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しめさば
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マシューさんが5匹、俺が2匹釣り上げたところで。
「そろそろいい時間だ。7匹も釣り上げれば十分だろう。ホウトン村は100人くらいの小さな村だ。全員で食べたところで、このサイズなら3匹あれば十分いきわたる。あとは船を走らせてから話そう」
確かにどの魚もかなり大きい。
一番小さいのでも、全長80cmで5.5kg。
それ以外はどれも1m超えで、大きいのは1.5mで35kgもある。
「わかりました」
巻いた仕掛けを竿に固定して、竿かけを竿が上に立つ方向に固定して。
「あと、もし出来るなら後ろ甲板をお湯で流してもらえないか。風呂よりちょい熱いくらいの湯がいい。インガンダ・ルマをギャフで仕留めると、どうしても油が出る。そのままにしておくと滑って危険だ」
「わかりました」
確かに血と一緒に、水っぽいのが流れている。
ただ分析魔法で調べてみると、水ではなく油だ。
動物の脂と違って、サラサラした感じで流れやすい。
ただ付着した部分は、確かに滑りやすくなりそうだ。
傷口から血以上に油が流れる魚というのは初めてだ。
それだけ全身が油だらけなのだろう。
しかも脂というより油という感じで、これだけ流れやすいものも、他には見たことが無い。
なんて思いつつ、魔法でお湯を出して洗い流す。
ひととおり片付けて船室に入り、アクラめがけて船を動かしたところで。
「インガンダ・ルマについては、儂の取り分は一番小さいのの半身だけでいい。美味いんだが、少しでも食べ過ぎると酷い目にあう。だから市場に出すことも出来ん。脂がとんでもなくのっていて、生でも揚げ焼きでも美味い魚なんだがな。
だからエイダンも、自分で試しに食べるのは半身分、それも1日に指3本分くらいまでにした方がいい」
酷い目にあう、か。
「酷い目とは、どうなるんですか」
「下痢になる。ただの下痢じゃない。絶対に我慢できず、漏らしてしまう下痢だ」
そこまで聞いたところで、俺は思い出した。
前世でこの魚が、ウィークリーバカンスフィッシュと呼ばれていた理由を。
マシューさんの説明は、更に続いている。
「ただの下痢ならまだいい。インガンダ・ルマを食べて起きてしまう下痢は、意識しないうちに漏れちまう。出そうだとか、出たという感覚は一切ない。パンツを脱ぐ、あるいはズボンに染み出てきて初めて気づく。そんな厄介な代物だ」
そう、ウィークリーバカンスフィッシュをある程度以上食べると、お尻からサラサラの赤い油が漏れてしまうようになる。
漏らさないように意識しても努力しても無駄。
漏れることを意識すらできないうちに、パンツなりズボンなりに赤い染みがついてしまう。
そんなの外出時にやってしまったら、そしてそれを誰かに見られたら……
何というか、社会的に死ぬだろう。
しかし食べてしまった後はもう、漏れるのを防ぐ方法はない。
身体の中から完全に外に出るまでの約1週間、我慢するしかないのだ。
そういう意味でついた別名が、ウィークリーバカンスフィッシュ。
食べてしまえば1週間お休みという意味で。
この世界でもその知識の通りの魚なのか、一応確認しておこう。
「ひょっとして食べ過ぎると赤い油が出るという魚ですか、これが」
「知っておったか。その通りだ」
やっぱり……
でももしそうならばだ。
「そんなの猫獣人は、どう薬にしているんですか?」
「わからん。でも生で食べられる状態が必要らしい。儂も釣った後は、冒険者か運搬人に頼んで運んでもらうだけだったからな。それ以上は知らん。
ただ、確かに味は美味い。だから何とかして漏れることなく食べようと、バラモが挑戦しておったがの」
結果は聞かなくてもわかる。
安全に食べる方法が開発されているならば、マシューさんが教えてくれているだろうから。
でもそれなら、バラモさんにもお土産としてもって帰るとしよう。
カラマロももちろん持って帰るけれども。
◇◇◇
マシューさんとは、港で別れた。
「もう少し準備をした後、漁師として完全復帰するからよ。でもエイダンならいつでも歓迎だ。海に出ているかもしれねえけどよ、事務所にくれば連絡が取れるようにしておく」
そして冒険者ギルドに行って、確保していた部屋で寝て。
翌朝はゆっくり起きて、魔法で身だしなみを整えた後、冒険者ギルドの受付へ。
ホウトン村は、アクラから50kmくらい南東にある。
だからここのギルドで依頼を受け付けて、ホウトン村へ行き、インガンダ・ルマを渡してから、ドーソンに帰る方が効率がいい。
次の依頼の話し合いは明日。
だから今日中には、ドーソンに向かわなければならないけれど。
朝一番の混んでいる時間が終わったからか、受付は空いていた。
なので手順通り該当の依頼票を外して、そして受付へと持っていく。
「すみません。この依頼のインガンダ・ルマを釣り上げたので、受付をお願いしたいのですけれど」
「はい……あ、これは、少々お待ちください。担当者を呼んで参ります」
何か前も似たような感じがしたな。
そう思いつつ、とりあえず深く考えずに待つ。
一分ほどで、何となく予想通りの属性の職員が出てきた。
猫獣人、もちろんミーニャさんではない。
もう少し年長ですらっとした、お姉さんという雰囲気の人だ。
ミーニャさんとクリスタさんの中間、猫獣人である分ミーニャさん寄りという感じだろうか。
「お待たせしましたのニャ。担当のマーニャなのニャ。それではこの後は、面談室で話すのニャ」
相手は違うけれど、やっぱり既視感があるやりとりだな。
そう思いつつ、猫獣人のお姉さんの後をついて面談室へ向かう。
ドーソンのと同じような造りの、4人定員くらいの面談室に入った後。
「エイダンさんについては、実はミーニャから連絡が来ているのニャ。今日あたりインガンダ・ルマを持ち込むだろうということで、待っていたのニャ」
えっ!?
連絡を取れるのは問題ない。
前世では通信用の魔道具や神具は、国や大きい組織では普通に使われていた。
技術水準が同じくらいのこの世界でも、使われていて当然だろう。
でもミーニャさん、予知魔法なんて使えないよな?
そもそも魔法使いではなく戦士だし。
あと一応、こっちを確認しておこう。
「マーニャさんは、ミーニャさんとお知り合いですか?」
「妹みたいなものなのニャ。ホウトン村は小さい村ニャから、全員が家族みたいなものなのニャ。年齢は10違うけれども、良く知っているのニャ。小さい時におしめを替えたこともあるのニャ」
なるほど。
※ インガンダ・ルマを食べた後の症状については、『バラムツ 失格』で検索すると、いろいろとわかるかもしれません。もちろん世界が違うという設定なので、インガンダ・ルマとバラムツ、アブラソコムツが全く同じかはわかりませんけれど……