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しかしその扉が開かれるよりも前に優奈たちの背後から声がした。
落ち着いた女性の声だ。
その女性は優奈をチラッと横目で確認しながら雅人の前に立つ。
背丈は優奈よりも高く、雅人と並ぶとモデル同士みたいで絵になる。
白のブラウスに濃紺のストレートパンツ。高い位置にある細いウエスト。同じ色のジャケットを羽織り、淡い栗色の長い髪はひとつに束ねられていて上品なローポニーテール。
小さな顔に少し大きめの耳。きらりと光るシルバーのピアスが何故だか眩しく感じた。
「ああ、おはよう」
「ねえ、その女の子が優奈ちゃん?」
美しい女性に突然名を呼ばれ優奈は背筋をピンと伸ばした。
「そうだ」
「は、はじめまして。瀬戸優奈です。今日からお世話になります」
深々と頭を下げる優奈に対して、言葉はすぐに返ってこなかった。不安になり見上げようとした次の瞬間だ。
「やだ……! 嘘でしょ、予想外!」
その女性は優奈をすっぽりと抱き締め、その豊満な胸にぐりぐりと優奈の頭を押し付ける。
「え、え? あの……」
「高遠くんが尻に敷かれてる感じじゃない? もっと高圧的な美人がやってくるのかと思いきや! やーん、可愛い」
優奈が騙されているかもと思いながら飲み続けたバストアップサプリや胸筋エクササイズ。
それらをもって敵わなかった巨乳に圧倒され、言葉が出ない。すぐ隣で雅人の呆れたようなため息が響いた。
「やめろ、マキ。優奈が怯えてる」
「え!? やだ、ごめんなさい! もう私可愛い女の子とハムスターに目がないのよ」
マキ、と口にした雅人。それはもしかしてさっき話題に出た、その人でないのだろうか。
「マキ……さんって、さっき話してた方ですか?」
「やだなに、さっき話してたって、高遠くん何吹き込んだのよ」
優奈の問いかけに雅人が答えるよりも早くマキと呼ばれる女性は、会話を進めていく。
「別に何も」
「ふーん、まあいいわよ。そんなことより優奈ちゃん。今日からよろしくね、私も管理にいるのよ~」
「そんなことって何だよ」
ニコニコわらう彼女に、雅人は一見冷たい声で返すが、優奈に対する”お兄ちゃん”の顔でもなくて、かと言って先程挨拶を交わした受付の女性に対する事務的なものでもなくて。
何やら親密そうだ。
優奈の入っていけない雰囲気に、ただ黙っているしか出来ない。
「あ、優奈ちゃん。私、真木文子。名前がオシャレじゃなくて気に食わないからマキちゃんって呼んでね」
「マキさん! よ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる優奈にマキは優しい口調で。
「あららら、頭なんて下げなくていいのよぉ! ここはみんなわりとフラットな関係だし、何より高遠くんが直々に連れてきた優奈ちゃんに頭下げられたらみんなビビって仕事にならないんじゃ?」