恐怖心」に蝕まれてしまい、愛憎入り交じる複雑な関係になりました!
コメント
64件
今回もめちゃくちゃ良かったよ!!!! あー…これは辛くて悲しい過去だぁ… うわぁ…やっぱり始まりは魔王なのか… 最初は人間じゃなかった存在が 人間の形になって今に至る… 凄く特殊なパターンなんだろうな… うーん…感情の中でも憧れや愛は とても簡単に歪んでしまうからね… あんな辛い状況が続いたら、 そりゃあ両親とは複雑な関係になるよ… うん…本当に悲しいね…(?)
つらいってつらいって泣くってしぬって
😭😫😔💢💥😑🙂🥺🥺💢😭🤬😣😫😭😭😭😭😭😭😭🙏🙏👍😭(訳:テメェなに...ちょ、はぁ!?辛いって!おい!もう...えぇぇぇ????涙で大河できるわッ!!!でもそれはそれとして...いややっぱ辛いからッ!!!)