あ〜………
「暇だ!!!!」
外は青空、カーテンが光を浴びて揺らいでいる
今頃らっだあは勉強でもしてるのかな
やることがない、というよりなにをすればいいかが分からない、 ゲームは…する気になれないし…
らっだあはいつでも使っていいよと言ってくれてるけど
「………」
「…そうだ、食器を洗わなきゃ」
ただの独り言が、言い訳のように口から出てきた
フライパンを洗う、逆さにして置く、
食器を一枚一枚スポンジで洗う…
「痛っ…」
どこかでついた切り傷が洗剤が付いて痛んだ
「絆創膏…」
洗っていた皿をシンクに置いて絆創膏を探す
「うわっ!」
自分のズボンの裾を踏んで転んだ、
「……ははっ」
自分が間抜けで少し笑えた。床に膝を置いて立つ
「……?あれ?」
…視界がぼやける、立ち眩みとはまた違う…
「なに…これ…?」
ふらっと平衡感覚を失い、ソファーに伏せた
「あたまがいたい…」
まるで映画を見せられているような、夢とはまた違う
どこか…
「……ん?」
「らっだあ…?」
晴れやかな昼の屋上、目の前にはらっだあがいる
疑問しか浮かばないが、夢ではないどこかの記憶が
続いていく、進んでいく
らっだあの人差し指には絆創膏が貼ってあり、どうやらそれは俺が渡したものらしい
「それにしても、今日は晴れてるね」
そんな他愛もない話をらっだあはし始めた
上を見上げると、本当に雲一つない晴天で、太陽が眩しかった
「ねぇ、ぺいんと…………」
どうも聞き取れない声でなにか喋っている
「なに…?なんて…?」
また視界がぼやける、次第に頭痛がしてくる
「…ハッ…」
うつぶせのまま寝てたみたいで、ソファーにくぼみができた
「……そうだ、絆創膏」
絆創膏のある棚を開ける、何個ものある絆創膏のうちの
1つ、中くらいのサイズの絆創膏を切り傷に貼る
しばらく、食器を洗った。
それから家に掃除機をかけた。
「昼ごはんは…まぁいいか」
夕飯の支度をして、昼ごはんを食べていないことに気づいた。
もう夕方の兆しが見え始めていて、空が若干オレンジ色になり始めていた
「………」
こんなに何も無い時は…嫌な事を思い出してしまう
学校でいじめられてたこと…
家で殴られたこと…
誰にも助けを求めれなかった自分のこと…
ガチャ
「ただいま〜」
玄関かららっだあの声が聞こえる…
「ん…おかえり〜」
なにやらコンビニの袋を片手に下げている
「ぺ〜んちゃ〜ん! 」
なにか冷たい物が頬に当たる
「うわっ冷た!」
「って…」
「コンビニでジュース買ってきたんよ」
ジュースを2つ手に持ったらっだあが笑っていた
「一緒に飲も〜」
「…いいよ〜」
…こんな平和な人間が、この世界でまだ生きられる事を
幸せに思う。
「ぺんちゃん…?」
動かない口が、冷たくなった体が、白くなった手が、
君だとは思えないぐらいに、静かで
あたりに響いた雨音が、やけにうるさかった
昼休み、 ぺいんとが作ってくれた弁当を開ける。
おにぎりと、少しのおかず
三角に握られたおにぎりをラップの包装を剥がして
食べる。
晴れた空の屋上に風が吹いた、俺以外誰も居ない屋上で、
君の幻影を見た
初めて会った時の、
若干の曇り空、一人で学食のパンでも食べようと思っていた、屋上は静かで、誰も居ない、それが好きだった
階段を上がって、ドアを開けた
「痛っ…」
不意にドアの隙間に指を挟んでしまった
思わずもらした独り言が、先客にも聞こえたみたいで、
屋上には、自分の他に人がいた、黄色の瞳がキレイだと思った、
その人とは少し遠く、さっさと食べてしまおう、 とパンを口に運んだ
「あの…」
少し眉をひそめた青年がこちらを心底心配そうに見ていた。
「指…怪我してますよね?」
指を挟んだところを見られていたようで、少し恥ずかしかった
「よかったらこれ…」
ポケットから絆創膏を取り出して俺に渡した
感謝を伝えて、彼は去ろうとした、どうせならなにか
お返しをしようと思い、まだ食べていなかった2個目のパンをあげた
彼は俺にありがとうと言い、
俺の隣で渡されたパンを食べ始めた
「…何年生ですか?」
「3年生、君は?」
「2年生です。」
そんな、お互いのプロフィールを話し合った
名前を知った、趣味を知った、好きな食べ物とか、
初歩的な事を聞いた
しばらく対談しても、ぺいんとは敬語のままだった、
だから「タメ口でいいよ」と言った
それから仲良くなれた、ぺいんとは優しくて、
話を聴いてくれて、頷いてくれて、笑顔が眩しくて
でも…俺は何も知らなかった、ぺいんとの手首の傷の
理由も、帰り際、いつも寂しそうに手を振る理由も
空になった弁当箱に蓋をする、ぺいんとが作ってくれた
弁当の。
「………」
まだ、人差し指が痛い気がした
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