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天候の変化の激しい、スコットランド北部の町… セント・アンドリュースに一軒の古ぼけた屋敷があった…。
そのアダム様式の美しい屋敷の名は、 アガヴェニー・ハウスと呼ばれていた。
しかし、嘗て栄華を誇った名家の屋敷であったアガヴェニー・ハウスも…
今ではすっかり埃が積もり。
蜘蛛が巣を張り。
ドアはひしゃげて、 床は歩く度に軋んで、悲鳴を上げる…。
建物が老いて、やがて朽ちてゆくように…、 人も老いて、朽ちていく。
かつて聞こえた、 一家が食事をする楽しき団欒の声は、 もはや聞こえない。
この広い家に住むのは、ウイリアム・ハドーと呼ばれる…孤独な老人一人だけなのだから。
ウイリアムは今一人、ロッキングチェアに揺られて、考えていた。
自分を慰める哀悼の歌を。
死にゆく者への鎮魂歌を。
夜な夜な…、 嗚咽し。 苦悩し。 後悔し。
苦しむ。
ウイリアムに残された物は、もはやひたすらに虚無が続く…時間だけだったのだ。
ウイリアムは懐かしむ。 最愛の人を。 かつての輝かしき日常を。 今は亡き、古き友を。 よく悩み、必死に努力してきたあの若かりし日々を。
孫も子も、都会へ出て行き。 社交も無く。 幸せも無く。 感情の揺れ動く事も無い、灰色の日常の中で…。 日に日に歪んでいく、その狭き世界で、 少しづつ老いてゆく。
終着点へ向かって。