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12:30、私はバイト先に着いた。駅から徒歩10分程のショップで、店長がセレクトしたメンズ、レディース、キッズの服や小物等々を並べてある。客層は様々、平日の昼は主婦層が多く、アフターファイブは学生から社会人、土日祝日は家族連れも見に来てくれる。

「おー、来た来た。酔っ払いめ」

店長はサッカー台に肘を付いて私を見た。今年で45になると言うが、とてもそうは見えない。美魔女?と言うのにも抵抗がある。緩く巻いたカフェオレ色のロングヘアをサイドで纏めて横に流し、後毛をかき上げて耳に掛ける姿は女性そのもの。でも性別は男性。奥さんもいる。整えた眉と控え目な化粧と、強烈な香水。今日はランコムのポエムトレゾア。

「おはようございます。私は今日お休みなんですから、潰れてても問題ないですよね?」

「そうだね、悪いのはエリちゃん。代打ありがとう」

店長は言いながら、私にタブレットを手渡した。画面には夏物のメンズ服が並んでいる。

「もうすぐ着く新作。検品して出したいのに、エリちゃんに休まれると何も進まないからさ。助かった。はいお礼」

画面を見ている私の頬に、瓶入りのドリンク剤を付けてきた。冷たい。

「変なのに引っかかって、悪い物飲まされたんでしょ?これ漢方。スッキリするよ」

「・・・お見通しですね。ありがとうございます」

言って飲み干す。苦くて癖のある味が広がった。

店長はいい人だ。いい人で優しい人。深夜、家を飛び出して着の身着のままで盛場を彷徨っている小娘を保護して養ってくれる程の。

「僕も若い頃は色々あったからね。ほっとけないんだ、アンタみたいな子」

そう言って手を差し伸べてくれた事を、私は一生忘れないだろう。それはエリも、そしてもう1人のバイトの子も同じだと思う。

お店には2組のお客様。私は、邪魔にならないようにこれから来る新しい商品を出すスペースを開けていった。そしてメンズのディスプレイも確認する。先週寒暖の差で調節しやすく過ごしやすい物に私が変えたままになっている。

「どうします?大分夏物が入りますけど、全部変えますか?」

「うん。全部お願い。まだ寒いけど、新しいのを印象付けたいから」

頷いた時、宅配トラックが店の外に停まるのが見えた。運転手は車から降りてこちらに向かって帽子を取って頭を下げて、台車に段ボールを5個積み上げて店内に入って来た。

「お届け物ですー・・・ってアスカちゃん?エリちゃんじゃ無かった」

宅配のお兄さんはエリファンだ。一目惚れしてファンになった。別に芸能人でも、カリスマ店員でも無い。だけどファン。そしてファンから一歩踏み出そうとはしない。この距離感が丁度いいのだそうだ。私にはよく分からないが、近過ぎると見えてくるものが怖いらしい。

「本当はエリだったんだけど、体調不良で交代しました」

私は答えながら印鑑を押した。

「ええ!?大丈夫なの?」

「LINEに既読をつける程度には」

「心配だ・・・。あ、外にさ、中覗いてる奴居たけど、アレ何?」

ん?と思い、私は外を見た。マネキン人形の隙間から見える外の風景に人影が見えた。サッと引っ込んだので男か女かも分からない。

「何だろ・・・」

話を聞いていたのだろう、店長が外に出て周りを確認してくれた。しかし、その場でこちらを向いて首を振る。誰も居ないようだ。

「エリちゃんのストーカーかな、今日来てないけどそれ知らないで来てるとか?」

荷物を下ろし終わって宅配のお兄さんが言った。エリにストーカーが居るのも初耳だった。

「誰も居ないけど、ちょっと嫌だね。アスカちゃん今日彼迎えに来るの?」

戻って来た店長が聞いた。

「上がりの時間に来てくれます」

「ならとりあえず安心だね。しばらく気を付けて過ごして」

はーい、と返事をして、私は段ボールの荷物を開けて検品を始めた。とりあえず目の前の仕事を片付けよう。店長から貰った漢方が効いたのか、ふらつきや気分の悪さは殆ど消えた。雨君が来るまでに、終わらせてしまわなければ。

店長が休憩に行っている間に検品を終わらせ、何名か接客もして、交代で休憩に行き戻り、品出しを終わらせてディスプレイ変更に掛かった時に視線を感じた。

振り返ると、目に飛び込むフラッシュ。私は外したマネキンの腕を落っことしてしまった。

瞬きをして目を開くと、カメラかスマホを手に逃げて行く男性の後ろ姿が見えた。

え・・・。

「アスカちゃん大丈夫?」

店長がレジから声を掛けてくれた。

「あ、はい。大丈夫です」

私は答えて落とした腕を拾った。そしてもう一度振り返る。店前の大通り、そこそこ賑わう人並みの中、さっきの男性の影は、もう見えなくなっていた。

写真、撮られたの・・・?まさかね・・・。鏡とかの反射かも知れないし、まぁ、大丈夫かな?

18時を過ぎて、店長は帰って行った。私は17時〜のバイト君と2人で商品整理をしつつ、新作の着こなしやお客様への進め方を相談したり、店内清掃を行った。その間、不審な影も現れず、平穏な時間が過ぎて行った。

雨君が迎えに来た。

「アスカ、残念ながら俺だ」

「・・・『中の雨』君?」

昼間、何があったのか、雨君は入れ替わっていた。

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