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『貴方想い、散りゆく恋』〜身分違いの恋だとしても〜


第弍話 思わせ振りな


それは突然の手紙だった。


『悪魔執事の主へ

君にしか頼めないことがある。今日の午後、グロバナー家に来て欲しい。』

『フィンレイ様から…手紙…!』

嬉しくて仕方なかった。私はいつもよりオシャレをした。


『アモン、髪お願いしたいんだけど…。』

『了解っす。』

『……♪♪』

『ご機嫌っすね。何かあるんすか?』

『ふふ、秘密♪』

『え〜?』

まだ知られちゃいけない。他の執事に知られたら絶対からかわれるに決まってる。だから、まだ、内緒。


『お気を付けて、主様。ルカスさん、主様をお願いしますね。』

『うん。任せて。』

私はルカスに御者を頼み、馬車に乗り込む。


『フィンレイ様私に何の頼みだろう。』

『ふふっ。行ってからのお楽しみ。ですね。』


グロバナー家本邸――


『ル、ルカスは外で待ってて。』

『えぇ。かしこまりました。何かあったらすぐに駆けつけますね♪』

私は緊張しながらフィンレイ様の部屋へ向かう。

コンコンっ。

『フィンレイ様。雪華です。』

『入りたまえ。』

『失礼します。』

ガチャッ

『済まないね。いきなり呼び出して。』

『い、いえ。それで私にしか出来ない頼みって…。』

『あぁ。実は――。』


『フィンレイ様の婚約者になる!?』

執事たち全員が驚く。

『あ、あくまでフリだよ、フリ!フィンレイ様にね――』


『今度貴族のパーティがあるのだが、そこで君に私の婚約者として出席して欲しいんだ。』

『フィンレイ様の婚約者として…。あの、事の経緯はどんな…。 』

『貴族間の間で噂になってね。私に婚約者がいる。と。』

『なるほど…。』

『恥ずかしい話、貴族はそういう話で盛り上がるんだ。もちろん君に無理はさせないし、もし何かあっても私が守る。』

『…!』

『私情を挟んで申し訳ないのだが引き受けてくれるかな…?』

『……。』

もちろん断れるわけない。好きな人からの頼みなんて。

『分かりました。やります。』


『フィンレイ様の婚約者の役…簡単にはいきませんよ。相手はあのフィンレイ様です。貴族も納得のいく相手でないときっと…。』

『あぁ。そうだな。礼儀や教養も問われると思う。』

『そのパーティーはいつなんすか?』

『……3日後。』

『つまりそれまでに色々と主様には覚えてもらう必要がありますね。任せてください。主様の執事として必ず成功させます。』

『ベリアン…うん。ありがとう。』

こうして、3日後のパーティに向け、執事指導の元、講座が開かれた。


ベリアンによるマナー指導


『3日後のパーティではフィンレイ様にいかに相応しいかきっと、貴族による見定めが入るかもしれません。一つ一つの所作に気を遣って下さい。言葉遣いや、食事のマナー、隅から隅まで見られていると思ってください。』

『な、なるほど。』

(分かってはいたけど…。フィンレイ様の恋人になるってことはそういう事なんだよね…。)

