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これは、私の体験でも創作でもなく、高校1年生の頃に出会った幽霊から聞いた話だ。

幽霊から聞いたってこと自体がパワーワードな気がするが、本家に住んでいた頃は太い霊道が2本通っていて、入れ代わり立ち代わり色んな幽霊と遭遇することが多かった。

その頃に偶然部屋で見かけた若いカップル風の男女が居て、それまた結構気さくな喋り方で話しかけてくるから、「何か怖い話ないの?生前の体験とか」と尋ねたところ、以下の話をしてくれた。

片方の女子はショートカットでボーイッシュな雰囲気で、男子は彼女より一回り背の高くガタイのいい霊だった。

生前はかなりヤンチャしていたと言っていたのが、目に見えて分かった。

女子は『カミヤ』、男子は『アキラ』と名乗った。直近の生前の名前だと言う。おそらくカミヤは苗字だろう。

今回は彼ら目線で語ろうと思う。

ーーーーーー

もうかれこれ何十年だろう……私が生きていたら、君のおばあちゃんかひいおばあちゃんの世代かな?もうちょっと前かも。

私の生前住んでいた土地は、酪農が盛んな地域だった。民家もぽつりぽつりって感じのね。緑豊かな土地ならではな不思議体験も、たまにある。

私の家の近くに小さい神社があって、その神社の裏には、ボロボロな感じの一軒家があった。

本当に最近まで空き家だったのに、気付いたら一家が引っ越してきていたらしい。

凄く田舎だからか、ほとんど地域の住人は顔見知りで、近所の人達は引っ越してきたら挨拶周りをしにくる。

ただ、空き家なら他にもまだ綺麗な場所もあったのに、あんなボロボロな家に引っ越すなんて、ちょっと気が知れない。

その家族は母親と父親、それと小学生低学年くらいの男の子だった。

母親と父親は、よほど長距離からやって来たのか、何だか酷く疲れ切ったような窶(やつ)れた顔で、男の子はやけに色白だ。外で野球かサッカーでもやったらいいのにと思うほど、不健康そうだった。

その一家は引っ越してきた次の日、早速挨拶まわりを始めた。

ただ、私の家にも回ってきた時、変な感じがした。

私はその頃、歳上で社会人の彼氏(アキラ)と同棲していた。夕方、アキラは仕事の支度をしていて、私はちょうど玄関に置いてある野菜を取りに行こうとしていた。

ピンポーンと、タイミングよくインターホンが鳴った。……現代のインターホンは凄いよね。色んな音の種類があって。私らの周りではまだ黒電話が主流だったし、昔ながらのインターホンの音色だったよ。

話を戻すね。

「はーい」と何気なく玄関を少し開けた瞬間、何故か悪寒がした。

玄関のドアを開けた途端、隙間から色白の男の子が顔を半分覗かせていた。

「こんにちはー」

男の子の口元は笑っている。私はチェーンを掛けたまま、半開きのドアから「どうも」と小さく挨拶を返す。

「こんにちはー」

しかし、男の子はそれしか言わない。

「こんにちはー」

「こんにちはー」

「こんにちはー」

……何とも不気味。同じ笑顔で、一定のリズムで繰り返す男の子。

「……どうした?誰か来たのか」

はっとして振り向くと、仕事着のボタンを閉めながら、アキラが怪訝そうに玄関に顔を出して私を見ていた。

「開けてやれば?」

「いや、でも何か変だよ」

私らの会話が聞こえていないのか、男の子は淡々と「こんにちはー」と繰り返している。

アキラも暫し男の子を見ていたが、痺れを切らした様子でいきなりチェーンを外した。

「……どーした?」

アキラがガラリとドアを開けた途端、男の子は口を閉じた。

そこで初めて、男の子の他に母親と父親の姿を確認した。

「……どうも。〇〇〇の裏に引っ越してきたノムラと申します……」

父親が口を開き、母親が窶れた笑顔で一礼する。

「……初めてまして。カミヤです」

カミヤはアキラの苗字だ。私は自分の名前が好きじゃないから、ずっと初対面の人にはカミヤと名乗っていた。元々、アキラと入籍をする予定だったから、アキラも気にしていないようだった。

