テラーノベル
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佐伯の足音が完全に消えたあとも、
ひよりの胸の奥では、
さっきの記憶のざわつきがまだ残っていた。
陽はひよりの肩に手を添えたまま、
静かに息を合わせてくれている。
「……ひより、大丈夫。
もう誰も来ないよ」
その声に、
ひよりの指先がようやく少しだけ緩んだ。
ひよりは深く息を吸い、
震える声で呟いた。
「……陽くん……
さっき……守ってくれて……ありがとう……」
陽は首を横に振った。
「守ったっていうより……
ひよりが怖がってたから、ただ間に入っただけだよ」
その言い方があまりにも自然で、
ひよりの胸がまた熱くなる。
(……陽くんは、いつも……)
ひよりは俯いたまま、
言葉を探すように唇を震わせた。
「……あの人……
小学生のとき……同じクラスで……」
陽はひよりの言葉を遮らない。
ただ、続きを待っている。
ひよりは喉を詰まらせながら続けた。
「……思い出したくないこと……
いっぱいあって……
名前を言われた瞬間……
全部、戻ってきちゃって……」
声が震える。
涙が滲む。
陽はそっとひよりの手を包んだ。
「……そっか。
思い出したくないこと、言われたんだね」
ひよりは小さく頷いた。
「……ごめん……
陽くんに……こんな……」
陽はすぐに首を横に振った。
「ひより、謝らなくていい。
怖かったんだよね。
それだけで十分だよ」
その言葉に、
ひよりの胸の奥がじんわりと温かくなる。
(……陽くん……
どうしてこんなに……)
ひよりは涙をこらえながら、
かすかに陽の袖を掴んだ。
「……陽くんが……いてくれて……
ほんとに……よかった……」
陽は優しく微笑んだ。
「俺も……ひよりが無事でよかった」
夕暮れの風が二人の間を通り抜ける。
ひよりの震えは、
陽の隣でようやく静かになり始めていた。
でも──
胸の奥の痛みは、まだ完全には消えていない。
それでも、
陽の手の温度だけは確かにそこにあった
白山小梅
白山小梅
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