夜。あずーるは屋根の上に立ち、月を見上げていた。
彼の瞳は淡い蒼色に光り、冷たい夜風が髪を揺らす。
——死神が「命を奪う」存在なら、
なぜ私はこの子を「守る」任務を与えられたんだろう。
そんな独白から始まる。
⸻
次の日の放課後。
野崎天は、昨日からずっとあずーるのことが気になっていた。
「ねぇ、あずーる。あなた、なんで私を守るの?」
突然の問いに、あずーるは一瞬だけ目を伏せる。
少しの沈黙のあと、静かに答える。
「……お前の“死”は、予定より早すぎた。だから俺が、正しい時まで守る」
「予定……?」
「この世には“死の順番”がある。
お前は本来、まだ“死ぬ番”じゃなかった。
だが“何か”が、その流れを狂わせている」
天は息をのむ。
あの夜、襲ってきた黒い影のようなもの——。
あれが“何か”なのだろうか。
「つまり……私は、まだ生きるはずだったの?」
「そうだ。だから、俺はそれを守る」
その言葉を言うあずーるの横顔には、どこか切なさが滲んでいた。
「でも、死神って“人の命を奪う”んじゃないの?」
「……それが普通だ」
「じゃあ、あずーるは普通じゃないの?」
一瞬だけ、あずーるの瞳が揺れる。
そして微笑む。どこか寂しげに。
「そうかもしれないな。——俺は、少し壊れた死神なんだ」
天はその言葉を聞いて、胸が締めつけられるような感覚を覚えた。
怖いはずの存在なのに、なぜか放っておけない。
あずーるは立ち上がり、ふっと夜風に溶けるように姿を消す。
残された天は、窓の外の月を見つめながら小さくつぶやく。
「壊れた……なんて、そんな顔しないでよ」
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