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#現代ドラマ
ゆうき あきや
4,038
259
#心理描写重視
第109話:シマエナガフォースのサイン盗み(未遂)と主のレーザービーム
『十勝地区・親善草野球大会』準決勝。
俺たち村のチームは、隣町の『屈強な農機具メーカー連合』を相手に、最終回である七回裏、1点リードという緊迫した局面を迎えていた。
ツーアウト、ランナー二塁。
一打同点、一発出れば逆転サヨナラ負けという大ピンチである。
ファーストの守備位置に就く俺は、愛用のミズノのファーストミットを構えながら、グラウンドに漂う『不穏な空気』を察知していた。
「……ん?」
二塁ランナーの動きが、明らかにおかしい。
リードを取りながら、不自然にヘルメットの鍔を触り、次にベルト、そして右太ももをポンポンと叩いている。
間違いない。キャッチャーのサインを盗み見て、バッターに球種とコースを伝達する『サイン盗み』だ。
草野球とはいえ、なんという小賢しい戦術。
だが、俺が審判にアピールして試合を止めるよりも早く、『大自然の防衛システム』が稼働した。
『ピピピッ!!』
十勝の夏空に、鋭い鳥の鳴き声が響き渡る。
バックネット裏の照明塔で試合を観戦していた、スマートな夏毛(サマー)仕様へと換装した小さな妖精たち——『第十一シマエナガ空挺飛行隊』だ。
彼らの野生の優れた動体視力は、二塁ランナーの『不自然で規則的な動き』を、巨大な芋虫か何かのサインだと誤認したらしい。
「うおっ!? な、なんだこの鳥たち!?」
数十羽のシマエナガがデルタ陣形を組み、二塁ランナーの顔面周辺へと猛烈なスクランブル・ダイブを敢行した。
「痛っ! ヘルメットつつくな! やめっ、前が見えねぇ!!」
『ピピピピッ!(不審な動き、排除! 排除!)』
シマエナガたちがランナーの視界を完全にジャックしたことで、打席のバッターへのサイン伝達は完全にシャットアウトされた。
「えっ? サインは? ストレート? カーブ?」
バッターが混乱して二塁を振り返った、まさにその瞬間。
マウンドの村長が、渾身の超スローカーブを投げ込んだ。
「うおぉぉっ!?」
タイミングを完全に外されたバッターは、無様に体勢を崩しながらも、執念でバットにボールを当てた。
カキィィィン……ッ!
力のない打球が、フラフラとライト前へと転がる。
「落ちたっ! 同点だぁぁっ!!」
相手ベンチが歓声を上げる中、二塁ランナーがシマエナガの群れを振り払いながら、三塁を蹴って一気にホームへと突入した。
だが、彼らは致命的な計算違いをしていた。
ライトの選手が弾いたボールが、カバーに入っていたファーストの『俺』のグラブへと収まったことを。
「……兵站(ロジスティクス)の基本は」
俺はボールを右手で深く握りしめ、本塁(ホーム)へと突進するランナーを視界のど真ん中に捉えた。
「前線が要求する物資を、最短距離かつ、最速で届けることだ」
ブラック企業で摩耗した俺の脳内に、陸上自衛隊『需品科』時代に叩き込まれた弾道計算の数式が瞬時に展開される。
風速、湿度、ボールの重量、そしてホームベースまでの距離、約三十メートル。
俺は強靭な足腰で大地を蹴り、肩甲骨の可動域を限界まで引き絞った。
『ズバァァァァァァンッ!!!』
俺の右腕から放たれた白球は、重力という物理法則を完全に無視し、地面と平行な『完全な直線(レーザービーム)』を描いて宙を裂いた。
「え……?」
ホームに滑り込もうとしていたランナーの目の前で。
ボールは、キャッチャーのミットに一ミリの狂いもなく突き刺さった。
「…………ア、アウトォォォォォ!!!」
審判の絶叫が、静まり返った球場に響き渡った。
「……………………は?」
相手チームの監督が、口をポカンと開けて持っていたバインダーを落とした。
ベンチからジンバル付きのiPhone mini越しに配信を見ていた小春ちゃんも、完全に石化している。
そして、一千万人のリスナーが見守るチャット欄は、この日最大の核爆発を起こしていた。
『うおおおおおおおお!!!』
『なんだ今の送球!? 完全にビームだったぞ!!!』
『糸を引くようなレーザービーム(物理)』