父親は男の子の肩を軽く叩き、挨拶しなさいと叱責する。

さっきいいだけ連発していたじゃないかと、内心呆れていると。

「……えっと……こん、にちは」

男の子は抑揚のない声で小さく言った。

さっきの声とは、大違いな声音で。それっきり押し黙る男の子の頭を無理矢理下げさせて、父親は言う。

「タクといいます。1人息子で……」

「可愛いお子さんですね。わざわざ、挨拶までご苦労様です」

ボソボソと自己紹介する彼らに、アキラが作った笑顔で対応する。

「タク、これ渡して差し上げて…」

母親が平たい小包を男の子に持たせ、男の子は私に小包を差し出してきた。

「つまらない物ですが、宜しければ是非」

母親はまた一礼し、私も戸惑いながらも一礼する。アキラと少しだけ世間話をした一家は、5分ほどで帰って行った。

または、次の家に行ったのかも。

「〇〇〇の裏って、あの神社の裏だよな?」

一家が見えなくなってから、ドアを閉めてアキラが言った。

「うん。あのボロ屋だろ」

「いつ引っ越してきたんだ?俺の通勤通路、ボロ屋の前を通るけど、昨日までいなかったぞ」

その言葉に小首を傾げながらも、私は小包を台所に置き、そのままアキラを見送る。

「んじゃ」

「気をつけてなー」

 「お前も戸締まりしっかりしとけよ」

いつも通りに見送って、その後は自転車でちょっと遠いスーパーへと足を運ぶ。今夜のご飯は何にしようか。

そんなことを考えながらも、買い物を済ませて自転車に乗る。緑豊かな風景を満喫しながら、自転車を漕いでいると。

「こんにちはー」

「――っ!?」

びっくりした。小さい公園の前を通り過ぎようとした時、いきなりあの声が聞こえたのだ。

慌てて見渡すと、公園のブランコを漕ぐタクくんの姿。

「……1人?」

微妙な空気のまま、私は尋ねる。

しばし沈黙があり、やがてタクくんは貼り付けたような笑顔で、ふと私を見上げた。

「ボクの指ねえ、6本あるんだ」

唐突にタクくんはそう言った。

「だけど、今はもうないんだ」

「……へえ……そう……なんだ…?」

意味が分からない。

「何でないの?」

「あげちゃったから」

そう言うタクくんの両手をさりげなく見たが、特に変わったところはない。指は5本、両手にあるし。

「ボクの指、気に入ってくれるかなぁー」

満足そうに笑う男の子に、また悪寒を感じた。私は相手にするのをやめて、さっさと自転車に跨がり、また漕ぎ始めた。

何だよ、あのガキ。気持ち悪い。指が6本あった?あげたって、どういう事だよ?

たまにチラッと振り返ってみたが、タクくんの姿はなかった。

……なんだったんだよ、もう。

食材を冷蔵庫に入れて分けながら、溜め息を吐く。

なんか変だ。あの男の子。いや、一家が変なのかもしれないが……。

ふと、顔を上げて視界に入ったのは、あの一家からの差し入れだった。

茶色い小包に、赤いリボンをクロスしてある見た目は別に普通なんだけど。

なんとなく嫌な予感がしながらも、そのままリボンを取る。

箱を開けた瞬間、私はそれを流し台にぶん投げた。

中に入っていたのは、蠢く太く短い指。子供の親指みたいな感じだ。

それが、動いている。ミミズのように、グネグネと。

物凄く吐き気が込み上げてきて、私は流し台で吐いた。

指、あげたって……この事かよ。なにが「つまらない物」だよ。人間の指だろ、どう見ても!

私はすぐさまアキラに電話をかけた。

「も、もしもし!?アキラ!!」

「…..なした?いきなり」

いつも冷静にしてる私がいきなり取り乱して電話するなんて、アキラも相当びっくりしたと思う。

だけど冷静でいられるわけがなかった。写真があればわかるだろうけど、生憎写真を撮るほど頭が回らなかった。

「……それ、本人に返そう」

出来事を全部話すと、アキラがぽつりと呟いた。

「俺はあんまり知らんけど……そういう呪い?とかありそうだし。早く返そうぜ」

「……分かった。返却するよ」

私は小包に蓋をして、すぐにリボンをきつく結び直した。とにかく、返却しなきゃ。

私は自転車に跨がり、籠に小包を雑な手付きでぶち込み、神社の裏へと向かう。

後から思えば、よく1人で返却なんてできたなと思う。

汗だくになりながら、自転車を止めてボロ屋のインターホンを押す。

ビーッ

壊れかけの変な電子音なのは、仕方ないとして。そこで初めて、違和感に気付いた。ノムラの表札がない……。

磨りガラスの玄関の戸に手をかけると、戸はあっさり開いた。鍵すらかかっていない。

「あのー、すみません」とそれなりに声を張りながら、小包を片手にそっと玄関に入った。

そんなに奥まで入る予定じゃなかったが、玄関にも違和感があった。普通、靴箱とか棚に靴が数足あるだろ?それが、全くないんだよ。

それから、やけに静まり返っている。凄く和風な造りで、居間は畳を敷いている。

掃除していないのか、埃だらけ。変だ。そういえば、車がなかったな。それに、家具もない。

今日はまだここで寝泊まりしないのか?色々と考えたが、分からない。

私は半ばパニックになりかけて、失礼ながらも土足のまま、恐る恐る畳に上がった。

埃に蜘蛛の巣。どう見ても、人が住める環境じゃない。家具のない居間で、ぽつりと置いてある箪笥だけが異様に目立っていた。

ちょうどいい。私はこっそり、小包を箪笥に隠し入れた。

もし、アキラの言う通り呪いの類なら、見られないのは好都合だ。

その後は急いで玄関から飛び出し、玄関の戸を閉めて自転車で全力疾走をして、帰宅した。

その夜は何事もなく。

ーーー翌日、大きな変化があった。

「リョウコ、起きろ。昨日のノムラ家が全焼したって。消防車とか警察とか、沢山来てるぞ」

夜勤を終えて朝帰りしたアキラに叩き起こされて、知った事実。

「あの一家、確かに昨日来たよな?」

「来たよな……って。アキラも見ただろ?」

私の問に、アキラは神妙な顔で小さく言った。

「近所の人達に訊いたら、そんな一家は居ないって」

……嘘だろ?

