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ふふっと綺麗な笑顔で。けれど形の良い大きな瞳はじっと優奈を見据えた。
何となく棘のある言葉……のような気がしてしまうのはまるで品定めしているかのように突き刺さる視線のせいなのかもしれない。
「おい、お前は何でそんな言い方を」
「その通りです!」
優奈を庇おうとする姿勢を見せた雅人に割って入る。
こんなことを言われてしまうのは当たり前だからだ。
当たり前のことを影ではなく、目の前で口にしてくれることに感謝しなくてはいけない。
「私、頼り切ってここに入らせてもらいました。何のツテもなかったら入社なんてできてないだろう学歴と職歴しかありません。なのでマキさんや他の社員の皆さんには劣りますが、その分何倍も頑張るのでよろしくお願いします」
もう一度優奈は頭を下げる。
しかし今度は深々と。
そうしたなら、マキは「あら~」と少し驚いたように声を上げてから優奈の頭をよしよしと優しく撫でた。
暖かく、そして柔らかな感触。
願望かもしれないが、少しばかり感じた敵意は姿を消しているように感じた。
「うんうん、安心した」
「……マキさん?」
「優奈ちゃん、とっても素直な人ね。うん。私そういう人好きよ」
マキの手が離れて、顔を上げるとニコニコと弾けんばかりの笑顔が優奈を見ている。
今度は品定めみたいな視線はなくて、ただただ本当に楽しそうに見えた。
「って、ダメだわ!私ったら調子に乗って話し過ぎちゃった」
マキが慌てた様子で腕時計を見つつ、優奈へと「またゆっくり話そうね」と満面の笑みを浮かべた。
「そうそう高遠くん、今日奥村君直行だったけど先方のミスで担当の人いなかったみたい。出直すって言ってるからもうすぐ戻ってくると思うわよ」
「ああ、そうなのか」
「うん。だからちょうどいいかなって、初日だけど優奈ちゃん任せたら?」
経営企画のドアを開けつつ真木は雅人に口早に伝えた。
「まぁ、今日は挨拶程度にしてくれよ」
雅人から返ってきた言葉に真木は大袈裟に肩をすくめて、デスクの上に手にしていた書類を置く。
広々としたフロアの真ん中に長方形のオフィステーブルが三つ並べられており、その奥には少し離れて大きめのデスク。
「あ、高遠くん。色々スケジュール動かしてるからすぐに私のデスク確認してよ」
「ああ、わかった」
「コタの分は千春ちゃんに任せてるからそっちも」
「ああ」
そんな伝言を残してマキは足早にその場を去った。
が、すぐに振り返って。
「優奈ちゃん! お昼までには戻るから、それまで奥村君って子がもうすぐ戻るからね。色々教えてもらっててね」
優奈へも言い残して、再び歩き出しフロアを去った。
雑談の後、忙しなくも的確に発言して去っていく様がとてつもなくカッコいい。
美人でカッコいいなんて、最強だ。
「優奈はマキとは相性が良さそうで安心した」
「え?」
雅人がそんなことを言うもんだから優奈は首を横に振った。
「相性とかじゃなくてマキさん、いい人だと思う。先に聞かせてくれたから、自分がどんな風にここで仕事してれば良いのかちゃんとわかった」
「そうか、偉いな、優奈」
その褒め方はやっぱり子供扱い。