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「――って言うわけなんだ。俺がこの耳で聞いた話だ。間違いねぇよ」
HEAVENに着いた俺は明石さんに事の顛末を説明し、明日の夜に再び環奈が狙われる事を告げた。
「その男は環奈の彼氏なんだろ? 信じられねぇな、自分の女をそんな風に扱うなんて」
「アイツはクズなんだよ。どこまで環奈を苦しめれば気が済むんだか……」
「この事は環奈にも伝えるのか?」
「いや、アイツは嘘が下手だから知ったら相手を泳がせられねぇだろ。環奈に危険が及ばないよう俺が見張るから、知らせずにいこう」
「……まあ、万里がそう言うなら、それでいくか。しかし、環奈はこの前の事で暫くアフターは断りそうだけどなぁ」
「その辺は恐らく、彼氏が断るなとか言うんだろ。環奈はアイツに逆らえないから……」
「そうか。それじゃあまあ、万里の作戦でいくとするか。……ところで万里、お前、環奈に惚れてるのか?」
「……まあ、否定はしねぇよ。つーか、初めてなんだよ、こういうの」
「だろうな。お前の浮いた話なんて聞いた事ねぇからな。そうか、まあ案外お前には環奈みたいな控え目な女が合うかもな。お前の客って大半が自己顕示欲の塊みたいなのが多いって聞くし」
「確かに」
「明日は何時頃ここに来るんだ?」
「そうだな、環奈の仕事終わりに合わせて、見つからない場所で監視する」
「分かった。明日、頼むぞ」
「ああ」
明日、クズ野郎の企てによって行われようとしている環奈の危機を救う為、明石さんと共に段取りをした俺は、今日も客として環奈を指名し、彼女に気づかれる事無くいつも通りの時間を過ごしていった。
翌日、俺は少し早めに勤務を終えてHEAVENの出入口が見える位置にあるファストフード店で明石さんからの連絡と共に環奈が店を出て来るのを監視していた。
HEAVENの営業時間終了と共に客の男と出て来た環奈。
俺は急いで店を出ると、気付かれないよう後を追いかける。
二人はどうやらBARに寄って酒を飲むらしい。メガネを掛けただけの気休め程度の変装をした俺は二人から遅れて店に入る。
環奈は男との話に一生懸命になっているようで俺には気付いていない。
二人が見える席に座った俺は酒を飲みながら男が何か怪しい動きをしないか逐一確認する。
店に入ってから三十分が過ぎた頃、動きがあった。
環奈がトイレに行く為席を立った瞬間、一緒に居た男がポケットから小さい包み取り出すと、環奈が飲んでいる酒のグラスに薬のような粉を入れたのだ。
当然俺はその現場の動画を撮った。
そして環奈が席に戻って来てグラスを手にした、その瞬間、
「それを飲むな」
グラスを持っていた彼女の手を掴んでそう制止しながら、二人の前に姿を現した。
「な、何だ、テメェは?」
「え……万里……さん?」
誰だか分からないと言った男とは対照的にメガネを掛けただけの軽い変装なのですぐに誰か分かった環奈は驚きの声を上げる。
「カナちゃん、コイツ、知り合い?」
「えっと、は、はい……」
「あのさ、知り合いだか何だか知らねぇけど、俺が今この子と二人で過ごしてんだよ。邪魔すんなよ?」
「悪ぃな、邪魔して。けど、ちょっとお前に見せたいものがあるんだ、見てみろよ」
「あ?」
当然、薬を入れているところを見られていないと思っている男は大きな態度で俺に向かって来るが、男だけに見えるようさっき撮った動画を見せてやると、男の表情は一気に青ざめる。
「お、お前、これ……」
「金輪際コイツに近付かねぇと約束するなら、これはこの場だけのものとして店には言わないでおいてやる。けど、少しでも舐めた真似したら、どうなるか分かってんだろうな? 店のバックには組織の人間が付いてる。その事を忘れんじゃねーぞ? このクソみてぇな企てした奴にもよく言い聞かせておけ」
焦り怯える男にだけに聞こえるよう近付きドスの効いた声で言ってやると、
「わ、分かった! 約束するから! お、俺は何も関係ねぇ!!」
俺や環奈を残し、男は逃げるように慌てて店から出て行った。