「差し入れを受け取ったのも、俺達だけだったみたいだ。一家どころか、あの家はずっと空き家だったって。ノムラ家の家族を見た人すら居ねえってよ」

「……う、嘘だ……」

本気で冷や汗が流れたの、これが初めてかもしれない。

もしも。本当にあの小包が原因で、ボロ屋が火事になったのなら。あれを受け取った私らの家は、全焼していたかもしれない。

そう思うと恐怖で、でも自分のした事がある意味正しかったと思うと安堵した。

本当に、返却して良かった。

ーーーあれ以来、ノムラ一家を見ることはなくなったが。

私はしばらくの間、スーパーへ向かう途中の公園と、全焼したボロ屋を見ると悪寒が走るのだった。

また、あの無邪気な声音で「こんにちはー」なんて言われたら、次は発狂しちゃうかも。

その時を境に、私は小さい男の子が少し苦手になったんだ。

ーーーーーー

「面白い体験談だね。でも、その時は無事で良かったじゃん」

語り終えた彼女に、興味深い話をありがとうと伝えると、カミヤは薄く笑った。

「楽しんでもらえたなら何より」

そう言って、窓際の私の机に腰をかけていた彼女は、薄ら笑いのまま窓の外を指差す。

つられて外を見て、一瞬固まった。

本家の駐車場の前にある電柱。その隣に、小さい男の子が立っていた。

両手で箱のような物を持っている。

こちらを見上げて、口角を吊り上げている。何より驚いたのは、目が白濁していた事だった。黒目がなく、白い眼球なのに何故かこちらを真っ直ぐ見ているのが直感的に分かった。

「え、いや、おるやんけ」

男の子を凝視したまま素直に呟くと、カミヤは隣で「ごめんね」と言った。

「この話するとね、憑いて来ちゃうんだ、あの子」

囁くようなノイズ混じりの声音と共に、焦げた臭いが漂った。

ゾワッと背筋が総毛立ち、咄嗟に振り向くと、目と鼻の先に真っ黒焦げの人影が2つ立っていた。

押し退けるようにして部屋を出て、リビングに向かって走る途中、プルルルルルと本家のインターホンが鳴った。

本家のインターホンはそれなりに古い型式なので、モニターとかもない。受話器のみで応答するタイプのやつだった。

もうその時点で凄まじく嫌な予感がして、インターホンは出ずに階段を下りた。

階段の角から覗けば、玄関のインターホンの位置にどんな人が立っているか小窓から見える造りになっていたため、角から小窓に向かって視線を送る。

そして、早々に後悔した。

小窓に箱を持った男の子が貼り付いている。普通の男の子なら、頭がギリギリ見えるくらいのはずが、もうそれはそれは堂々と全身が見えるくらい真正面に貼り付いていた。浮いていない限り有り得ない。

白濁した目なのに、ギョロギョロと動いていて、私を探しているような気がしてめちゃくちゃ怖かった。

別に深夜の体験でもなく、時刻はまだ夕方だった。16時頃で、家族は1階で仕事中。2階には私1人だった。

背後から、焦げた臭いが近付いて来る。

ヤバいと思った時、何故かふと異様な睡魔に襲われた。ここで寝たらもっとヤバいかも、と思いつつ、誰のセンスだか分からない、階段の角の壁に掛けられたクソたらデカい森林デザインのタペストリーにもたれかかるようにして座り込んだ。

プルルルルル、とインターホンは鳴り続ける。焦げた臭いも強くなった。

『貰って、貰って』

こんな言葉が背後から聞こえて、睡魔が限界に達した。寝落ちる直前、誰かに肩を掴まれたのを覚えている。

森林デザインのタペストリーから、異様に長い真っ白な手が突き出ていて、それが私の両肩を掴んで引っ張った。

そこで、私は寝落ちたようで、その後のことは全く記憶にない。

しばらくして母親に「あんた何してんの?こんな所で。風邪ひくから2階上がんなさい」と叩き起されるまで、気絶ついでに爆睡していた。

その日、私の守護達が全員居なかったから、彼らに訊いても皆知らないと言う。

ただ、数日前からカミヤと名乗るカップルが居たのは知っていたそう。最初から真っ黒焦げで、部屋の隅にずっと立っていたが、特に行動力もなさそうだから放置したそうだ。

しかし現在、外のツリーハウスに白くて長い手だけが視える霊体(守護勢)がいることから、もしかしたら偶然通りかかったそいつが助けてくれたのかもしれないとこっそり思っている。

あの日から、私は野良の幽霊に心霊体験を尋ねるのをやめた。

私が死に呼ばれるまで。

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