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! ひーっ、腹痛ェ……! 見やしたか今の土方さんのツラ! マヨネーズの代わりに鼻血吹くんじゃねーかって勢いでしたぜ!」
土方が浮足立った足取りで部屋を去った直後、総悟は持っていたカメラを畳に放り出し、転げ回って爆笑した。
その瞳には涙さえ浮かんでいる。
「総悟さん……笑いすぎですって……。っていうか『退子』って何ですか! 名字までセットで『山崎退子』じゃないですか! バレるに決まってるでしょ!」
山崎は真っ赤な紅を引いた唇を震わせ、泣き出しそうな顔で訴えた。
しかし、総悟は拭った目尻の涙を指で弾きながら、獲物を定めるような冷徹な光をその瞳に戻す。
「いいや、バレやせん。あの人は一度『恋』ってフィルターがかかると、マヨネーズ以外の視界が全部ボヤける単細胞ですからねィ。……さて、山崎。ここからが本番だ」
総悟は立ち上がり、山崎の肩にポンと手を置いた。
その手はどこか優しく、けれど逃げ場を塞ぐように力強い。
「いいですか。明日からあんたは、昼間は地味な密偵『山崎退』、そして夜、あるいは土方さんの呼び出しがあった時は、絶世の美女『山崎退子』として二重生活を送ってもらいやす」
「二重生活!? 局中法度は!? 武士道はどこ行ったんですか!」
「武士道より面白いもんが目の前にあるんでね。……いいかい、退子さん。土方さんは今、あんたのその『物静かな佇まい』にガチ恋してやす。だから、余計な口は利くんじゃねェ。返事は小刻みな頷きと、時折見せる困ったような微笑みだけで十分だ。それだけであのマヨラは勝手に妄想を膨らませて自爆しやす」
総悟は楽しげに、退子の乱れた髪筋を指先で整えた。
「連絡は全部この俺を通させやす。土方さんがデートに誘ってきたら、俺が場所を指定する。あんたはそこで、ひたすら可憐に、儚げに、土方さんの胃に穴を開ける勢いで魅了し続けりゃいい。……もし正体がバレそうになったら、その時は……」
総悟は山崎の耳元まで顔を寄せ、熱を含んだ声で囁いた。
「俺がその唇、塞いで黙らせてやりやすから。……安心しなせェ」
「……っ!」
総悟のあまりに近い距離感と、その瞳に宿る本気とも冗談ともつかない熱に、[[rb:山崎 > 退子]]の心臓が大きく跳ねた。
土方への恐怖とはまた違う、逃げ場のない熱が背中を駆け抜ける。
「さぁ、密偵の腕の見せ所だぜ、退子さん。……土方十四郎を、完膚なきまでに骨抜きにしてやりやしょう」
こうして、真選組庁舎を舞台にした、史上最も美しく、そして最も不毛な
「一人二役の潜入捜査」
が幕を開けた。
コメント
1件
あらあら、面白すぎますね……! 総悟の完全に遊び心で動いてるところと、真面目な山崎が振り回されるギャップがたまらない。でも総悟が耳元で「その唇、塞いで黙らせてやりやす」って……あれ? 土方さんじゃなくて山崎のこと骨抜きにする気なんじゃないですか?(笑)続きが気になります!