テラーノベル
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男が去っていった後、シヴェルは肩に刺さった氷の針を肩から抜いた。その鋭い氷を見ていると後ろ馬の足音と声が聞こえてきた。
「シヴェルさん!って…それ!どうしたんですか!?」
馬から降りた迅はシヴェルの怪我の様子を見て目を大きく見開いていた。
「あぁ肩の傷か。大丈夫だ、このくらい大した事ない」
「でもすごい出血してますし…その、応急処置ぐらいなら自分も出来るんですけど…」
「…じゃあ、頼む」
応急処置をしてもらった後、拠点に戻った。
拠点で負傷した他の兵を治療していたノアがシヴェルと迅が帰ってきた事に気づき、シヴェルの傷を見た途端、焦って二人の方へ走って近づいた。
「敵の攻撃を食らった。ノア、すまない治療してもらえるか」
「勿論です!はやく建物の中に入って下さい!」
建物の中に入り、シヴェルは服を脱ぎ、傷を見せた。シヴェルの身体には傷跡が沢山あった。
「痛そう…す、すぐ治療しますね!」
ノアは傷の近くに手を近づけ、治療魔法を使い始めた。魔法詠唱をした後ノアの手が白く輝き、傷が少しずつ治っていった。ノアは何か言いたげな顔をしながらシヴェルの傷をじっと見つめていた。
「…あの」
治療が終わり、シヴェルの顔を見つめて話しだした。
「さっき、お一人で敵の強い方と戦うと言っていたのを聞きました。皆さん心配していました。シヴェルさんは、何故そこまで一人で頑張ろうとするんですか?」
「もっと周りを頼って下さい。シヴェルさんは
さんはお仲間に恵まれてるんですから」
その言葉を聞いたシヴェルは顔を逸らし、俯きながら喋りだした。
「…すまない」
今の自分の発言は彼のトリガーになってしまっただろうかとノアは酷く反省した。シヴェルのその一言は短いが重く、地の底に沈んでしまいそうなその言葉に、色々な感情が込められているのをノアは感じた。
「少し、一人にさせてくれないか」
「…分かりました」
ノアは部屋を出ようとした時、振り返り、シヴェルを見た。俯いているシヴェルの顔は長い前髪に隠されていた。
ノアが去った後、シヴェルは布団に寝転がり、縁側の向こうの外を見た。その時の空の色は、雲一つない真っ赤な夕焼けだった。
約八百年前のあの戦争の終わりの頃も雲一つない、全身を真っ赤に染め上げてしまいそうな夕焼けだった。いや既に真っ赤に染められていたのかもしれない。
シヴェルが起きたのは時計の短針が零時を指していた頃だった。どれだけ眠ろうとしても目が完全に覚めてしまって眠れなくなってしまった。シヴェルは眠くなるまで拠点の近くを散歩してみることにした。
自分の手から灯りの炎を少し出しながら歩いていると、槍を振る音が聞こえてきた。その音を辿ると、迅が素振りをしていた。
「…シヴェルさん?どうしたんですか?こんな夜遅くに」
「目が覚めて眠れなくなってしまってな」
「あはは、じゃあ自分と一緒ですね」
近くの丁度いい岩に二人は腰を掛け、迅は空を見上げながら話しだした。
「自分も夜中に目が覚めちゃうことよくあるんですよ」
「何か夢見ちゃって… でも起きた後は夢の内容覚えてなくて。なんか夢を見たって感じは分かるんですけど」
「もやもやして寝れないから、すっきりするまでいつもここで素振りしたり、星眺めたりしてるんです」
「…結局全然スッキリしないから次の日寝不足になっちゃうんですけど」
苦笑いしながら迅は喋っていた。
「…俺も、よく夢を見る」
シヴェルは迅に話しだした。昔、戦争で部下達が戦場で次々と亡くなっていく情景、親しい部下が自分を庇い、目の前で亡くなった情景をずっと夢でも見続けていることを。
彼に言ったところで困らせるだけだと分かっていた。だが、何故か口が先走ってしまった。同じ境遇の人を見つけて嬉しかったのだろうか。愚かだ。シヴェルはそう思いながら、さっき言ってしまった事に後悔しながら俯いていると、迅がシヴェルの手を取って喋りだした。
「自分、シヴェルさんの今までの苦労とか…全然わからないですけど…でもシヴェルさんが困ってるなら、少しでも力になりたいです」
「…だから、もし、良かったらなんですけど、シヴェルさんの部下の人達のお話…聞かせてくれませんか?」
シヴェルは驚いたが、何故か彼になら言ってもいいと思った。
「…俺のことを庇って亡くなった奴がいた。そいつが、君に似ていたんだ」
「自分にですか?」
「あぁ、あいつの名前は_」
「リンデルという名だった」
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