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シンヤとチンピラたちの諍いに、魔導師アーシアが割って入った。
しかし今度は、そのアーシアがチンピラにイチャモンを付けられている。
「私が不正した、ですって……?」
「ああ、そうだ。どうせ、親のコネでランクを上げてもらったんだろ?」
「もしくは、田舎のギルマスにでも股を開いたか?」
「地方じゃそれで通じたのかもしれねぇけどな。このオルドレンじゃ、通用しねぇぜ?」
中規模以下の街や村で認定できるのはCランクまでだ。
逆に言えば、Cランクまでであれば各支部のギルマス権限で好き勝手に認定できるということでもある。
実力的にはDランク上位でも、実績や信頼に富んだ者を特別にCランクに上げることぐらいはよくあることだ。
そしてそれは、必ずしも間違った対応ではない。
しかし一方で、有力者とのコネや夜の接待によりランクを上げる者も一定数は存在していた。
それらの存在は、実力を重視するオルドレンの冒険者たちにとっては、侮蔑の対象であった。
「くっ、こいつら、私を侮辱して……っ!」
チンピラ冒険者たちが言ったことに、アーシアが歯噛みする。
「「「ギャハハハ!!」」」
「…………」
シンヤは、目の前の少女に対して、憐れみの感情を抱いていた。
恐らく、彼女は本当に優秀な魔導師なのだろう。
だが、その見た目のせいで、チンピラ冒険者たちから軽んじられてしまっているのだ。
「なぁ、君……」
シンヤはとりあえず、アーシアに声を掛けることにした。
軽んじられている者同士、ひょっとしたら仲良くなれるかと思ったからだ。
それに、おそらくは生粋の魔導師である彼女の知識や技量にも興味があった。
だが――
「話しかけないでくれる? 下賤な者」
「えー……」
シンヤは思わず脱力してしまった。
シンヤが声をかけた瞬間、まるで汚物を見るような目で見られたためだ。
「私は誇り高き魔導師アーシア! 噂には聞いていたけれど、この街の冒険者ギルドはこんなゴミカスばかりなのかしら!?」
アーシアの言葉に、周囲の空気が変わる。
「おい、てめぇ……。今なんつった?」
「あぁ!? もう一度言ってみろよ、クソアマァッ!」
「ふざけたこと抜かすんじゃねぇぞ、このアマぁっ!」
「そうだそうだっ!」
チンピラたちが激高し、アーシアへと詰め寄る。
(助けた方がいいのか? いや、彼女の魔力が――?)
シンヤは思わず助けに動きかけたが、思いとどまる。
何も、アーシアに拒絶の目で見られたことが理由ではない。
彼女から、魔法発動の予兆が感じられたためだ。
「くらいなさいっ! 【スタン】!!」
「「「なっ!?」」」
アーシアが呪文を唱えると同時に、電撃が放たれた。
それは床を這うように広がり、チンピラたちを襲う。
「「「「あばばばば!!!」」」
「ぎゃあっ!!」
「ぐわぁっ!」
チンピラ冒険者たちが感電し、次々と倒れていった。
「ふふんっ。下賤なゴミ共は、這いつくばっている姿がよく似合うものね」
アーシアが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ほぅ……。悪くないな……」
「へ?」
アーシアが間の抜けた声を出す。
思わぬ方向から声が聞こえたからだ。
それは、彼女の真下だった。
「この痺れ具合、なかなか良いじゃないか。ふむふむ……」
アーシアの真下に寝転ぶ少年――シンヤが、ぶつぶつと言いながら、身体の状態を確かめていた。
痺れて完全に倒れ込んでいる他の男たちとは違い、シンヤはそれほど深刻なダメージは受けていない様子だ。
自らを襲った”痺れ”という状態以上を興味深そうに観察している。
人間は、体内や空気中に存在する魔素を使用して魔法を発動する。
それは、下級の生物やそこらの自然物であれば、そのままの威力でそれらを粉砕しダメージを与える。
だが、対象物が人間、中級以上の魔物や特殊な物質であれば話は別だ。
それらが持つ魔素の量によって、魔法の威力は減衰されてしまう。
要するに、”魔法抵抗力”というような概念があると考えていい。
「しかしなるほどな。痺れさせることに特化して、魔力抵抗を少なくしているのか」
アーシアが発動した雷魔法。
通常であれば、複数のCランク冒険者を無力化することはできない。
彼らはチンピラではあるが、魔法抵抗力もそれなりにはあるからだ。
しかし、雷魔法に少しの工夫をすることで、彼らを倒すことができるようにる。
工夫というのは、すなわち”相手を過度に傷つけず、痺れさせるだけ”というイメージを魔法に込めることである。
魔法抵抗力というのは、各人の本能による抵抗が大きい。
例えば熱い物に触れたときに思わず手を引っ込める現象のようなものだ。
自身を害する類の魔法に接した瞬間、無意識レベルで各人の体内にある魔素が移動し、他者の魔法を迎撃し中和するというイメージである。
「……っ!? 何であなたは平気なのよっ!?」
アーシアは焦りながらも、次の魔法の準備を始める。
それに対するシンヤの動きは――