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🌸第3話 気づいてしまったあとで
学園祭の翌日。
陽は講義棟へ向かいながら、昨日の部室の光景を思い返していた。
(小鳥遊さん……)
助けてくれたときの声。
あの静かな目。
胸の奥がざわつく感じ。
(なんでだろ……)
理由は分からない。
でも、気になる。
教室に入ると、ひよりはすでに席に座っていた。
窓際でノートを開き、静かにペンを走らせている。
陽はふと気づく。
(……そういえば、同じ学科なのに、話したことなかったな)
大学に入って半年以上経つのに、
ひよりと会話したのは昨日が初めてだった。
静かで、目立たなくて、
気づけばいつも一人で座っている。
(なんでだろう……)
陽が見つめていると、ひよりがふと顔を上げた。
目が合う。
ひよりは一瞬だけ驚いたように目を丸くして、
すぐに小さく会釈した。
「あ……おはよう、小鳥遊さん」
「……おはよう」
ひよりの声は静かで、
昨日よりほんの少しだけ柔らかかった。
🌙ひより視点
陽に「おはよう」と言われた瞬間、
ひよりの胸はぎゅっと締めつけられた。
(……やっぱり、はるくんだ)
昨日、部室で近くで見たとき。
声も、困ったときの笑い方も、
小学生の頃のままだった。
でも――
(大学では……話しかけられなかった)
同じ学科だと知っていた。
でも、陽はひよりを“ただの同級生”として見ていたし、
ひより自身も距離を取っていた。
(気づかれない方が……楽だよね)
ひよりは視線をノートに戻した。
🌸講義後(陽視点)
講義が終わり、学生たちが教室を出ていく。
陽はなんとなく、ひよりの後ろ姿を目で追っていた。
(……なんでだろう)
昨日まで気にしたこともなかったのに、
ひよりのことが頭から離れない。
静かで、優しそうで、
でもどこか距離がある。
(小鳥遊さんって……どんな子なんだろ)
陽は自分でも理由が分からないまま、
ひよりの背中を見送った。
🌙小学生時代の回想(前半)
夕方の校庭。
砂場の横で、小さな女の子が笑っていた。
「はるくん、見て! うさぎ!」
砂で作った小さな形を、
誇らしげに見せてくる。
「おー、すげえ。ひより、上手だね」
「えへへ」
その笑顔は、太陽みたいに明るかった。
「また明日も遊ぼ?」
「いいよ。明日も砂場でうさぎ作ろうよ」
「うん!」
ひよりは嬉しそうに手を振って走っていった。
陽はその背中を見ながら、
胸が温かくなるのを感じていた。
(……ひよりちゃん)
その名前は、
陽の記憶の奥に、まだ眠っている。