『ではまず、食事のマナーから――。』


ミヤジとラトによる芸術指導


『フィンレイ様は武芸にも秀でてる方だ。対等な関係でいるために付け焼き刃でも身につけておこう。』

『は、はいっ。』

『パーティなので、ダンスをすると思います。ダンスの練習もしましょう。』

『は、はい!』

『ピアノとバイオリンは弾けた方がいいかな。まずピアノから。次はバイオリンだね。』

『が、頑張ります。』


フルーレによるメイク講座


『フィンレイ様の服装にもよりますがメイクや衣装は合わせた方がいいと思います。』

『フィンレイ様の服…。確か黒を着るって言ってた。』

『そしたら、黒のドレスを仕立てます。そしたら次はメイクは大人っぽくしましょう。』

『う、うん。ありがとう。』


ルカスによるワイン講座


『社交界の場でワインの知識はあった方がいいですね。トビリスのワインが中央の大地では主流です。』

『トビリス…。』

『はい。1つずつ覚えましょうね。』

『ありがとうルカス。』


こうして、執事達の指導は終わった。

そして、当日――。


『出来ましたよ。主様。』

『これ、私…?』

黒いレース状のドレスをまとい、メイクは

大人っぽい仕上がりにしてくれた。

『今回のパーティで私達はホストとしてお手伝いがあるので、主様のことを見守っています。何かあればすぐに駆けつけますから。』

『ルカス…うん。ありがとう。』

エントランスでみんなが私に微笑みかける。

コンコンっ。ギィィ…。

『悪魔執事の主。迎えに来た。』

『!フィンレイ様…。』

『…これは見違えたな。』

『フィンレイ様の衣装に合うようにと…フルーレが仕立ててくれたんです。』

『ほぉ…。君の執事は優秀だね。』

『はい。みんなが今日の為に色々頑張ってくれました。必ずフィンレイ様のお役に立ってみせます。』

『ふふっ。そんな身構えなくて大丈夫だ。』

グイッ

フィンレイ様は私を抱き寄せる。

『っ!』

『今この時。君は私のフィアンセだ。君のことは必ず守る。』

『っ……はい。』

(ひゃぁぁ…ぁ!!フィンレイ様に抱き寄せられてる…っ!!やばい、心臓が…っ!)

『……。』

(主様顔に出てるなぁ…。私以外の執事にバレるのも時間の問題かな。)

『では、ルカス。また後で会場で。』

『はい。フィンレイ様。』

私とフィンレイ様は馬車に乗り、グロバナー家へ向かった。


パカラパカラ…ッ


『……。』

『緊張しているのか?』

『!そ、それはしますよ…だって私に務まるかなって…。荷が重い…です。』

『…私は君を信頼して頼んだんだ。だから自身を持って欲しい。悪魔執事の主。』

『…!』

(フィンレイ様が私を……。)

『はい、ありがとうございます。』

ギィッ

『さぁ、着いた。行こう。悪魔執事の主。』

『は、はい。』

差し伸べられた手を握る。

『いや、今は名前で呼ぶべきか。雪華。行こうか。』

『はい!』


グロバナー家 パーティ会場――


『フィンレイ様がご到着したらしいわ。』

『婚約者様はどんな方なんでしょう。』

ギィィ…。

扉が開く。

『……!なんて凛々しいお姿なの…。』

『赤い髪に黒い装いが似合うわ!』

『隣の女性はまさか――。』

『悪魔執事の主様じゃないかしら!お綺麗ね…。』

『あの、フィンレイ様…。』

『ふふっ。嫌な事を言われると想像していたかい?大丈夫だ。今日の会場は悪魔執事のことをよく思ってる者が多いから。堂々としていて大丈夫だ。』

『…はい。』

私は背筋を伸ばす。

『綺麗な顔立ちだわ……フィンレイ様が見初めただけあるわ。』

『っ……///』


『主様人気者っすね〜。』

『あぁ。流石俺たちの主様だな。』

『お前達、ワインを飲みながら話すな。』

『まぁまぁハウレス。』


『あの悪魔執事の主がフィンレイ様の婚約者だと?』

『汚らわしい…っ。』

『まぁいい。俺達で見定めてやろう。我らの主君。フィンレイ様に相応しいかどうかをな。』


『皆様、今宵は私主催のパーティへお越しいただきありがとうございます。僭越ながら私のフィアンセを紹介させて頂きます。』

私は舞台の上に立つ。

『私のフィアンセ――』

『雪華と申します。皆様、パーティにお越しいただきありがとうございます。御礼として1曲奏でさせて頂きます。』

私はピアノを弾く。

•*¨*•.¸¸♬︎•*¨*•.¸¸♬︎•*¨*•.¸¸♬︎……


『上手だよ。主様。』

『えぇ。綺麗な音色です。』


『雪華様はピアノが弾けるのね…!』

『うっとりしちゃうわ…流石悪魔執事の主様。』

私は椅子から立ち上がりお辞儀をする。

『皆様。存分にパーティをお楽しみ下さい。』


パチパチパチ……!


