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参話
朝、私は目覚めなかった。毒を飲んだのでまぁ当然だろう。だが彼女、鈴は生きてしまった。念の為と持ってきたらしきスマホを見ると時間は朝の7時だった。鈴はまたため息をつく。
「はぁ、毒も駄目か。」
リュックからノートとペンを取り出す。表紙には”自殺法”と書いてある。そのノートの中に書いてある毒という言葉の上にバツを書く。ノートには色々な自殺法が書いてあり、その大半にバツ印が書かれていた。私は昨日の夜の会話で感じた違和感の正体が分かった気がした。彼女はきっと”不老不死”なのだろう。彼女は20代前後にも関わらず”何十年も前から死にたかった”と言っていた。しかも自殺には準備がいる。死にたくなった時期がいつかは知らないが、何百回もやるには時間が足りない。確かに、不死なら死ねるかどうかは不安にもなるだろう。
「やっぱり、飛び降りか…」
ノートを眺めていた彼女がボソリと言った。飛び降り…死ねない彼女にとってはとてつもなく怖いことであろう。死ねなかった場合、身体がぐちゃぐちゃで形も残らない。
「行こ。」
そう言って女は自分の荷物を持ち、歩いて行った。私は明日からはこの世界では無い、別の世界で暮らすのだろう。これからどうなるかは分からない。彼女の未来も私の未来も。今、死にたいと思っている人は沢山いる。今この時間に、新しい生命が生まれ、また生命が失われている。この世界で辛いと思うことはいくらだってある。逃げたければ逃げればいい。死にたければ死ねばいい。誰かに”私死のうと思う”と打ち明ける人はまだ心の奥で生きたい。誰かに止めてもらいたい。そんなことを思っているのだろう。私もその時に信頼できる人に相談をしていたら人生を謳歌していたかもしれない。
でも過去は過去。
未来は未来。
全くの別物である。
私は鈴を静かに見ていた。