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#さくなべ
──翌朝。
始業前の静かなオフィス。
俺はわざと早く出勤し、課長室のドアをノックした。
💛「……どうした」
💙「昨日の件なんだけど」
少しだけ間を置く。
💙「引き受ける」
💛「……本当か?」
わずかに緊張が解けた顔。
💛「ありがとう」
素直な声だった。
💛「じゃあ今日から頼む」
💛「前から付き合ってたことにしよう」
💙「いや、設定いるか?」
💛「半年くらい前から、でどうだ」
💙「勝手に決めるな」
思わず笑いそうになるのを堪える。
💙「で?」
💙「報酬は?」
💛「……考えておく」
少し岩本の口元が緩む。
💙(なんだよ、その顔)
調子が狂う。
──────────────
──仕事終わり。
💛「渡辺、帰るぞ」
自然すぎる声。
💙「……え?」
💙「……ああ、はいはい」
並んで歩く。
女性社員たちのざわめきが聞こえる。
「え?」「あの二人って……」
「なになに?……」
振り返らない。
岩本が、ほんの少しだけ距離を詰める。
💛「腕、組むか?」
真顔で言うもんだから少し吹き出す。
💙「ふっw調子乗るな」
そう言いながら。
少しだけ、肩が触れた。
不思議と、嫌じゃなかった。
むしろ——
少し、心地いい。
──────────────
──帰り道。
💙「もうこの辺でいいだろ。……じゃ、また」
背を向けた瞬間。
💛「待て」
手首を掴まれる。
💙「……っ」
💛「甘いもん、食いに行く」
💙「は? 一人で行けよ」
💛「こういうところからだ」
💛「偽装は日常の積み重ねだろ」
💛「慣らしていかないと、不自然になる」
真顔で言うな。
💙「……はぁ」
結局、並んで歩く。
──────────────
──昔からある夜営業の喫茶店。
運ばれてきたチョコレートケーキ。
フォークを入れた瞬間、
岩本の表情が、わずかに緩む。
💛「いただきます」
一口。
💛「美味しい…」
💛「やっぱここしか勝たん…」
そんな顔して言うな。
そのいかつい身体で。
────
💛「ルールを決めよう」
💙「え?」
💛「退勤が重なる日は一緒に帰る」
💛「月に何度かは食事」
💛「噂を否定しない」
淡々としているくせに、
どこか本気だ。
💛「……もちろん、奢る」
💙「そこ重要?w」
💛「重要だ」
少しだけ笑う。
💛「あと」
💛「周りに何を言われても、動揺するな」
💛「恋人らしく、自然に」
💙「……めんどくせぇな」
💛「頼む」
柔らかく笑う、その顔。
高校の頃は、こんな顔しなかった。
いや——
俺が、見てなかっただけか。
胸の奥が、静かに揺れる。
これは契約だ。
ビジネスだ。
なのに。
どうしてこんなに、落ち着かないんだ。
つづく。
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