『ピアノが弾けたんだな。』

『はい。付け焼き刃ですが……。』

『綺麗だったよ。さて、お腹も空いただろう。何か食事を持ってくるよ。』

『それなら一緒に……。』

『いいんだ。雪華は座ってて。妻を甘やかすのも夫の務めだ。』

頭を撫でられる。

『っ…。はい…///』

(フィンレイ様…ずるいですよ。)

私はソファに座る。


『主様、なんとか大丈夫そうですね。』

『はい!』

『モグモグ…いや、そうでも無いかもしれない。』

『え?何がだよ。バスティン。』


コツコツ…。


『ごきげんよう。悪魔執事の主。』

『!貴方は…。』

『フィンレイ様との御婚約おめでとうございます。』

『ど、どうもありがとうございます。』

『ところで、雪華様は飲める口かな?』

『!』

ドンッ

貴族は私の前にワインを並べる。

『私と1つゲームをして欲しいんだが。』

『ゲーム、ですか?』

『ブラインドテイスティング。ワインを当てる簡単なゲームだ。』

『ブラインドテイスティング…ですか。』


『まずい、ルカス様。主様に貴族が…!』

『我々でフォローを…!』

『大丈夫。2人とも落ち着いて。ワイン好きの私が主様に指導したんだ。見ててご覧。』


『受けてくれるかな?』

『……。』


『これも美味しそうだな。雪華に…ん?』

(あれは…っ、貴族が雪華に迫っている。

助けなければ…!)

私は急いで席に戻ろうとする。

『フィンレイ様。』

『る、ルカス…。』

『大丈夫ですよ。ほら。』


『受けます。』

『ありがとう。では始めようか。』

トクトク……。

ワインのラベルを隠してグラスにつがれる。


『…。』

(匂い、色…。)

ゴクッ

(この甘い感じ…。熟成が早い気がする。)

『さぁ、このワインの名前は?』

『…トビリスの14年。ですか?』

『なっ!!』


『!!』

『ほら、言いましたでしょう?主様にワインの知識を教えたのはこの私、ですよ?』

『ルカス……。』


『つ、次はこれだ。』

(まぐれだ。まぐれに決まってる。)

ゴクッ

『トビリス12年。』

『っ……。』

『トビリスの8年もの。』

『く…っ!』


数分後――


『……まだやりますか?』

空になったワインの空き瓶を並べて微笑む。

『く……っ。ず、図に乗るなよ!!』

『っ!』

ドンッとテーブルを叩く。


『あの貴族のやつ遂に本性を現したな。』

『ハナマルさん、聞こえますよ。』

『主様を助けないと…!』


『悪魔執事の主お前がフィンレイ様に相応しい訳ないんだ!悪魔執事という穢らわしい存在を束ねている時点でな!』

『…っ!』

その言葉にカチンっと来てしまう。

『悪魔執事など所詮は我々の駒なんだ!駒は駒らしくしていれば――』

『あのクソ貴族――』

執事たちが一斉に走り出す。

バシャァッ!!

私は貴族の頭にワインをぶっかける。

『!!』

ポタポタ……。

『…なっ…!!』

『私の非なら幾らでも申し上げて下さい。ですが…私の執事のことを悪くいうのなら。例え貴族でも許せません。私は貴方を許しません……!!』

ギラッと睨み付ける。

『なっ…。私にこんなことをしていいと思ってるのか!』

ぶんっと手を振り上げる。

『っ!』

ガシッ!

『戯れが過ぎるぞ。』

『フィンレイ、様……!!』

『私のフィアンセが失礼した。執事の事を言われると頭に血が上ってしまうんだ、それほど執事のことが大好きなんだ。私からしたら…妬けてしまうけどね。この場は私に免じて許してくれるかな?』

