この作品はいかがでしたか?
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ひそひそ。
「あーん、寝顔可愛いぃぃぃ」
「守りたいよね、尊すぎ、むり、しんどい」
「てか高等部のななもりくんとさとみくんとどういう関係なんだろ、気になりすぎる」
「なんか二人に追っかけられてたよね?」
「ね。ってか仲いいのしらなかったぁ。え?ってことはこれからスリーショット拝めるってこと?」
「え、なにそれやばくない?」
「やばい、やばいよ。想像しただけで息苦しいもん」
ひそひそ。
僕の前の席には有名人がいる。”ジェル”という名前のスタイル抜群のイケメンくん。イケメンなのにその口から発せられるのは甘い甘い声。どこか俯きちにぽそぽそと喋るその姿に誰もが庇護欲を掻き立てられ、噂が噂をよんであっという間に有名人になった。
本人はどうやら声とかをコンプレックスに思っている節があるようだ。だから俯きがちだしぽそぽそ喋っているようだけれど、1年から同じクラスで割と彼と話す僕は純粋にもったいないな、と思う。
そんな彼の性格やらと汲み取ったのか高等部の有名人に対してはざわざわと反応する子たちも、彼に関してはひそひそと静かに見守っているようだ。だからか自分に向けられているたくさんの感情を彼は知らない。なんなら向けられている感情の逆、マイナスのイメージを自分に思っているのかもしれない。
ざわっ。
「あ、噂をすればあの二人よ?」
「お昼休みだけど一緒にいるの珍しいね?」
「ねぇ、こっち向いてる」
「ってことは…?」
ざわっ。
クラス中の視線を浴びて居るのはもちろん中等部の有名人。僕の前の席でいつものように音楽を聴きながら眠っている彼。
ぱちっ。
夢の中にいた彼が目を覚ました。その瞬間見守っていた生徒たちは何事もなかったように日常を演じる。伏せていた机から起き上がって周りを見渡したようだが、女子たちが窓際に集まってるの見て頭がそちらへと動く。
「ぁ…」
あの二人が目に入ったらしく小さく声を上げた。二人は彼の視線に気づいたらしく思いっきり手を振って、中等部と高等部の境まで歩いてきた。
「ジェルくんお弁当ご馳走様!」
「うまかった、さんきゅなージェル!」
よくとおる低い声がここまで届いて。
ざわっ。
高等部の有名人から放たれた言葉は、中高の女子たちにかなりの衝撃を与えた。過去一あたりが騒がしくなる。
「え?どういうこと?」「お弁当っていってた?るぅとくんがあの二人に作ったってこと?何それ聞いてない」「嫁?嫁なの?やめて?まだ心臓の耐性できててないのよでもありがとうまじ生きてける」
ざわざわ。
みんながちらちらと中等部の彼の様子を伺っている。後ろにいる僕も丸い形のいい頭を眺めてその横顔を見た。
(めずらしい)
恥ずかしそう笑いながら二人に手を振っていたのだ。それを見たクラスの奴らは余計に騒がしくなる。だって彼が笑うこと自体が珍しいから。
去年初めて知り合ったが表情を全然変えないことに驚いたのは僕だけではないはず。顔が整っているから無表情が余計に近寄りがたく彼は一人でいることが多かった。だからこそ僕は興味を持ったし仲良くなりたいと素直に思った。そして笑わせてたいと。
だから少しずつ話しかけに行った。最初は警戒する猫のようだったが次第に僕には自分から話しかけてくれるようになった。初めて笑ってくれた時は純粋に感動した記憶がある。ころころと笑う姿がめちゃめちゃ可愛くて、僕だけがそれを見ることができるのが特別みたいで嬉しかった。
でも。
(あの人たちは簡単に笑顔にできるんだなぁ)
日曜の昨日彼からメッセージアプリで詳細を聞いた。それはあの二人が兄になったという内容のもの。有名人二人の弟になる少しの不安と、頑張る!という可愛らしい決意が綴られていた。だから今日で5日目だということを知っている。
一年かけて積み上げてきたものをさっと奪われていく気がした。兄なんて言われてしまったら太刀打ちなんてできないじゃないか。なんてよくわからない気持ちが心を支配している。
前の席の彼の真っ赤な耳をぼんやりとみていたら顔がこっちを向いていて、眉が下がって顔に助けてと書いてあるのをみて笑ってしまいそうになる。
「どうかしました?」
「にぃに達、嬉しいけどはずかしいよぉ」
話しかけたら、う~なんて言いながら僕の机に腕を置いた。彼の口からでた”にぃに”が新鮮で、それでいてなんか少し嫌な気持ちになってしまう。
けれど。じっと上目づかいになるのは彼の癖で。そして気づく、二人が彼を変えたのだと。
(これは降参)
一年一緒に居たからわかる。先週よりもその視線が絡むことを。俯きがちだった顔が少しだけ上がっていることを。ぽそぽそとした声が少しだけ元気なのを。
ここまで彼に自信を持たせたのがあの二人なら、もう参ったとしか言いようがないのだ。
それに彼が変わったと気づいているのはきっと僕だけ。もうそれでいいか、なんて。上目遣いされただけで思えちゃうのは、やっぱり俺もここの学校の奴ら同様彼を見守っていたからで。
その成長を嬉しいと思うのもまた事実だから。
「けん制、だと思います」
「けんせい…?」
漢字変換できてないような甘いふわふわした声。周りの女子は語彙力がなくなったかのように、可愛いしか言わなくなっているが、あの二人が魅力を引き出す前にこんなもんじゃないんだと一層の事叫んでやりたい。だって先に彼を知ったのは友達の僕。
「学校中に可愛い弟くんを自慢してるってこと。だから自信もって?俺が二人の弟ですって」
そうして、もっと世界は広いよって教えてあげたい。イヤホンで音楽を聴いて机に伏せる世界じゃない世界も、案外いいものだよって。
俯きがちだった彼の少し長い前髪が気になって手で横に梳いてやる。大丈夫だよ、って意味も込めて頬を撫でた。そうすれば彼は恥ずかしそうに笑うから。
「ふふふふ」
ほら。やっぱ”ジェルくん”は笑ったほうが可愛い。
「ありがと、るぅちゃん」
次回♡500
コメント
2件
続き待ってます
続き楽しみ(((o(*゚▽゚*)o)))