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酸素が足りない。
身体全体を壁に押さえつけられて
肺から空気が搾り出されるほど強く抱き締められているのに、なぜかその痛みさえ快感に変わってしまう。
彼の右手がドレスの裾を割り、露わになった太腿に直接触れた。
掌の熱が肌を通して脳髄まで直接伝わってくる。
「ッ……! 待っ、こんな……馬車の中で……!」
抗議の声はすぐに彼の口内へ消される。
舌先で絡め取られ、弄ばれ、羞恥で破裂しそうな理性を嘲笑うかのように
何度も何度も角度を変えながら噛みつくような深いキスが繰り返される。
背骨の芯からゾクリと湧き上がる何かが、身体の隅々まで電気のように駆け巡っていく。
これは違う。
彼はただの契約上の夫で、私は借金の形に囚われた哀れな人質のはずなのに。
なのにどうして私の身体はこんなに、彼に触れられて悦び、もっと深くと願ってしまうのか。
小さな刺激が火花となって全身に散り、頭が真っ白になるほどの陶酔に溺れそうになる。
「可愛い顔もできるじゃないか」
荒くなった息遣いの合間に、シャーロットが顔を離し、至近距離で囁く。
「こんなに蕩けた顔……他の男には絶対に見せるなよ」
独占欲の塊のような言葉と共に、また唇を塞がれて、私の思考は完全に麻痺した。
心のどこかで警鐘が鳴っているはずなのに、私の両腕は無意識に彼の首に回ってしまい
シャツ越しに触れる逞しい筋肉の感触が妙に心地よく感じる。
舌先で執拗に歯列をなぞられ、天井に浮き上がりそうなほどの昂ぶりに膝がガクガクと震え
ついに私は彼の胸元に完全に体重を預けてしまった。
「ふっ……朝とは違って、随分と弱々しいな。噛みつく元気もないのか?」
「……っ、」
否定したいのに、言葉が出ない。
彼の愛撫を、彼の独占を肯定している自分が確かにここにいることを知ってしまったから。
「……帰ったら続きだ。今日は眠らせないぞ」
「?! な、なんで……今ので、許してくれたんじゃ……っ」
「まさか。お前には、徹底的な『躾』が必要みたいだからな。俺のことしか考えられないようにこの体に叩き込んでやる」
彼はそう言うと一度顔を上げた。
薄闇の中でもはっきりと分かるほどに燃える蒼い瞳。
怖いのに、恐ろしいはずなのにその目を逸らせない。
馬車が邸宅に向かってゆったりと揺れる振動
そのたびに伝わってくる彼の暴力的なまでの体温、胸板の奥で早鐘を打つ鼓動の速さ。
私はその温もりに身を委ねることしかできず、そこにいるのは、愛するものを───
いや、自分の所有物を他の男に触れられ、嫉妬と独占欲に狂った一人の剥き出しの「男」だった。
昨夜よりも、レッスン中よりも、何倍も激しく、痛いほどの熱量。
私は、彼の怒りに恐怖しながらも
自分の中に芽生え始めた異常なまでの昂ぶりと
彼に独占される悦びを、もう無視できなくなっていた。