『っ…!!』

『っ、失礼致しました。フィンレイ様。』

貴族はそそくさと去っていく。


『ごめん、なさい。』

私とフィンレイ様はテラスに出て夜風に当たる。

『なぜ謝る?』

『フィンレイ様に恥をかかせたので…。私…。』

『…恥じゃないよ。君が執事を守る為にやったことだ。むしろ、誇るべきだと思うが。』

『フィンレイ様…。』

もう無理だよ。優しくて、カッコよくて

もっと好きになっちゃう。

•*¨*•.¸¸♬︎…

『ダンスの時間のようだ。雪華。』

私は雪華に跪き、手を差し伸べた。

『私と1曲踊ってくれるかな?』

『…!はい!』


『…幸せそうっすね〜。主様。』

俺達は階段から2人を見つめる。

『あぁ。執事として主様のしあわせは喜ぶべきなんだろうけどな。』

『…なんでだろう。こう、胸が苦しい。』

『フェネス…。ふっ。お前もか。』


気付けよ。主様。俺達の気持ちにも。

貴方を好きな人はここにもいるんすよ。

俺じゃ、ダメなんですかね…。

俺が必ず幸せにします。


キラッと4人の目が光る。愛しいものを見るような目で。


『悪魔執事の主。今日はありがとう。君にしか頼めなかったからね。』

『私にしか…。』

『あぁ。君が優しい人で良かった。』

ドキンドキン…。

もう、伝えてしまおうか。いや、でもダメだ。もう、苦しい。葛藤するのは。


『あの、フィンレイ様。』

『ん?何かな?』

『…好きなんです。』

『……!』

『フィンレイ様の事が私――!』

『……。顔をあげたまえ。』

『!』

『君の気持ちは嬉しい。でも、済まない。君の気持ちには応えられない。』

『…そう、ですよね。すみません…っ。』

ダメ、零れないで。涙。

『っ……。』

泣きそうな主をどうしていいか分からなかった。

『雪――。』

『フィンレイ様。』

『!』

名前を呼ばれ振り向く。

『ルカス……。』

『主様をお迎えに上がりました。今日はありがとうございました。』

『あ、あぁ。』

『ルカス…。』

『主様。屋敷に帰りましょう。みんな待ってますよ。』

『ぅん……っ。』

私は涙をこらえる。

『すぐ近くにハナマル君達が居ます。馬車に乗って屋敷に帰りましょう。』

『うん……っ。』


テラスにフィンレイ様と二人きりになる。


『…主様からの告白を振ったんですね。』

『……。』

『主様の気持ちには気付いていたはずですよ。フィンレイ様。』

『…あぁ。気付いていた。』

『だったら何故あんな……。』

『…今程貴族の立場を疎ましく思ったことは無いよ。』

『……!フィンレイ様、まさか貴方は――。』

『……っ。』


馬車内にて――。


『……。』

『…主様。何かあったのかは詳しく聞かないけどさ。泣きたい時はないていいと思うよ、俺。』

『!ハナマル……。』

『ハナマルさんの言う通りです。悲しい時の泪は我慢する必要はありません。』

『俺たちが全部受止めますよ。』

『っ…!』

私はハナマルに抱き着く。

『よく出来ました。…主様。』

『ぅ、ふっ、うう…っ。ひっ、く…っ!』

『よしよし…。好きなだけ泣いていい。見てるのは俺達だけだ。』


本気で好きだった。だから辛い。苦しい。振るんだったら――。

思わせ振りな態度なんて取らないで欲しかった。


『すぅ、すぅ…。』

『泣き疲れてしまわれたようですね。』

『あぁ。あれだけ泣いたらもう充分だ。辛いことは忘れた方がいいからな。』

『…そうですね。』


恋なんてしなくても俺達が貴方を誰よりも想っています。

私にその身を委ねてください。

俺なら悲しませることはしない。絶対。


主様を見つめながら心の中でそう思った。


パーティ会場。テラス――


『…ふぅ。』

ルカスと別れ、 ゴクッとワインを飲む。

『ルカスの言う通りだ。情けないな。私は。』


数分前――


『貴方の気持ちは分かりました。だけど私達執事は主様を泣かせた貴方を許しません。』

『…あぁ。分かってる。』

『……一つだけお伝えしておきますよ。伝えないと……苦しいこともあると思います。』


『その通りだな。ふっ。』


分かってる。私だって気付いていたから。

主の気持ちには。でも、応えられない。

私が…貴族という立場で。グロバナー家の

当主だから。

『好きなのに言えないって言うのはこんなにも苦しいものなんだな。』


恋ってなんて尊いんだ。辛いのに、苦しいのに。みんなそれをしたがる。なんでかって……幸せになりたいから。

幸せな恋なんて絶対ないんだ。恋することで辛いことも苦しいことも沢山あるから――。


次回予告


フィンレイ様に振られ落ち込んでいた私の前に執事達が私を励まそうと沢山奉仕をしてくれて――


『…フィンレイ様以上に癒してあげられませんか?私達では。』

『っ…それは……っ。』


次回


第参話 苦しいままでは

『貴方想い、散りゆく恋』 〜身分違いの恋だとしても〜

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