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「この服なんてお似合いですよ、お客様は肌が白いのでどの色も映えそうです」
ショップの女性店員が淡いパステルカラーのワンピースを勧めてくるけれど、今一つ気分が乗らない。好きな店でも覗いて気分を盛り上げようとしたけれど、やはり今日の岳紘さんとの食事は少し気が重かった。
それでも新作だという数着を選び配送を頼むと、支払いを済ませそのまま店を出る。夜には岳紘さんとの待ち合わせをしている、後数時間どこで時間を潰そうか……
こんなに早く家を出る必要なんて本当はなかった、ただあの部屋にいると今日も何かとんでもない話をされるのではないかと不安で。
いてもたってもいられなかった、だから今こうして街中で時間を潰している。
「あら、こんなところにカフェが出来たのね。ここならゆっくりしていけるかも」
ウロウロしていると大通りから隠れるように建っている落ち着いた雰囲気のかフェを見つけて、少しワクワクした気持ちでドアを開ける。普段の私ならきっと気づかなかった、そのお陰か得した気分にもなれる。
「いらっしゃいませ、好きなお席にどうぞ」
店のマスターらしき年配の男性が穏やかな笑顔で挨拶してくれる、それだけでここに来て正解だと思えた。カウンターの空いている席のひとつに腰掛け、アイスコーヒーを注文した。美味しそうな軽食もあったが、これから夫と食事をする事を考えやめておいた。
「この店ははじめてですよね、ゆっくりしていってくださいね」
「ええ、ありがとうございます」
目の前に置かれたアイスコーヒーとピーナッツの小袋、店内に流れるクラシックと優しげな雰囲気のマスター。
のんびり本でも読もうと入り口近くの棚に並んでいた雑誌を一つ手に取り席に戻ると、いつの間にか隣の席に男性が座っていた。
「……あれ?」
「?」
私が席に座り直すと、じっとこちらの顔を見つめてくる男性。何かついているのだろうかと右手で頬を撫でる、その仕草を見てその人はグッと顔をこちらに寄せてきた。
「ああ、やっぱり!! 久しぶりです、雫先輩ですよね? 俺のこと覚えてませんか、奥野です。奥野 雅貴!」
「えっと、あの……ヤンチャだった奥野くん? 嘘でしょう?」
私の記憶にある奥野 雅貴という人物とはまるで別人のようだった。
いつもボサボサだった黒髪はパーマがかかっており、明るく染められている。少しポッチャリだった体型もスマートになりずいぶん背も高くなったようだ。服装にも無頓着だったのに、今着ているのはブランドのシャツにスラックスとシンプルだがおしゃれだ。
人懐っこい彼を部活の先輩として面倒見ていたのは高校の頃のはずなのに、まるで別人のような素敵な男性へと変わってしまっていた。
「嘘じゃないですって、俺はすぐに雫先輩かもって気付きましたもん!」
「……それって、私が学生の頃と代わりがないってこと?」
私だって奥野くんほどではないかもしれないが、お洒落な服を着ているしメイクだって手を抜いていない。それなのに、すぐに分かるなんて……