『イチローかよwwww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”What an arm! I will buy him a major league team right now! He is a sniper!“(なんという肩だ! 今すぐ彼のためにメジャーの球団を買おう! 彼はスナイパーだ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”That right arm alone is worth a 200 million dollar insurance policy!“(あの右腕だけで2億ドルの保険をかける価値があるな!)』
『限界集落の元社畜、ついにメジャーリーグからスカウトされるww』
『シマエナガのサイン潰しからの、主のレーザービーム、完璧すぎる連携プレイww』
球場中が割れんばかりの大歓声と拍手に包まれる中、俺は「ふぅ」と小さく息を吐き、ベンチへと戻った。
「お、お兄さん!! なんですか今の矢みたいな送球!! 肩の強さ尋常じゃないですよ!!」
小春ちゃんが目をキラキラさせて俺の右腕をバシバシと叩いてくる。
シロやコン吉たちも「よくやったわね」とばかりに足元にすり寄ってきた。
俺はカメラの前に立ち、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「皆さま、落ち着いてください。先ほどのシマエナガたちは、決して相手のサイン盗みを妨害したわけではありません。ランナーのヘルメットの反射光を美味しい虫だと勘違いしただけです」
『出たwwww』
『主の限界野球解説・準決勝編ww』
「そして俺の送球についてですが、あれは十勝特有の夏の突風が、たまたまボールの推進力に完璧な後押し(追い風)をしてくれただけです。ええ、ただの『気象学的な奇跡』と『テコの原理』を応用しただけで、自衛隊の訓練など一切関係ありません。農家のおじいちゃんでも日常的にやっている動きですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、応援用のプラスチックメガホンで俺の背中に渾身のツッコミ・スマッシュを見舞った。
「無風でしたよ!! 完全に音が鳴るレベルの剛速球でしたよ!! 農家のおじいちゃんが時速150キロのレーザービーム投げるわけないでしょ!! 素直に自分の身体能力のバグを認めなさい!!」
『小春ちゃんのメガホンスマッシュ炸裂ww』
『気象学的な奇跡(時速150キロの剛速球)』
『テコの原理(完全なレーザービーム)』
『適応力バグおじさん、ついに物理学と農家を冒涜し始めるww』
チャット欄が一千万人の大爆笑で埋め尽くされる中、俺は「痛ぇな」と苦笑いしながら、持参した昼食のタッパーを開けた。
見事な決勝進出を果たした俺の勝負メシは、今日も周囲の熱狂とは裏腹に、極限までストイックだ。
完璧な水加減で炊き上げた『玄米』と、すりおろした生姜の香りが食欲をそそる『大豆ミートの生姜焼き風』である。
「お兄さん……球場がこれだけ沸いてて、VIPたちが何億ドルって騒いでるのに、食べてるのは大豆なんですね」
「当然だ。大豆の良質な植物性タンパク質こそが、先ほどのレーザービームで損傷した右腕の筋繊維を最速で修復してくれる。陸上自衛隊需品科たるもの、自己のロジスティクス管理に妥協は許されない」
俺は真顔で玄米を頬張り、生姜の効いた大豆ミートの旨味を噛み締めた。
プチプチとした玄米の甘みと、大豆のヘルシーな味わいが、運動後の体に心地よく染み渡っていく。
『ミャウ(相変わらずブレない男ね)』
ベンチに座るシロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細めて放つ冷感マイナスイオンを浴びながら、俺は真っ青な夏の十勝の空を見上げた。
最強の大自然の防衛システムと、元・社畜のバグった兵站術。
世界中のVIPたちが熱狂する俺たちの限界スローライフ野球は、圧倒的な平和とカオスを撒き散らしながら、いよいよ決勝戦へと向かっていくのだった。
コメント
1件
わあああ今回も最高にアツかった!!😭💕 シマエナガ隊がまさかのサイン盗み阻止システムになるとは…!デルタ陣形組んでランナーにダイブとか完全に戦術やん!!しかもその流れで主のレーザービーム送球は鳥肌もんだったよ…「兵站の基本は」からの弾道計算ww普通の草野球じゃないww そして相変わらずの限界言い訳タイムww「気象学的な奇跡とテコの原理」で時速150キロ剛速球を説明しようとするのマジ面白すぎるww小春ちゃんのメガホンスマッシュも毎回的確すぎて好き!! しかも試合後すぐに大豆ミートの生姜焼きで自己管理するところ、キャラがブレなさすぎて笑ったw次の決勝戦も全力応援するよ!!🔥