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「……なに考えてんだよ? ミク…?」
「うん…ちょっとね…」
思わずクスッと笑うと、
「ちょっと…何だよ?」
と、カイトが怪訝そうに尋ねてきて、
「うん…あの頃のこと、ちょっと思い出したから……」
ふと頭に浮かんでいたことを話して聞かせた。
「あの頃って、キラ時代のことか……?」
カイトが少しだけ遠くを見るように、部屋のドアの向こうへ視線を送る。
「そう、あの頃……いろんなこと、いっぱいあって、カイトもきつそうだったから……」
「ミクルだって、そうだったろ…? いろいろと巻き込まれて……」
申し訳なさげに口にするカイトに、かつてのことが次々と思い浮かんで、少しだけ涙が出そうにもなった。
「……ミク、そんな泣きそうな顔すんなよ。……そうだ、なら俺が、新曲歌ってやるから……」
「えっ…?」
「だってまだ、聴いてないんだろ? ……だったら、俺が今、歌ってやる……」
「歌ってって……ちょっと待ってって、カイト! 」
止める間もなく、カイトがスーッと息を吸い込んで、私の目の前で歌い出した──。
カイトの、伸びのある艶やかで澄んだ歌声が、ストレートに耳に響く。
こんなにもすぐそばで歌を聴かせてもらえるなんてと、胸がときめいて感動すら覚える。
曲調は落ち着いて、静かでやわらかく、しっとりと耳の奥にまで届いた。
「……どう? 歌い出しだけなんだけど……」
首を傾けて訊くカイトに、
「……いい。素敵な曲だね……」
感じたままを答えると、
「……本当に?」
カイトは、心底嬉しそうに顔をほころばせた。