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弐話
「おっ!やっと自殺者発見!!」
そんな声が聞こえた。ゆっくりと振り返ると其処には女の人が立っていた。歳は20代前後だろう。
「やぁやぁ、自殺は順調?」軽々とした口調で聞いてくる。何故、此処に人が居るのだろう?早く帰って欲しいものだ。一人で静かにこの世から去ると云う目的が果たせない。そう願っていたのにその女は近くの岩に座る。彼女も酒を持っていて私の様に夜空を見ながら飲む。随分長く此処に居座るようだ。
「ん〜!お酒美味しい!」
正直言って五月蝿かった。しかし一つ、聞きたい事があった。どうして、私が自殺者だと分かったのだろう?それを問いかけてみる。
「ん〜、なんでかって言うと帰る気がないから。こんな山奥なのに、お酒と寝袋一つ。食料もおつまみだけ。こんなん帰る気なんて絶対無いでしょ?」
そう言って私のおつまみをぱくりと食べる。成程、確かに納得できる。その女は聞いてもないのに名前を教えた。 その名を鈴(すず)と言った。まぁ向こうが名前を教えたからと言って私が名前を教える義務は無いので”そう”とでも言っておいた。
しばらく時間が経ってお酒も回ってきた為、そろそろ寝ようかと寝袋に入った。
「あれ?もう寝るの?じゃあ私も寝る。」
と、私の隣で寝袋の中に入った。心の中では私は落胆していた。何故か?静かに一人で死ぬ。それが全て達成されなかったからだ。そう思っていると女はため息をついた。私はため息をつく理由が分からなかった。普通ならどうでも良いのだが何故か、今回は聞きたかった。だから聞いた。”何故、ため息なんかついてるの?今から死ねるのよ?”と
そうすると女は答えた。
「私ね、ずっと死にたかったの。何十年も前から。ずっとずーっと。でも、首吊りだとロープが劣化してて、ちぎれちゃったり、川で溺死しようとすると突然通りかかったレスキュー隊員に助けられちゃうし。奇跡が何回も、何回も起きて。自殺、実は何百回やったか覚えてないの。それくらい、私、死ねないのよ。だから今回も死ねないのかなって」
何と残酷だろう。私はそう思った。死にたいのに、死ねない。これ程残酷な事はあっても良いのだろうか。まぁ気の毒だとは思うがここで深く掘り下げても相手に不快感しか与えない。なので”そう…”と伝えといた。そうすると女は笑って
「じゃあおやすみ!いい夢を」
そう言って反対を向いて寝てしまった。やっと静かになったと思って夜空を見ながら私は静かに目を閉じた。