スタンという雷魔法を発動したアーシア。
それは、彼女を中心に周囲の人間全員を倒すはずだった。
しかし、シンヤは倒れ込みつつも、それほど痺れた様子はない。
「くっ! 私の魔法が通じない下賤な者がいるなんて……」
彼女は魔法の発動準備を始める。
だが、今度はすぐには魔法を撃とうとはしなかった。
シンヤの態度に違和感を覚えたからだ。
「……」
シンヤは無言でアーシアを見上げている。
その表情には、嘲るような色は見えない。
ただひたすらに、アーシアを観察しているようであった。
「面白い。実に面白いぞ」
「…………」
男や冒険者と言えば、下賤な者であると考えていたアーシア。
だが、自分の真下にいるこの男は少し違うようだ。
「ふふんっ。私の魔法に感嘆するなんて、最低限の見どころはあるようですわね」
「ん? まぁ、それもあるけどな。今見ているのは、それとはまた別のものだぞ」
シンヤがそんなことを言う。
「はぁ? 魔法でないのなら、いったい何を――」
「君のパンツだよ。素晴らしいセンスをしていると思ってさ」
「……え?」
シンヤの言葉に、アーシアは一瞬思考を停止させてしまった。
そして、ゆっくりと視線を下へと向ける。
彼女が着ているのは、ワンピース型の魔導着だ。
身体を覆うような形のそれは、丈が膝あたりまでしかなく、スカートのようになっている。
つまり、彼女の履いている下着はシンヤから丸見えの状態なのだ。
「きゃああああっ!」
顔を真っ赤にして悲鳴を上げるアーシア。
慌ててシンヤの真上から移動し、両手で裾を押さえた。
「おいおい。隠すことはないじゃないか。似合っていたぞ。しかし、黒のTバックとはいささか――」
「うるさいっ!」
アーシアが羞恥と怒りに震えながら叫ぶ。
彼女の下着は、黒のTバックであった。
これが彼女の趣味というわけでもないし、生まれや宗教など何かしらの理由があるわけでもない。
彼女がこれを付けている理由は1つ。
装備品として、魔法能力を増強させる効果があるのだ。
いわゆる”エッチな下着”というやつである。
「見直しかけた私が馬鹿でしたわっ! やはり男など下賤な存在! もう一度、スタンをお見舞いしてあげます!!」
彼女はそう言って、再び呪文を唱え始める。
(ふぅむ。もう一度受けてみてもいいが……。結構な被害が出そうだな)
シンヤは周囲の状況を確認し、そんなことを思う。
スタンは、痺れさせるだけの魔法だ。
だが、すでに痺れて倒れ込んでいる者に対して重ねがけすればどうなるか?
もちろんイメージや込める魔力量にもよるのだが、初撃のように純粋に痺れるだけには留まらない可能性がある。
「今度こそ痺れてしまいなさいっ! スタ――」
「おっと、そうはさせないぜ」
シンヤはアーシアが魔法を放つ前に、彼女を制止した。
もちろん、言葉だけでの制止ではない。
頭に血が上った彼女を止めるには、言葉だけでは不十分だ。
最も確実な手段は、頭部を殴り飛ばして詠唱を封じることだろう。
しかし、いくら魔法による防御が施されているとはいえ、女性の頭を殴るのは憚られる。
だから、シンヤは別の方法でアーシアを止めようとした。
「秘技! 【ディスタブ・マジック】!!」
「え? きゃああぁぁぁっ!?」
アーシアが悲鳴を上げたのも無理はない。
なぜならば、彼女の下着――黒のTバックがズリ下ろされていたからだ。
シンヤは魔法で自らの身体能力を強化し、超速で彼女のワンピース型の魔導着をめくり、下着をずらしたのである。
めくられた魔導着はすぐに戻されたので、アーシアの大切なところが衆目に晒されることはなかった。
だが、黒のTバックだけはふくらはぎの辺りにまで下げられており、他の人たちからもはっきりと見れる状態となっている。
「こ、こんな辱めを受けるなんて……、屈辱ですわ……」
アーシアは顔を真っ赤にしながら、シンヤを非難するように睨み付ける。
彼女は恥ずかしさのあまり、目を潤ませていた。
「ははは。純情な娘さんの魔法を妨害するには、これが一番手っ取り早いだろ?」
シンヤは悪びれることなく、爽やかな笑顔で言い放つ。
魔法を妨害する手段は、大きく3つある。
1つは、前述の通り肉体にダメージを与えて物理的に詠唱を止めること。
次に、今回のように精神的な動揺を誘って詠唱を邪魔すること。
最後に、発動者の波長に同調させた魔力を魔法に紛れ込ませ、暴発させることだ。
3つ目の手段は高等技術であり、さすがのシンヤでも100パーセントの成功率には至っていない。
だから、今回はパンツをズリ下げることで精神的な動揺を誘ったのである。
ちなみにだが、『ディスタブ・マジック』という技名は、本来はこちらの技術のことを指す。
「くっ……。あなたは最低の人間ですわね」
「まぁ、否定はできないかな。でも、君だって似たようなものだろう? 俺を勝手に下賤扱いして、魔法を放つなんてさ」
「うぐっ!」
アーシアは反論できずに黙り込む。
心の底から他者を見下している者であれば、この程度の追及で何も言えなくなることはあり得ない。
つまり、彼女にも多少は常識的な面があるということだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!