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好きだったんだ。
最初は深淵で見た捕食者としてのうつくしい微笑み。
次は再開したのち何でもないような笑顔のままではじめましてと言ったときの顔。
その次は黄金屋で相棒と戦ったあとアビスにより復活したオセルを倒しに行くと言ったときに俺の肩を軽く叩きながら行くよ、と一言言いながら引きずってオセルのところまで行ったときの声色。
次に先生の親だと明かし、親としての微笑みを見せたとき。
テウセルが密航してきて遺跡守衛を見たいと言い出した時、遺跡守衛が暴走した瞬間に静かに凍らせたときの絶対的強者感。
キスしないと出られない秘境で俺のおでこにキスをしたときの子の幸せを祈る親としての微笑み。
フォンテーヌでマシナリーに薬を注入されそうになった俺を庇ったのち薬を作った相手を殺すと言い放ったときの静かな殺意。
鯨と戦って重傷を負い気絶した俺が目覚めたときに見せた優しい微笑み。
他にもいっぱいときめいた瞬間はあった。
でも鈴風さんはずっと鈍感で、恋愛的な好きが何一つわかっていなくて、でもその無防備さに付け込んでべったり甘えていた俺が言えることじゃないけど早く気がついて欲しくてこっそりアプローチしていたけど全く靡かなくて、何なら鍾離先生にも同情されちゃって、すっごくムカついたけど、それでもどうしようもないくらい好きで、この戦いが終わったら、この思いを伝えたいと思って、終わったあとに会う約束をした。
でも、こんなことになるなんて、1回も考えたことがなかったんだ。
恋を知らない子どものお話
「…え?うそでしょ?せんせい?」
「…嘘だったら、本当によかったんだ。」
「だって、おれ、あのひととやくそくしてて…」
「ああ、実際父様は約束は破っていない。
公子殿。父様と約束したとき生きて帰ることに関してはぼかし続けていなかったか?」
「たしかに、終わったときにこの世界にいたらね、とはいっていたけど…」
「父様は抜け道を作り出すことがうまいからな。恐らく公子殿も、俺も、この世界で関わったほぼすべてを手放すつもりだったんだろう。」
「そんな…」
「さいごに、父様は一つだけ言い残していった。
容姿や声、匂いを忘れてもいいけど気持ちや楽しかった記憶はできる限り生きて、覚えていてくれ。
とな。」
「は…はは…なんだよ…それ…ひどいよ…すずかさんは…とってもひどいひとだよ…」
「公子殿…」
「ごめん、鍾離先生。胸を貸してくれる?」
「嗚呼、思う存分泣くといい。」
「泣いてないよ。
………ずっと、ずっと好きだったんだ。
好きで、好きで、戦い終わったら、振られてもいいから好きだって言いたかったんだ。
一緒に、抱きしめて、頭を撫でて、わらって、いたかったんだ…
たまに見える黄昏の夜空色の目がきれいで、それで…
ひどい…ひどいよ…忘れさせすらしてくれない。しかも、死んだわけではない。なのに会ってくれないなんて…」
「引き留めきれなくて、すまない…」
「なんで鍾離先生が謝るの?いちばんわるいのはすずかさんなのに。」
「それでも、だ。」
そんな会話をしたのが3ヶ月前のことだったっけと思いながら、鈴風さんの事を思い出そうとして…
外見が、声が、匂いが思い出せない。
まるでモヤがかかっているように遮断されている
怖くなって、忘れてなんかいないはずと鍾離先生のところに行こうとしてーー
「公子殿!!!!父様の、父様の記憶が、!!!!」
絶望の底に叩き落された。